天才の帰還編

第87話 エオルの帰郷

 ゲイル族の里を出て1週間ほど経った頃。


 ジェラルドはエオルの申し出で王都エメラルダスを訪れていた。


「じゃ、私は魔法学院へ顔を出して来るから」


「本当にいいのかよ? 王宮行った方がエオルの将来に有利かもしれねぇぞ?」


「いいの。魔王倒して全部終わったら晴れて王様に会いに行くわよ」


 エメラルダスの国王——オウンス王へと報告に向かうジェラルド達に対し、エオルは魔法学院へ一度帰る事を優先したのだ。


「何時間も拘束されたら嫌だし〜」


「う、それは否めねぇな……」


「王様の話長いもんねぇ」


 苦笑するロナ。その姿を見て、エオルは内心胸を撫で下ろした。



 ロナ、意外と元気そうで良かったわ。ドロシーのこともっと引きずると思ってたけど……。



「師匠〜! 王様と話してる間、僕は外にいていい?」


「ロナがいなかったら話進まねえだろ」


「そんな〜!?」



 ジェラルドのおかげね。本当、仲が良い師弟ねぇ……。



「じゃ、用事が終わったら宿屋まで帰るから。ブリジット? 王様に失礼なこと言っちゃダメよ」


「騎士はそんなこと言わないでありますよ!」


 カシャカシャと飛び跳ねるブリジットを横目にエオルは魔法学院へと向かった。




◇◇◇


 エオルが王都魔法学院の門を潜ると、校内の生徒達はざわめいた。



 ん? なんで騒いでるのかしら?



 ヒソヒソと話す生徒達を横目に教員棟へと向かって行くエオル。そんな彼女に1人の女子生徒が抱きついた。



「リノアス! 元気だった?」



「エオルこそ! サザンファムを救ったって聞いたよ!」


「そ、そんなこともあったわねぇ……」



 え? なんで知ってるの……?



「学院に符呪エンチャント用の宝石を売りに来た商人がね、言ってたの。サザンファムの危機を勇者パーティが救ったって」


 そう。勇者パーティに入るとはこういうことなのである。


 王に認められし勇者の称号を持つ者は必ず人々の目に止まる。兵士を通じて商人へ。そして商人から世界へ広まり、世界中の人々が知ることになるのだ。


 勇者達の功績を。


 しかし、それにはさまざまな尾ひれが付く物である。


「他にもすごい話いっぱい聞いたの! あの伝説の真竜を倒した・・・んでしょ!?」


「え」



 真竜の脱皮を手伝っただけなんだけど……? なんでそんなことに……。



謙遜けんそんしないでよ〜! 商人が言ってたの! 『いや〜あの時の魔導士様は威厳に満ちていた』って」


 は? 誰よソイツ? その時は私とブリジットしかいなかったわよ。なんでその場で見たように行ってるの?


 エオルが炎雷魔法フレイライトニングを習得した真竜ザアドとの話。


 それはサザンファムのアゾム女王にエオルが話したことに起因する。それを謁見の間で聞いていた兵士がひどく感動し、英雄譚のように他の兵士へと触れ回った。さらにそれを聞いた兵士が商人へ。そして、商人は己を良く見せようと『エオル達へと同行していた』と話したのである。つまり……嘘である。


 しかし、その事をエオルが知るよしもない。ひたすら困惑するだけなのである。



「ま、まぁいいわ。ところでリノアス。魔法の習得具合はどうなの?」


「えっとね、火、水、土、風の4元素の初級魔法は扱えるようになったよ!」


「良かったじゃない。さすがリノアスね」


「でも中級魔法はまだ全然ダメで……でも頑張るよ。次の試験までにはなんとか」


 リノアスが楽しそうに笑う。そんな彼女の話を聞きながら、エオルは教員棟へと向かった。




◇◇◇



「……という旅でした。今回で1番の気付きは魔力の性質です。流れ、膜、圧縮……元素を用いた魔法も全て魔力が形を成していました。魔力の構成さえ掴む事ができれば如何様にも応用ができます」


 リノアスと共に教員統括のサラディン教諭へと旅の報告をするエオル。教諭は、彼女の言葉に目を丸くさせた。


「それもう魔法組成学の領域だよ。よくそれを独学で……」


「独学ではありません。経験です。この学院の外に出たからこそだと……私は思います」


「はは。自室に引きこもっていた君がそれを言うとは。嬉しいよ。勇者パーティの申し出を受けて良かった」


 ジェラルドがエオルをパーティにスカウトした時。ほぼ全ての教員は反対だった。しかし、サラディンだけは申し出を受けたのだ。エオル・ルラールの成長を信じて。


「すごいよエオル! 私も追い付こうと頑張ってるけど……全然ダメだなぁ」


「ううん。貴方はすごいわ。貴方なら、きっと立派な魔導士になれる……私が保証するわ」


「エオル……」


 リノアスが目をウルウルと潤ませる。エオルは急に恥ずかしくなったのか顔を逸らした。


「オホン。取り込み中悪いが、そんなエオル君に1つ頼みがあるんだが……」


「頼み? なんですか?」


「ある生徒と話してやってくれないか? 私達も手を焼いて困っているんだ」


「あ……あの人ですか……」


 リノアスの顔が曇る。


「あの人ぉ?」


 エオルが首を傾げた。


 この時エオルは知らなかった。これから訪れる闘いを。



―――――――――――

 あとがき。



 今回よりエオル編です。エオルはどんな活躍をするのか……お楽しみに!

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