第53話 エオルの気持ち

 アゾム女王の依頼でサザンファムへ数日滞在することになったジェラルド達。ロナはその間、熱心に城へ通っていた。魔族について文献で調べる為に。


 ブリジットはサザンファム兵士と共にクリスタルの崖へと向かった。アゾム女王がオーグェンの活躍をサザンファム地下王国全土へ伝え、クリスタルの崖を保護することを宣言したのだ。そのことを伝える為に。


 残されたジェラルドは、なぜかエオルに付き合わされ、魔導図書館へ向かっていた。


「この前も図書館行ったろ?」


「うっさいわね。みんなの為にもなるし協力しなさい」


「俺がついてく意味あんのかぁ?」


「意味ならあるわ。アンタの意見も聞きたいの」


「ふぅん……」


 などと話しているうちに図書館へと到着した2人。エオルが門番に話しかけると、兵士は快く入場を許可してくれた。


 中へ入ると、天井まで届くような高さの本棚がいくつも立ち並ぶ空間へと出た。


「スゲェ……」


 呆気に取られるジェラルド。そんな彼にエオルが得意げに説明を始める。


「サザンファムは千年王国とも呼ばれる歴史ある国よ。ここには古代魔法の知恵が保管されて来たの。魔法学院の図書館に匹敵するほどの規模よ」


「詳しいな」


「文献で調べてたから。いつか来ようと思って」


 エオルが図書館の中を進む。そして目的の本を手に取ると、近くのテーブルで本を開く。


「オーグェンの正体のね、目星を付けていたの」


「正体?」


「そう。気になっていたの。魔王の作り出したモンスターは話さないでしょ? でもオーグェンは意思疎通を取れた。同じような存在を知ってるから気になっていたの」


 パラパラと本をめくるエオル。そして、あるページで手が止まる。そこには「原種」という項目が記されていた。


「オーグェンの正体はモンスターではなく真虎しんこという生物よ。私とブリジットが出会った真竜ザアドに近い存在。古来よりこの地に生きる原種オリジナルなの」


 原種、か。そんなことは「ロストクエスト」の設定資料集にも書いてなかったな。オーグェンの存在自体もゲームに登場しねぇし……裏設定か?


「でもなんでオーグェンのことを調べたんだ?」


「……」


 エオルが黙る。突然のことにジェラルは戸惑った。


「ど、どうしたんだよ?」


「ロナの為よ。あの子……魔族でしょ? 元になる存在がいると言ってたでしょ? 原種はそれの鍵になるかと思って」


「ロナも連れて来てやれば良かったじゃねぇか」


「今こんなこと言ったら余計あの子を混乱させるだけ。もっと落ち着いて、私も原種に詳しくなってから言うわ」


「……優しいなエオルは」


「うるさいわね。仲間なんだから当然でしょ?」


 顔を赤くするエオルを見て、彼の中で自然と笑いが込み上げる。



 エオル。なんだかんだ言いながら仲間想いだよな。



「ちなみにだがよ。その項目にゲイル族は載ってるか?」



「ゲイル族……あ、あったわ。隠れ里に住む人族の一種。数が少なく特殊な身体的特徴を持つ。怒りと共に瞳が赤く発光し、身体能力が飛躍的に向上……これって」



 驚いた顔でジェラルドを見上げるエオル。彼女の疑問に答える代わりにジェラルドはその眼帯をトントンと叩く。それは、エオル達にはスキルの能力だと認識されている、彼の原作知識を表すジェスチャーだった。


「知ってたのね……早く教えなさいよバカ」


「悪い。俺もエオルと同じ理由だ」



「ロナを困惑させない為に……ね。魔族のことも知ってたの?」


 頷くジェラルド。エオルはその様子に悲しげな顔をした。



「……言えるはずも無いわねそんなこと。私でも言えないわ」



「俺も悪かったと思ってる」



「でも、それ知っていてアンタよく今まであの態度でロナと接していられたわね。その、人間じゃないのに」



「お前らだって事情聞いても態度変えてないだろ?」



「それは……ロナはロナだし……」



「な? ロナはああいうヤツだ。俺達の中でそれ以上でも以下でもねぇ。人かどうかなんて関係無い。アイツは自分のことを模造品コピーと言っていたが、俺にとって間違いなくオリジナルだ」



「……ジェラルドは大丈夫なの?」


「何がだよ?」


「そんなことずっと1人で抱え込んで……もっと私達も頼りなさいよね。仲間なんだから」


「お、おお……」


 真剣なエオルの顔にジェラルドは思わず目を泳がせてしまう。


「私はね、仲間を見てるのが好きなの。アンタやロナやブリジットがバカなことやってるのがね」


 エオルが目を伏せる。


「だから、ロナに言えないことがあったら私を頼って? 私はどんな時でもジェラルドに協力するから」


 頬を赤らめるエオル。それを隠すように彼女は本へと視線を戻す。


「ありがとな。エオル」


「当然のことよ。仲間、だからね」


「……ああ」


「ただし。いかがわしい行為を容認する訳じゃないから。この前だってベッドで、その……」


「いや!! 説明しただろ! アレはだなぁ!?」


「ふふ。冗談よ」


 エオルがからかうように笑う。しかし、それは重くなった空気を変える為。この娘はそういう性格なのだ。それを知っているジェラルドは改めて気付いた。



 自分は1人ではないということを。



―――――――――――

 あとがき。


 エオルは彼女なりに2人のことを気遣っていた。次回はサザンファムエピローグ最終話。アゾム女王からある依頼が……?

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