原初のアミュレット編エピローグ

第70話 パルガス達の特訓

 林の中央。開けた場所にロナが立つ。


 目を閉じ、全神経を周囲の補足へと使う。風のそよぎ、木の揺らぎ、その全てが彼女にとっての「敵」を教えてくれる。


 カサリと茂みが揺れる。その音に反応したロナが剣を抜く。


「エアスラッシュ!」


 放たれる剣撃スキル。風の刃となった一撃が茂みを根こそぎ刈り取った。


「いない」


岩石魔法ブロックシュートですわ!」


 別の茂みから飛び出したリーナが魔法を発動する。彼女の手に魔法陣が浮かび上がり、岩石がロナ目掛けて発射される。


「効かないよ」


 ルミノスソードで襲い来る岩石を叩き斬るロナ。切断と同時に僅かに刀身を震わせると、真っ二つに斬られた岩が彼女だけを避けるように後方へと吹き飛んでいく。


「ぎゃっ!?」


 後ろからナイフを構えていたマークに、切断された岩石が直撃し彼が悶絶する。


「そんなバレバレの奇襲じゃ反撃してと言ってるようなものだよ」


「う、うるさいっス!!」


 マークが懐から速度低下ポーションを取り出しロナへと投げ付ける。反応したロナが大きく左へと飛ぶと、茂みからパルガスが現れた。


「うおおお!! アイアンスラッシュ!!」


 パルガスの横なぎの一撃がロナの胴を狙う。


「わははは! 勇者と言えど華奢な体では吾輩の一撃は受け止めきれまい!」


「……っ!?」


 ロナはルミノスソードの刀身を巧みに使い斬撃の軌道を逸らした。


「何だと!?」


 驚愕するパルガスの頭上に飛び上がるロナ。彼女はマントをパルガスの顔へと巻き付けた。


「フガッ!?」


「おじさんこそ油断しすぎだよ」


 そのままロナが全体重をかける。パルガスはバランスを崩し、自ら投げ飛ばされる形で大地へと叩き付けられた。


「ガハァッ!?」



「酷い有様ですね」


 いつの間にか、レウスがジェラルドの横で戦いの様子を見ていた。


「とてもまともな戦士には見ません」


「そうでもねぇぜ? 連携はまぁまぁ。後は役割を変えて調整すれば化けるさ」


「そんなものですかね?』


「そんなものなんだよ。役割を間違えてたり、戦う場所がズレてたりな。そんなヤツばっかりさ。自分じゃ気付けねぇんだ」


「私には、イマイチ分かりませんねぇ」


 レウスは肩をすくめると、馬車へと戻っていった。



「よし。そこまでだ!」



 戦いの様子を見ていたジェラルドの合図で、パルガス達はオズオズと起き上がった。


「どうだったロナ?」


「う〜ん。まだ攻撃が予測できる範囲かな。3人いる利点を活かせてない感じ」



「勇者様が強すぎるのである!」

「魔法を利用するなんて人間技じゃないですわ!」

「才能が違うっス!」


「お前らなぁ……『才能が違う』とか言って敵が止まってくれんのか?」


「う……それは、で、あるな……」


 パルガス達は痛い所を突かれたように押し黙った。


 ザヴィガルを倒してから数日。ジェラルド達に救出されたパルガス達は己の戦闘スキル向上の為にジェラルド達へ指導を頼んだのだ。


「今回はマークが遅かった。リーナの魔法発動と共に動くべきだったな」


「で、でもそれじゃあ岩石魔法の巻き添えに……」


「考えてみろ。岩石魔法は直線の動きをする攻撃だ。最初の位置どりさえ意識すればマークに当たることはない」


「あ、なるほどっス」


「だけどよ、アイテムの投擲とうてきは良かったぞ。パルガスの場所まで誘導するように仕掛けたな?」


「そうっス。ロナさんは反射神経がいいから飛んで避けると思ったっス」


「お前は観察力が優れてるからな。次からマークが戦闘の指示を出せ」


「えぇ!? オレがっスか!?」


「わ、吾輩はどうなるのであるか!?」


「アンタは前衛だろ? 他の2人を守ってやるのが役目。それをやらねぇと」


「う、うむむ……」


