天才の帰還編エピローグ
第92話 攻撃の予兆
王都エメラルダス。
旅人の宿屋。
「はぁ〜! 結局3日もかかったわねぇ〜」
宿の談話室でエオルが伸びをする。クルクルした金髪が揺れ、周囲に花のような香りを振りまいた。
「で? 辞めた生徒達はなんとかなったのかよ?」
ジェラルドがコーヒーを
昨晩エオルが宿屋へと合流したが、疲れ果てたその様子から情報共有は翌日ということになったのだ。
「バッチリよ。メリッサとサラディン教諭と一緒に辞めた生徒達を説得したから」
「そのメリッサって人はどうなったの?」
ロナが朝食のパンをかじる。焼き立てパンに、彼女は目をキラキラと輝かせた。その様子を見てエオルが苦笑する。
「すっかり大人しくなったわ。多分、受け入れるのに相当時間かかると思うわよ。彼女自信家だったから……」
決闘の時を思い出したのか、悲しげな表情を浮かべるエオル。そんな彼女をジェラルドはチラリと見た。
「エオルだって立ち直れたろ? 心配すんな」
「ジェラルド……」
「だけどよ。お前は「天才なんかいない」って言ってたけど、俺はお前のこと天才だと思うぜ。俺の勝手な考えだがな」
「……ありがとう」
エオルの顔から悲しみの色が消える。その代わりに……彼女の頬はほんのり赤みを帯びた。
「エオル殿の顔が赤いであります!」
「え!? どういうことエオル!?」
ブリジットとロナがギャアギャアと騒ぎ出す。エオルは顔を真っ赤にして机を叩く。
「うっさいわね! 別にいいでしょ!」
朝の宿屋には元気な声が響き渡った。
◇◇◇
「……ということで、エメラルダスはサザンファムへ使者を送ったぜ」
食事を終え、ジェラルドが真剣な様子で語り出す。エオルが離脱している間、ジェラルド達はエメラルダス王へと
サザンファムでの戦い。原初のアミュレットの存在。そして……ロナの素性を。その結果、長きに渡り交易を停止していたサザンファムと同盟を結ぶ為、エメラルダス側が動いた。
それは全て……ロナの身の上、そして、それでもなお戦うことを決意する彼女の意思にエメラルダス王が呼応してのことだった。
「王様も認めてくれたんだ。僕が勇者として戦うことを」
「原初のアミュレットに認められたのであります! 王様だってロナ殿を否定できないのであります! ジブンも騎士の称号を貰ったであります!」
ブリジットが興奮したようにカシャカシャ跳ねる。
「エメラルダスの使者には勇者ロナの手紙を渡した。アゾム女王ならきっと同盟を受け入れてくれるはずだぜ」
過去の戦争で遺恨を残していた二大国。それは共通の敵、「魔王」の存在と人類の規模「勇者」の出現によって、再び手を取り合う道を目指したのだ。
「ふぅん。良かったじゃない。それでジェラルド。私達は何をすることになったの?」
「サザンファムとの同盟が完了次第大規模な攻勢が行われる。俺達は二大国の協力を得て、魔王城内部に侵入する」
「そう……最終決戦って訳ね」
「そうだ。ここまでお膳立てされたんだ。絶対に負ける訳にはいかねぇぞ」
ジェラルドが立ち上がり、窓を覗く。そこに広がるエメラルダス城下町の姿。活気ある人々の姿を見ながらジェラルドが思考する。
これで真エンドへの布石は全て整った。後は原初のアミュレットの力で魔王本来の姿を出現させ……倒すだけだ。
そうすりゃロナは……普通の人間のように日常を送れるようになるはずだ。俺達の旅は、今度こそ終わりを告げる。
ジェラルドがそんなことを考えていると、空から鳥のような、コウモリのようなシルエットが見えた。
ジェラルドの見たことのあるシルエット。それが「使い魔」だということは1発で分かった。
使い魔? 使い魔を操れるのは魔王軍の者だけ……
窓枠に飛び降りた使い魔かそのクチバシのような器官で窓をコツコツと叩く。ジェラルドが窓を開けると、使い魔はフワリと室内を飛び回り、ロナ達のいるテーブルへと舞い降りた。
「勇者ロナ。ジェラルド、エオル、ブリジットへと告げる」
使い魔から発せられる声。それは全員の名前を告げた。
「やっぱりレウスからの使い魔だな。イリスの動きが分かったのか?」
「レウスさん……」
ロナが使い魔を見つめる。使い魔はロナの瞳をじっと見つめて言葉を発した。
「王都エメラルダスへの攻撃が計画されている。数日中に光将イリスが魔導騎士部隊を連れ、王都を攻める」
「イリスが!?」
「魔導騎士部隊でありますか……?」
「攻撃……ってウソでしょ!?」
「また、魔王軍本体による総攻撃も同時に計画されている。今からそれへの対抗作戦を伝える。心して聞いて欲しい……」
パーティメンバー全員に緊張が走る。壁を隔てたすぐ向こうに広がる日常。それを蹂躙する計画を……魔王軍が立てていた。
王都の襲撃だと? このタイミングでかよ。
使い魔はジェラルド達へとレウスの作戦を伝えた。
―――――――――――
あとがき。
次回は
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます