ゲイル族の里編
第77話 ゲイル族の隠れ里
光を抜けた先には豊かな森林に囲まれた家々があった。レンガ作られた家屋には誰もおらず、人が住まなくなり何年も経ったように見える。
「壁に囲まれた場所?」
「そうよロナ。ゲイル族は時の流れと共に絶滅へ向かっていた種族。その中で外界を遮断するためにこの渓谷に里を築いたの。外敵から仲間達を守る為に」
ロナが空を見上げる。壁の灰色にポッカリと空いた空間。そこに青い空が広がっていた。
「家も植物に飲み込まれているであります」
ブリジットがある家を指す。それは大木に飲み込まれかろうじて家であったことが分かるほど朽ちていた。
「長い間ああなっていたんだろうな。確か、この里には3人しか住んでいなかったはずだ。それも……もういない。15年前の魔王出現と共に姿を消した」
ジェラルドが眼帯に手を添える。彼の持つ原作知識にはそこまでしか無かった。設定資料集で僅かに載っていた程度。ゲイル族に関しての記述はそれだけしかなかったのだ。
仮面にローブの男、レウスが歩いて行く。そして、中央部でピタリと立ち止まった。
ジェラルド達が彼の元まで行くと、仮面の男は周囲を見渡した。
「ここでドロシーが……」
「レウスさんは何の為にこの村に来たの……?」
ロナの質問に答えず、レウスが無言で歩いていく。里の中を進む一行。静寂に包まれた空間には、森を飛び回る鳥達の声だけが響いていた。
建物の中で唯一植物に侵食されていない家を見つけ、扉を開ける。中には比較的新しい家具が散乱していた。
「この里に残っていた最後の家族。その記憶を見る為に」
レウスが手をかざす。彼の手のひらから魔力の流れが生まれ、部屋を包み込んでいく。
「禁呪を使います。皆下がって下さい」
全員が下がったのを確認すると、レウスが魔法名を告げる。
「
その瞬間。
一瞬にしてジェラルド達の周囲の景色が変わる。周囲を飲み込んでいた豊かな自然は消え去り、人が住んでいた頃の様相へ。レウスのいる家も真新しい見た目となり、
「人が現れたであります!?」
「これはこの土地に眠る記憶。時間の流れに取り残された家族の記憶です。そう、魔王が現れる日……15年前の」
レウスが説明しているのを横目に、ジェラルドがロナへと耳打ちする。
「あの娘がいるだろ。あれがお前のオリジナルだ」
「あれが……僕の、お母さん……」
映し出された記憶が動き始める。まるで生前の姿そのままの様に。生きている様に。
ロナの視線の先に映る少女は、両親と何かを言い争っていた。
『ドロシー!! 私達の話を最後まで聞きなさい!』
『嫌! 私は絶対ここから出るなんて嫌だからね!』
その記憶達の様子を無言で見つめるレウス。不思議に思ったジェラルドは彼へと問いかけた。
「この家族はお前にとっての何なんだ?」
レウスは答えない。その仮面の奥にどのような心境があるのかも分からないままに。
諦めたジェラルドが記憶達に意識を向けようとした時、レウスが口を開く。
「あの記憶の少女。ドロシーは私の友人です」
「友人? お前……ゲイル族の生き残りと知り合いだったのか」
「……はい」
ロナのオリジナル……ドロシーとレウスが知り合い? そんなの原作に無かったぞ。そもそも、あのドロシーって娘はオープニングにしか登場しないキャラクターのハズだ。
……また裏設定かよ。どうもロナの出自に関わることは全部裏設定になってるみたいだな。
何のために? いや、意味なんかないか。制作者はこんなお遊びが好きだからな。プレイヤーに考察させて優越感に浸る……気に入らねぇ。
「少し集中させて下さい」
「邪魔してすまねぇ」
ジェラルドがドロシーを見つめる。ロナとは似ても似つかぬ少女。しかし、その雰囲気、言葉、その端々にロナを感じさせる少女を。
レウスとロナ。それぞれの思惑に見守られながら、記憶の少女ドロシーは動き出した──。
―――――――――――
あとがき。
ロナのオリジナル……ドロシーはどのような運命を持っていたのか……。
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