第68話 弱さを断つ剣

「ぐおおおっ!?」


 レウスが発動した重力魔法グラヴィトで城内の尖兵達が叩き付けられる。


「これで残るは……ザヴィガルだけだ」


 ジェラルドが懐から小瓶を取り出し、回避、素早さ、防御、攻撃上昇ポーションを飲み干す。自身の体に力がみなぎるのを感じながらジェラルドは装備を今一度確認した。


 アイテムも全てある。ガルスソードも……万全だ。


 ロナ達がいない幹部戦。しかし、不思議とジェラルドの中に恐怖は無かった。



 俺の全てを使ってザヴィガルを倒す。




 扉を蹴破りザヴィガルの待つ領主の間へと突撃する。


 広い部屋の中央にはドーム状の魔法障壁。そこにいたロナ達はジェラルドの姿を見た瞬間、パッと顔を明るくさせた。



 良かった……全員無事だったか……。



「師匠!!」


 ロナが叫んだ瞬間、強靭な鳥類の脚がジェラルドを襲う。



「死ねええええぇぇぇ!!」



「く……っ!!」


 ジェラルドが咄嗟に飛び退いた。ザヴィガルは空中で舞うように回転すると再び猛スピードでジェラルドへと迫る。


「レウス頼む!」


 ジェラルドの叫びでレウスが手をかざす。



重力魔法グラヴィト



 重力魔法をかけられ、ザヴィガルの体にボワリと紫色の光が灯った。



「馬鹿が!! 俺の翼は重力魔法如きで地に落ちたりしねぇんだよ!!」



 ザヴィガルの飛行速度が上がる。疾風のように室内を舞い、すれ違いざまにジェラルドを鉤爪で狙う。それをジェラルドはガルスソードⅠの鞘で受け流す。



「私の役割は終えました。戦闘は頼みましたよ」


「ああ! ロナ達を頼む!」


 レウスが魔法障壁へと向かって走る。



「どこ向かおうとしてんだ魔導士クンよぉ!」



 ザヴィガルはレウスへと狙いを定めると、その鉤爪で彼を狙った。


「お前の相手はこっちだぜ!!」


 ジェラルドが毒液の入った小瓶こびんを投げつける。


「カカッ。そんな物が当たるわけねぇだろうがよぉ!!」


 ザヴィガルがクルリと回転し、びんを避ける——。


 が。


 小瓶はザヴィガルに吸い寄せられるように軌道を変え、空将へと直撃した。


「ガァッ!? な、なんだと……!?」


「油断してていいのか……よっ!!」


 連続で毒液の瓶を投げる。攻撃を察知したザヴィガルが瓶をわすが、再び吸い寄せられるように5つ。ザヴィガルへ直撃する。瓶が割れ、ザヴィガルへ毒液を浴びせかけた。



「グオオッ!?」



 ザヴィガルが苦しみの声を上げ、大地へと着地する。毒液に侵され、空将は呻き声をあげた。


「幹部様も状態異常耐性持ってる訳じゃねぇよなぁ?」


「テメェ……!? オレに何をしやがったぁ!!」


「重力魔法でお前のに引力の中心点を埋め込んで貰った。だからこういう軽いモンはよ……」


 ジェラルドが懐から残っていたバクダンを取り出す。起爆のヒモを引き、降り被る。



「お前に吸い寄せられるんだよ!!」


「クソがぁ!!」



 投擲されるバクダン。察知した空将が背中の大剣を抜き、バクダンを真っ二つに切り裂いた。


 しかし。


 真っ二つに裂かれたまま。バクダンはピタリとザヴィガルの体へと張り付く。



「グッ!?」



 直後訪れる爆風。



 煙の中から現れたザヴィガルの眼は血走り、明らかにジェラルドへの殺意を抱いていると見てとれた。


「ふざけやがって……っ! 仲間の前で引き裂いてぐちゃぐちゃに……」



 怒りに任せ挑発するザヴィガル。そんな彼にジェラルドはの挑発を言い放つ。



「はっ。やってみろよ三下。どうせテメェみたいな姑息な手しか使えねぇヤツは魔王軍でも大したことねぇんだろ?」


 その言葉に、ザヴィガルが固まる。ジェラルドは原作知識を元にザヴィガルの抱く劣等感を巧みに刺激した。


「んだと……っ!?」


 ワナワナと震えるザヴィガル。その様子を見てジェラルドは確信した。



 目の前のザヴィガルは原作通りの性格だと。

 