「アンタは性格も前衛に向いてると思うぜ? ザヴィガルから仲間を守ろうとしてたしよ」


 パルガスが腕を組む。あの時のことを思い出したのか、その顔をブンブンと振った。


「若い者達が傷付くのは嫌であるな。考えたくもない」


「パルガス様……」


 リーナが申し訳なさそうにうつむく。


「そんなしんみりすんな。次はそうならねぇように特訓してるんだろ?」


「……そうであるな。試して損は無い。何でもやってみるのである」

「私も、もっと魔法の力を強くできるようにがんばりますわ」

「オレも! できることもっと増やすっス!」


 3人はその後も旅をしながら特訓を続けた。リーナはエオルから魔法を学び、マークはジェラルド、パルガスはブリジットから戦い方を学んだ。



 ……ブリジットは非常に嫌がっていたが。



 そして幾度もロナへと挑み続け——。




◇◇◇


 2週間後。


 ——ブレードラ地方。サザンファム周辺。



「エアスラッシュ!」


「ぐぅ! させんぞ!」


 リーナ達目掛けて放たれた風の斬撃をパルガスがその剣で受け止める。



「貰ったっス!!」


 ロナの隙を突き、マークがダガーで攻撃を仕掛ける。


「バレバレだよ」


 振り向き様に剣を薙ぎ払うロナ。しかし、その前にあったのはダガーの切先ではなく投げ付けられた煙玉だった。


「く……!?」


 煙玉を真っ二つにするが、ロナの周囲に広がった煙幕が、彼女の視界を奪う。


「リーナ!」


「了解ですわ!」


 マークの指示てリーナが岩石魔法ブロックシュートを放つ。煙幕で視界を奪われたろなは避けることが精一杯になっていく。


 そして、飛び交う岩石を剣で切り裂いた直後。



「アイアンスラッシュ!!」



 煙幕の中からパルガスが飛び込んだ。


「しまった!?」


攻撃を放った直後のロナ。完全に隙をつかれた形となった彼女に剣先が迫る。



「もらったぁ!」



 パルガスが勝利を確信した瞬間——ロナの瞳が赤く光る。


「甘い!」


 ロナは、人ならざる動きで剣撃を交わし、パルガスの足を払った。


「うおっ!?」


 倒れ込むパルガス。急いで起きあがろうとした彼に、ルミノスソードが突き付けられた。



「そこまでだ!」



 ジェラルドの声で訓練が終わる。パルガスは悔しそうに地面を叩いた。


「クソ! もう少しだったのであるが!」

「あんな動き対処できませんわ!」

「ズルイっス!」


「ごめん! 危なかったから、つい……」


 頬を掻くロナ。ジェラルドはそんな彼女の頭にポンと手を置いた。


「ま、ロナに力を使わせたぐらいだから3人とも上出来なんじゃねぇか?」


「ホントであるか?」

「やりましたわ!!」

「免許皆伝っスか!」


 喜ぶ3人。数週間に及ぶ特訓の末、3人はついに戦闘の型を手に入れたのだった。




◇◇◇


「ホントにここで帰っちまうのかよ?」


「ああ。サザンファムは目の前。我らの任務はここまでとするのである。それに、我らの方が守って貰っていた身。ここまで同行できて良かったのである」


「そうか。気を付けてな」


「ジェラルド……殿達には感謝しかないのである」

「ホントに何から何まで」

「ありがとうっス」


 パルガスが手を差し出す。少し照れた様子で、ジェラルドはその手を握った。


「貴殿らの武運を祈っている。必ず魔王を倒してくれ」


「ああ。約束は守るぜ」


 パルガスがニヤリと笑う。それは、初めて出会った時と同じようで、少しだけ違う笑顔だった。




―――――――――――

 あとがき。


 次回。ジェラルド達はサザンファム地下王国のアゾム女王と再会します。そして、ついに原初のアミュレットが本来の力を取り戻す……。

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