第88話 もう1人の天才魔導士

 エオルとリノアスが校舎へと向かう。


 彼女達の先では、ちょうど上級生の講義が終わり人の流れが生まれていた。食堂へと続く人の流れ。彼らに付いて食堂に入る2人。周囲を見渡すと1人の女生徒が目に付いた。


 そこにいたのはエオルより1学年上の女生徒。サラサラのロングヘアに切長の目。他者を寄せ付けない雰囲気に、周囲の生徒達は距離を置いていた。


「あれが問題の先輩?」



 あんな生徒いたっけ? うぅん……旅立つまで引きこもってたから知らなくて当然かも。



 エオルが記憶を思い返していると、リノアスが彼女に耳打ちする。


「メリッサ・バーレイン。私達の1つ上で学年成績トップ。貴方と同じ天才魔導士と囁かれてるの」



 天才魔導士……か。



 エオルの脳裏にサラディン教諭の言葉が蘇る。


 ——我々も困り果てているのだ。確かに恐ろしいまでの知識と力がある生徒だ。それだけならいいのだが……他の生徒を退学に追い込んでいるのだ。我々としても何度も話し合ったが、全くダメだった。



 先生達が無理なら私が話した程度で解決するとは思わないけどね。


 でも……。


 エオルがチラリとリノアスを見る。


「? どうしたの?」


「いえ、なんでもないわ」


 リノアスのような生徒が辞めさせられるなんて嫌だわ。リノアスの努力が不意にされたりしたら……もっと嫌。


 やってみるか……。


 エオルがメリッサへと近づいて行く。


「貴方がメリッサ?」


「……」


「ねぇ」


「……」


「答えなさいよ」


「ごめんなさい。私、程度の低い人間とは話さない主義なのだけど」


 うわ。想像よりずっとヤバイやつね。まぁ、私も昔のこと考えたら人のこと言えないけど。


「程度ってね。話しただけで出せるものじゃないから。サラディン先生から頼まれているんだけど? 貴方が生徒達を辞めさせてるって」


「才能が無い者は道を諦めるべき。そのような者を集めて夢を見させる……それは誇り高き魔法学院がやるべきことではありません」


 メリッサが冷めた目でエオルを見つめた。


「……皆は騒いでいたようですが私は軽蔑しています。臆病者のエオル」


「臆病? なんでよ?」


「トップ成績で入学したのにこの学院から逃げ出しましたよね? 勇者パーティだかなんだか知りませんが私達の役割はより魔法を解析し、作り出し、世界へ伝えること。名声の為に魔法を利用する者は吐き気を催します。故に、私は貴方のことを軽蔑しているのです。知性の低い貴方にも理解できましたか?」


 すっごい早口ね……。


「メリッサさん! エオルはそんなこと……っ!」


「貴方、中級魔法は使えるの? 家柄は?」


「う……」


「……答えられないのですね。凡人は口を挟まないで。貴方のような者は夢を見るだけ無駄。諦めてつつましく生きることをオススメします」


 その言葉はリノアスにとって特に辛い物であった。彼女の家柄は普通。友のエオルに憧れ、苦労してやっと魔法学院れ入学した身であったからだ。


「わ、私は……」


「私は? 何か特別な才能があるの? なら言ってみて下さい。言えるでしょう? 私に反論するくらいなのだから」


「う、うぅ……」


 何かを言おうとして、何も言い返せない。代わりにリノアスからポロポロと涙が溢れ落ちる。


「リノアス……」


 エオルがメリッサを睨み付けた。


「貴方最低ね。他人にそんな言葉を吐けるなんて」


「私なりの優しさです。今ここで泣くようならいずれ限界に気付くでしょう。その子はそこまで・・・・の存在・・・。いずれ来る絶望を味わうくらいならここで諦めさせるのが慈悲というものです」



 その言葉に。



 エオルはブチ切れた。



「貴方達のような者が学院にいることは魔法学院に対する愚弄です。早々に……」



「ふ、ふふふふふ……アンタねぇ。随分お高く止まってるようだけど? 大した力も持ってないんでしょ?」


「……は?」


 小馬鹿にしたような笑みを浮かべるエオル。彼女は尊大な態度でメリッサへと視線を向けた。


「そうよ。貴方の言う通り。私は名声・・が欲しいの。天才だという証明が欲しい。その為に魔法を使ってるわ。悪い?」


「……やはり私欲に塗れた人間でしたか」


「だけどねぇ。どちらが正しいかなんて誰も分からないわ。この世界にあるのはただだけ。それだけが己を証明する手段。そうでしょ?」


「……何を言っているのか理解できません」


「そう。それじゃあ知性の低い・・・・・貴方にも分かるように言ってあげるわ。私と決闘・・しましょうよ。私が勝てば、二度と他生徒を退学に追い込むなんて真似はしないと約束しなさい」


「やる意味が理解できません」


「あら怖いの? 天才メリッサ・バーレイン様は私欲に塗れた女と戦うのが怖いということね? 仕方ないわよねぇ。大した力もないくせにだけ達者なんたから! あはははははははははは!!!」


 エオルがバカ笑いする。その声に周囲の生徒達がザワザワとこちらの様子を伺い出した。


 ひとしきり笑い終えたエオルは、冷たい瞳をメリッサへと向ける。


「怖いの? 天才魔導士さん?」


「……やればいいのでしょう。その代わり。私が勝てば貴方は二度と魔法を使わないと誓いなさい」


「いいわよ。私にだけ重い条件を押し付ける傲慢さ、嫌いじゃないわ」


 再び鋭い視線となったエオル。彼女はメリッサに冷たい言い放った。



「アンタのプライド。私がへし折ってあげるわ」



 その挑発、言葉、態度……全てメリッサを己のペースへ引き込む為の演技。そしてそれは、彼女が最も慕う者・・・・・が、エオル自身へ行ったことへの再現でもあった。




―――――――――――

 あとがき。


 決闘を申し込んだエオル。次回、彼女を心配するリノアスに対して、エオルは……?

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