「戦闘スキルはヴァルガンに勝てねぇ。広域戦闘はフィリアに敵わねぇ。どうせオツムでも知将に勝てないんだろ? だから弱ぇ物をなぶるのが好きなんだよな?」



 ザヴィガルの表情がみるみる怒りに飲み込まれていく。冷静さを失っていく。



 侮蔑の込めた表情で見つめるジェラルド。その顔が空将のプライドをさらに傷つける。



 ……やっぱりこういうヤツには安い挑発が1番効くんだな。



 そして、決定的な一言を言い放った。



「お前は特別でもなんでもねぇ。自分をデカく見せたいだけの雑魚・・。俺には絶対に勝てねぇよ」



「うるせええええええええええっ!!」



 その一言に空将が雄叫びを上げる。



 空将ザヴィガルは魔王軍でのし上がる為に様々な手を尽くした。しかし、その全てを上回る他の幹部達。だからこそ彼は知恵を絞り、任務を遂行した。


 だが、認められぬ苦労は人を歪ませる。ザヴィガルはいつしか弱き者をいたぶることでその不満を満たしていたのだ。


 原作知識を持つジェラルドは、それを徹底的におとしめた。重力魔法に嵌められた屈辱。己の体を侵す毒の苦しみ。それが、ザヴィガルに「不快」という感情を強く刻み込む。

  


