第75話 エオルの太煬
「ぎゃっ!?」
レウスが重量魔法を発動し、タニヤ達が一斉に船体へ押さえ付けられる。
「う、動け……ない」
もがくタニヤ達。しかし、いくら逃れようとも魔法の力からは抜け出せないようだった。
「重力魔法の出力調整はしてるだろうな? 怪我させるんじゃねぇぞ?」
「乗せて貰っている身。殺してしまえば寝つきが悪いですからね」
レウスが手を伸ばす。木製の床がバキバキとすごい音を立てて曲がり初め、タニヤ達を拘束してしまう。
「そんなこともできるのかよ」
「本来重力魔法は私の
「得意ジャンルじゃない? じゃ、得意ジャンルってなんだよ?」
「大した魔法ではありませんよ。気にしないで下さい」
「なんだよそれ」
2人がそんな会話をしていると、突然轟音と共に水柱が立ち上った。
「なんですか、アレは……?」
レウスの言葉が詰まる。感情の起伏の少ない彼だが突然のことに動揺していた。反面ジェラルドは……。
「お〜俺らが手間取ってる間に終わっちまったか」
何かを知っているように呟く。
「終わったとは?」
「アレはさ、エオルの新魔法だぜ」
◇◇◇
時は
「ズモォォォ!!」
クラーケンが甲板へと触手を叩き付ける。
「
エオルが触手へ向かい火球を放つ。クラーケンは攻撃を避けようと触手をうねらせた。
「甘いわよ!!」
エオルが指先を動かすと、火球は意志を持ったように触手を追いかけ直撃する。
「ズモォ!?」
炎に焼かれ触手の勢いが止まる。その隙を見逃さず、ブリジットは触手の真下へと飛び込んだ。
「威力が弱まればこちらのモノであります!!」
ブリジットが巨大な触手をガッシリと掴む。
「食らうでぇ……ありまぁす!!」
メキメキという音を響かせながら、クラーケンの触手を引っこ抜いた。
「ズモォ!?」
のたうち回るクラーケン。ブリジットが触手を湖に投げ捨てると、引きちぎられた触手の根元から経験値の光がキラキラと溢れ出す。
「ズモォォォ!!!」
反撃に出たクラーケン。複数の触手を一斉にエオルへと叩き付ける。
「ブリジット! 私が魔力貯めるまで援護よろしく!」
「了解であります!」
ブリジットがその大斧を構える。
「来い! でありますよ!」
叩き付けられる触手をその斧で撃ち返す。ズガンという鈍い音が船に響く。打ち返されたクラーケンがムキになりブリジットを狙い、再び鈍い音が轟く。
1撃、2撃……触手を打ち付けるたびにブリジットが弾き返す。ガンガンという音が徐々に早くなる。速度を増していく。
「うおおおおおおおおお!!」
「ズモオオオオオオオオ!!」
やがて、高速の打ち合いとなる。通常の人間なら一撃で潰されたような重い攻撃同士がぶつかる。それは、ブリジットの力がクラーケンと同列であることを告げていた。
それを目にしながら、エオルが両手に
「雷、竜巻……これまでの応用で分かったわ。全ては魔力の流れがカギ。火炎魔法の火球は魔力の膜で球体を為す。だから……」
エオルがブツブツと独り言を言いながら2つの火球をぶつける。
「火球同士が対消滅しないよう魔力の膜を調整してやれば……」
ぶつかった火球が消えることなく、融合する。2つの炎が合わさりより大きな炎へ。
それをエオルが上空へと浮かべ、さらに数度繰り返す。
すると、やがて太陽とみまごうほどの輝きを放つ巨大な炎の球体が出来上がっていた。
「できた……っ! 本来出力を上げることで作り出す
エオルが喜びのあまり叫ぶ。
「もう大丈夫よブリジット! 一撃で丸焼きにしてやるわ!」
「分かったであります!」
ブリジットが飛び退くと、クラーケンがエオルの火球に気付く。
「ズモモォ!?」
自分をも飲み込みそうな巨大な火球。それに恐怖を感じたクラーケンは船から離れ水中へと逃げ込んだ。
「私の炎が水如きで防げると思わないことね!」
船の手すりの上に飛び乗ったエオルが杖を高らかに上げる。彼女の頭上の小さな太陽は、キラキラと眩い光を放った。
「
エオルが杖で差した先。水中にうっすらと見えるクラーケン。そこへ向かい煬炎魔法が向かう。フワリと漂うように。太陽のように優しげに。
しかし。
水面に到達した瞬間。凄まじい熱が発し、水柱が巻き起こる。
「ズモオオオオオオオオ!!?」
爆発四散するクラーケン。湖から生じた水柱は天高く舞い上がり、船上に雨を降らせる。
晴れ渡る霧。
煬炎魔法の光が大ケイト湖に短い朝をもたらした。
―――――――――――
あとがき。
エオルの新魔法によってクラーケンを倒し、魔導船は先へ進む。目的地へと向けて……。
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