第83話 絆
12年前。
ドロシーと
——ゾニングの研究室。
「なんですかこの魔法陣は?」
ゾニングに呼び出され研究室へと向かうと、床に大掛かりな魔法陣が設置されていた。
「魔王様の言い付け——生命の魂を操る魔法を作る最中偶然生まれてしまったのだ。魂を呼び寄せる魔法とでいも言うのか」
ゾニングが魔法陣を見つめる。床に刻まれた魔法陣は、青い光をチカチカと点滅させていた。
「呼び寄せる?」
「範囲が広過ぎて困ったものだがな。魔王様の居たような異世界から呼び寄せるかもしれん」
「呼び寄せた後どうなるのです? この地を
「いや、この地で最も魂の形状が近い存在と一体化するようだ。作り出しておいてなんだが、使い勝手が悪すぎる。封印する前に知将様には言っておこうかと思ってな」
「発動はどのように行うのです?」
「魔力を注ぎ込むだけでいい。それが呼び水となり、魂を引き寄せる」
召喚魔法のようなものか。その対象がこの世界の外となった。そんな印象を受けるな。
「……なるほど。使い道は考えておきましょう。呼び出したのはそれが理由ですか?」
「いや、魂を操る魔法。これも間も無く完成する。あと数日……完成次第この魔法を魔王様へと引き渡す」
ゾニングが両手をあげると、その手がボワリと光る。
「この手で触れた物の魂を抜き取る。魔王様がご自身の魂と器の魂とを入れ替えることで移植は可能だ」
「抜かれた方の魂は?」
「身体のメンテナンス時にバックアップは必要だからな。魔力で包み、保存する。いずれ使い道も来るだろう」
バックアップ……言い換えれば器の魂は永遠に死ぬこともできず保存されるということか。魔王様も恐ろしいことを思い付くものだ。
「器はどうだ?」
ゾニングがその眉を持ち上げる。
「会話できるようにまでは成長しました。しかし自我はまだ……」
「そこまでいけば影響も無いだろう。そろそろあの女と引き離しておいてくれ」
「分かりました」
◇◇◇
牢獄塔のドロシーの部屋へと向かうと、彼女は
「書けたよ」
「ふふ。私を描いてくれたの?」
「うん。ロロシーすきだもん」
「ありがとう」
ドロシーの笑顔を見て、これから伝えなければならないことに胸が痛んだ。
彼女へと説明する。模造品への移植の準備が整ったことを。
……。
…。
「……ということです。その
話を聞いた瞬間。ドロシーの顔が悲しみの色が浮かぶ。こうなると分かっていたのに、私の中に後悔の念が巻き起こった。
「なぜ、今なの?」
「間も無く魂を移す魔法が完成します。別れを」
「……」
彼女が何かを飲み込むように俯く。そして、模造品の頬に優しく手を添えた。
「う? ロロシー。どしたの?」
「貴方とは、お別れみたいなの」
「お別れ?」
「ええ。会えなくなるということよ」
「明日には会える?」
「……会えないわ」
「明日の明日は?」
「会え、ないわ……もう、会えないの……ごめんなさい……」
「……やだ! ロロシーといたいよ!!」
涙をボロボロと溢し、ドロシーにしがみ付く模造品。その顔を見た瞬間。ドロシーが悲痛な顔を浮かべる。
思わず顔を背けてしまう。……見ていられない。だから情が湧くと言ったのに……そんな顔は、見たくない。
「ねぇレウス。今日だけ。今日だけこの子と一緒に過ごさせてくれない?」
「しかし……」
「この子は、何のために生まれたの? 貴方なら、分かるでしょ? 私に優しくしてくれたレウスなら」
何の為に……。
その言葉を聞いた途端、胸が引き裂かれそうになった。模造品として生まれた私。滅びることが定められて生まれたドロシー。そして……魔王に体を奪われる為だけに生まれた、子供。
何の為に。
私達は何の為に生まれたのだ。分からない。
分からない。
「……明日の朝には迎えに来ます。それまで、ですよ」
「ありがとうレウス。貴方が優しい人で良かった」
「やめて下さい。そのような慰めは……」
扉に手をかける。視界の隅に子供を抱きしめるドロシーが見えた。
その姿は、まるで母親のようだと思った。私自身は母を知らないはずなのに、確かに……そう感じた。
―――――――――――
あとがき。
次回、魔王城にある異変が……
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