 だからザヴィガルは許せない。


 目の前の男を許せない。


 殺さなければいけないと認識する。


 目の前の男は不快以外の何者でもないから。



「殺してやる……っ! 殺してやるぞ貴様ぁあああああああああああ!!」


 ザヴィガルが大剣を構え、ジェラルドへと飛び込む。



 よし。完全に逆上しやがった。



「死ねえええええ!!」


 ザヴィガルの大剣の薙ぎ払いに合わせてジェラルドが地面へ伏せ、右手のガントレットから爆発の巻物エクスプロージョンのスクロールを発射する。


「!?」


 大剣を盾のように使い爆風を防ぐザヴィガル。彼が再び視線を向けると、その眼前には抜刀するジェラルドがいた。



「しま──っ!」



「ガルスソード!!」


 ガルスソードⅠが軌跡を描き、空将を一閃する。


「ガアアア!!」


 怒り狂ったザヴィガルが蹴りを繰り出す。すかさずガルスソード1で攻撃を防ぐジェラルドだったが、その威力に後方へと吹き飛ばされてしまう。


「殺す!!」


 ザヴィガルが飛ぶ。風のような速さでジェラルドとの距離を一気に詰める。



葬送撃そうそうげき!!」



 その鉤爪かぎづめでジェラルドの両肩をガシリと掴んだ。爪がドラゴンメイルを砕き、ジェラルドの方へと食い込む。


「ぐううう……っ!」


「カカカカカ! このまま引き裂いてやるぜぇ!!」


 ザヴィガルがジェラルドを掴んだまま空中へと羽ばたく」


「師匠!?」


 ロナの叫びが部屋に響く。それによってザヴィガルが狂ったように笑い出した。


「カカカカカカカカカ!! 今からテメェのお師匠様は殺されるんだヨォおおおおおお!!」


「ふっ」


 ふと聞こえた声を漏らす音。不審に思ったザヴィガルが足元を見る。


「あ?」


 今にも殺されようとしている男は──ガルスソードⅠを捨て、不適な笑みを浮かべた。



「はは! これじゃあ避けれねぇよなぁ!! 鳥ヤロウ!!」



 壊れたドラゴンメイルの肩装甲。そこからナイフが2本現れる。



 小さな鶏の模様が刻印された刀身。8本で構成されたナイフ型武器、ガルスソードⅢが。



 ジェラルドはそれを掴むと空将の両脚へと突き刺した。


「ガッ!?」


 ザヴィガルの体にガルスソードの一撃に相当する衝撃が駆け巡る。その痛みにより、思わずジェラルドを離してしまう。


「まだだ!!」


 続いて胸部から現れる2本のナイフ。ジェラルドは落下しながらザヴィガルへと投げつける。


 ザヴィガルの重力魔法に惹かれ、加速したナイフがザヴィガルに突き刺さる。


「グォォォォ!?」


 地面へ落下しのたうち回る空将。ザヴィガルの元へとジェラルドが走る。


「うおおおおおおお!!」



「あ゛ああああああああ!!」



 半狂乱になったザヴィガルが大剣技を放つ。



絶空連斬ぜっくうれんざん!!」



 膨大な量の真空の刃がジェラルドへと襲いかかる。


 ジェラルドの脳裏にガルスマンの言葉が蘇った。



 ──攻撃を防いでも刃こぼれなどせん超硬度の一振りじゃ。



 地面へと転がったガルスソードⅠを拾い盾のように構えるジェラルド。彼は真空の刃達を恐れもせず、突撃する。



「おおおおおおお!!」



 真空の刃がガルスソードⅠへと直撃する。しかし、ウルフツァイト鋼の超硬度を持つ刀身を切り裂くことはできず、次々と消滅していく。



「な、なんだ……!? なんなんだテメぇはよぉ!!」



 空将のはずの自分。目の前の男より絶対的強者である自分。それを前にして一切ひるまない男の姿にザヴィガルが恐れを抱く。その生まれた隙を突いて、ジェラルドは再び2本のナイフを投げ付けた。



「がっ!? 来るなぁあああ!!」



 肩に突き刺さったナイフを捨て、ザヴィガルが大剣で全力の絶空斬を放つ。


 先ほどは別格の威力の強大な一撃。



「そいつは周囲一帯を切り裂く一撃だ! テメぇの剣如きじゃ防ぎ切れ無いぜェ!!」



 その真空の刃がジェラルドを捉え──。



「当たんなかったら意味ねぇよなぁ!?」



 ジェラルドの「運命の眼帯」がギラリと光る。スキル「回避」が発動する。



 逃走回数254回。



 最大値まで蓄積されたエネルギーが開放され、残像を生み出すほどの速度へと引き上げる。ジェラルドが滑り込み、ザヴィガルの懐へと飛び込む。



「な、んだとぉ!?」



 驚愕と恐怖が入り混じった表情を浮かべるザヴィガル。ジェラルドの両腕から最後の一対のナイフが出現し、ザヴィガルに連撃を放つ。



「グアアアッ!?」



「これで終わりだぜ!!」



 ナイフを捨てたジェラルドが抜刀の構えを取る。ガルスソードⅡのグランチタニウムの斬撃が空将ザヴィガルへ放たれる。



「ガルスソード!!」




 放たれる一閃。




「が……っ!?」




 ザヴィガルの脳裏に「不快」という言葉が充満する。




 不快。




 不快。




 不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快不快。



 その言葉が全身を満たし、やがて己が身体では抑えられず莫大な光を体から放った。




「ギャアアアアああアアアアあああああ!!!???」




 袈裟斬りにされたザヴィガルから溢れ出す光。



 全ての攻撃を受けた空将ザヴィガルは、全ての光を放出し、完全に消滅した。




―――――――――――

 あとがき。


 協力者達の力、そして己の全てを使いザヴィガルを倒したジェラルド。次回、原初のアミュレット編最終回です。ぜひ最後までご覧下さい。

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