第67話 協力者達

 ザヴィガルのいる城のすぐ近く、自身が倒れた森までやって来たジェラルドは、立ち止まってゼェゼェと肩で息をしていた。


「はぁ……はぁ……流石に目的地に向かいながら254回逃げるのはキッツイぜ」


「無茶にもほどがあるでしょう。戦闘前に体力が無くなったどうするのです?」


 背後からレウスの声がする。空中でフワフワと浮いていた。


「お前、飛べるなら俺にもその魔法使えよ……」


「重力魔法と風魔法の重ねがけですからね。魔力を無駄にしたくない」


「ちっ。セコイやつ」


 レウスが大地へと着地する。その様子を横目にジェラルドが体力スタミナ回復ポーションを飲み干した。彼の体が淡く光り、辛そうだった顔が元の血色を取り戻していく。


「ほらよ」


 ジェラルドがレウスへと何かを投げる。受け取ったレウスは怪訝な顔をした。


「なんですか、これは」


「仮面だぜ。ガルスマンの爺さんの家にあった装備だ」


「いえ、そうではなく……」


 明らかに戸惑った様子のレウス。ジェラルドは気にも留めないように城へと目を向けた。


「魔王軍に顔バレたくねぇんだろ? 保険だよ」


「保険……ですか、なんと安直な」


「うるせぇ。安直なことが最適解なこともあるんだよ」


 レウスが渡された仮面を見る。


 目には細い覗き穴。前面には無機質な装飾。そして、額には赤い宝石があしらわれていた。


「随分不細工な代物ですね」


「微量だが魔力が自動回復する符呪エンチャントもされてる。装備しとけ」


 レウスが無言で仮面を付ける。無機質な仮面を付けた魔導士からジェラルドは顔を背ける。


「俺のせいでお前が魔王軍に追われる事になったら寝付きが悪りぃからよ」


「見た目に反して気配りの効く方ですね」


「素直じゃねぇ……ん?」


 ジェラルドが茂みから外を覗き込む。その視線の先には魔王の尖兵に空兵、小型ドラゴン種のケルドラコが徘徊していた。


「ザヴィガルのヤツ。俺の捜索部隊出しやがったのかよ」


「できればそのザヴィガルと戦うまで戦闘は避けたいですね」


「俺も同意見だ」


 こんな所でガルスソードを使いたくねぇ。だがどうやって突破する? この数の中気付かれずに突破するのは流石に……。



 その時、背後から声がした。



我らの出番・・・・・であるな」



「誰だ?」


 レウスが反射的に重力魔法グラヴィトを発動させる。


「ぐおおああああ!?」

「キャアァですわ!?」

「重いっスぅぅぅ!?」


 地面に叩き付けられる3人の人影。それは、ジェラルドの見覚えのある者達だった。


「パルガス達じゃねぇか……なんでこんな所に」



「レッドツリーの村でサリア殿から頼まれたのである」


「そうか。サリアのヤツが頼んでくれたのか……って、お前らわざわざレッドツリーの村まで行ったのかよ!」


「ん? 沼を抜けて村に行けと言ったのはジェラルド殿であるぞ?」

「そうですわ!」

「だから俺たちレッドツリーの村に行ったっス!」


「いや、もっと近い村あっただろうが」


「意外に遠くて焦ったのである」

「マークが半泣きになって大変でしたわ」

「う、うるさいッス!」


 言い争うパルガス達。その様子を見てジェラルドはため息を吐いた。



「そんなことより! 我らはジェラルド殿を手助けする為にやって来たのである!」



「手助け……?」



「そう。恩を受けた相手にそれを返すことこそ騎士たる者の務め!」

「その気になれば魔王軍といえどなんとかできますわ!」

「怖いけど戦うッス!」


 気合いを入れる3人。その様子を見てレウスは怪訝な顔をする。


「この者達は使えるのですか?」


「全く実力が分からねえ」


「それでは使い物にならないですね。力量も分からない兵士など使い道が無い」


 ジェラルドが考え込む。そしてぶつぶつと何かを呟くと、不適に笑った。


「いや、ピッタリの役回りがあるじゃねぇか」





 ◇◇◇


 数分後。


 魔族の尖兵達は消えたジェラルドの捜索を続けていた。


「ダメだ。川にもいないぞ」


「これで何時間だ? 丸一日以上探してるのに見つからないなんて」


「どこかで切り上げて周辺の村を探すか。このまま城に戻ったらザヴィガル様に殺されるぞ」


「ホントキツイよなぁ……あの人容赦ねぇんだもん」


 尖兵達が話している時、急に茂みがガサガサと揺れ動いたのに気がついた。


「おい! アレ!」


 慌てて茂みを除く尖兵達。そこには若い魔導士の女がうずくまっていた。



「ヒィッ!? お許し下さいですわ!」



「なんだぁコイツ……?」


 顔を見合わせる尖兵達。



「隙あり! なのである!」

「貰ったッス!!」


 尖兵の後頭部を剣で叩き付けるパルガス達。殴られた尖兵2人は泡を吹いてその場に倒れ込んだ。


「よし! 今だリーナ!!」


「了解ですわ!」


 リーナが杖を小さな竜……ケルドラコに向け、魔法を放つ。


岩石魔法ブロックシュート!」


「キャウンッ!?」


 現れた石つぶてがケルドラコに直撃し、ケルドラコがのたうち回る。その声に釣られて空兵や他の尖兵達かパルガス達の元へと集まって来る。



「魔王の手下共よ!我らが成敗してくれる!!」



 パルガスが大仰な仕草で剣を構える。しかし、尖兵達は怯みもせず彼らに襲いかかった。



「人間がいるぞおおおぉおぉ!!」



「ヒィ!? やっぱり怖いッス〜!!」



 パルガス、リーナ、マークの3人が背を向けて走り出した。



「逃すなああああああ!!」



 大量の尖兵達が、パルガス達を追って森の中へと入っていく。



「死ぬ気で走れお前達ぃ!!」

「死にたくないですわ!?」

「捕まったら殺されるッス!?」



 騒ぎながら逃げる3人。彼らのうるさい声で追いかける兵士達はどんどんと数を増やしていった。尖兵、空兵、ケルドラコ……周囲の魔王軍の者は皆、パルガス達の後を追って行った。



 ……。




「上手くいったな」


 周囲が完全に人がいなくなった後、ジェラルド達が別の茂みから顔を出す。


「騒がしさが役立つとは……」


「ほら、役に立ったろ? どんなヤツでも役に立つ瞬間ってのはあるもんさ」



「……そういうことにしておきましょう」



 ジェラルド達は城へと向かった。




―――――――――――

 あとがき。


 パルガス達の活躍?で無事兵士達の目を掻い潜ったジェラルド達。次回。いよいよザヴィガルとの再戦です。

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