第66話 ガルスソードⅢ

 カンカンカンと金属音が響く。半分に折られたガルスソードがさらに4本へと分けられ、8本へと。


「何やってんだよ」


「うるさいのぉ。それよりジェラルド」


 カンッというハンマーの音が止み、ガルスマンがジェラルドを見る。


「お前を助けて来れた男には会ったのか?」


「あ、必死すぎて忘れてたぜ」


「はぁ……剣ができたらすぐ出発するんじゃろ? 今のうちに礼くらい言って来い」


「へいへい」


「ドラゴンメイルも置いていけ」


「え、何でだよ?」


「ちぃと細工がいるんじゃ」


 文句を言いながらジェラルドがドラゴンメイルを脱ぐ。


「じゃ、行って来い」


「ガキの使いかよ俺は」


「ワシから見ればお前なんぞガキもガキじゃ」


「ちっ」


 ガルスマンに見送られ、ジェラルドは家を後にした。



 助けてくれた奴か。確かサリアが宿屋にいるって言ってたな……。




◇◇◇


 村を突き進み、やたらとうるさい馬車とすれ違い、宿屋へと向かう。


 小さな宿屋の庭先では、フードの男が席に付き何かを書いていた。テーブルには魔導書、その姿はジェラルドは見覚えがあるものであった。


 男はジェラルドに気付くと爽やかな笑みを浮かべる。


「のどかな村ですね。心が安らぐようだ」


「お前……魔導列車の……レウス、か?」


「覚えて頂いているとは、光栄です」


 レウス……魔導列車を救ってくれた時に協力してくれた魔導士。こんな所で再会するなんて……。


 レウスが向かいの席を指す。それに案内されるようにジェラルドはドカリと椅子に座り込んだ。


「もう怪我は大丈夫なのですか?」


「あ、ああ……それじゃあお前が?」


 レウスが顔を背ける。


「魔法収集の最中、戦闘音が聞こえましてね。向かってみれば虫の息の貴方がいた」


「鳥男はいなかったか!? 魔王軍の幹部なんだ」


 レウスが一瞬沈黙する。そして顎に手を当てると思い出したように呟いた。


「いましたね。近隣の城へと飛んで行きました」


「そうか……」


 ジェラルドが深刻な表情でレウスの顔を見つめる。


「レウス。厚かましい願いだが聞いちゃくれねぇか?」


「嫌です」


「即答かよ」


「以前共にいた少女がいない。どうせ魔王軍からあの子供を助けたいなどと言うのでしょう?」


「その通りだ」


 レウスが大袈裟にため息を吐く。


「私に何のメリットも無い。以前貴方が在処ありかを教えてくれた禁呪・・も役に立ちそうにないですし」


「死者の記憶を垣間見る魔法だぜ? 使い方次第で何とでも使いようあるだろ」


「……」


 再びの沈黙の後、レウスが口を開く。


「魔王軍に顔を覚えられるという意味をお分かりですか? 私の魔法収集の妨げにしかならない」


「あの城にいる鳥男はコイツが無い限り魔王の所へ戻れねぇ」


 ジェラルドが懐から原初のアミュレットを取り出す。


「アイツはコレを手に入れる為に俺達を襲った。逆を言えばコレが無い限りどの面下げて魔王城に帰れるかって話だ」


「……なるほど。仕留めさえすれば問題無い、と」


「そういうことだ」


 レウスが再び首を振る。


「やはり私には何のメリットも無い。命をかけるほどの」


「じゃあ、こうしようぜ。俺達の依頼を完了した後にはなっちまうが……」


 ジェラルドが身を乗り出す。



「協力してくれたら、お前が求める場所のどこか1つに俺が案内してやる」



「どういうことです?」



 俺の持つ原作知識。それのおかげで秘境だろうが裏ダンジョンだろうが全て場所は把握してる。魔法収集をしているレウスなら役に立たないハズがねぇ。


 レウスが視線を彷徨わせる。何かを考えていることだけは分かったが、ジェラルドにはそれが何を指しているのかまでは分からなかった。


「貴方に教えてもらった禁呪。あれは遺体が無ければ記憶を読み取れないのですか?」


 禁呪? 何でそんなことを聞くんだ?


 ジェラルドは必死に原作知識を呼び起こす。ゲーム本編、設定資料集。その中に、禁呪についての解説があったことを思い出した。


「いや、禁呪は対象が生きていた頃の名残を追う。要はその土地に残った記憶に対象の生前の姿を呼び起こすって魔法……だったはずだ」


「……そうですか。なら、先程の貴方の提案について聞いても?」


「……? ああ聞いてくれ」


「ゲイル族の隠れ里……その場所は、知っておりますか?」


 ゲイル族? それってロナの……。


「知ってるぜ。俺もいずれそこに向かおうと思っていた」


「……分かりました。ならば、それを対価に協力致しましょう。しかし、私はあくまで支援。最前で戦うことは致しませんよ?」


「それで十分だ」


 よし。重力魔法を使えるレウスがいれば、ザヴィガルとの戦闘は大幅に戦いやすくなる。


 ……俺のペースに持ち込める。


 ジェラルドは、僅かな勝機を見出した。



◇◇◇


 レウスとザヴィガル戦の打ち合わせし、再びガルスマンの家と戻ったジェラルド。彼が戻って来た頃には、作業は終わっており、ガルスソードⅡとドラゴンメイルがテーブルの上に置かれていた。


「新しいガルスソードは?」


「後で説明するからまずは鎧を着ろ」


 鎧を装着していくジェラルド。


 ん? なんか前より重量が増えたような……。


 そう思ったのも束の間、最後にガントレットを腕にはめると、ドラゴンメイルに符呪エンチャントされた「荷重補助魔法」が発動して鎧の重さを一切感じなくなった。


「ほれ。お望みの物じゃ」


 差し出されたのは新たなガルスソード。しかし、それは以前のガルスソードと全く同じ形状をしていた。


「ウルフツァイト鋼を加工して作っておる。ガルスソードⅠと言う」


「ガルスソードⅠ……IIIじゃなかったか?」



「最後まで聞くのじゃ。コイツは威力は変わらんが攻撃を防いでも刃こぼれなどせん超硬度の一振り。これで多少戦いやすくなるじゃろ」


 鞘から剣を抜く。漆黒の刀身に波紋のような模様が浮かび上がる。


「その波紋こそウルフツァイト鋼の……超硬度の証じゃ。そしてガルスソードの特性を持つ一振り。後は分かるな?」


「攻撃後は盾代わりに使えるってことか」



「そう。そして、こちらが本命じゃ」



 ガルスマンがハンマーでジェラルドの鎧を指す。


「手首を上げて見ろ」


「は? 手首?」


「いいからやるのじゃ。両腕な」


 ジェラルドが怪訝そうな顔をして両手を捻る。すると、ガントレットの内側からカシャリと刃物が飛び出した。


「何だよこれ?」


 ジェラルドが飛び出した刃物を摘み上げる。それは、ソードというよりもナイフだった。



「それがガルスソードⅢ。それは8本で1対。元の使い込まれた剣だからこそ作れる代物じゃ」



 ガルスマンがハンマーでドラゴンメイルをコンコンと叩くと、ジェラルドの全身からナイフが現れる。



 胸部と腹部に合わせて4本、両腕に1対、両肩に1対の計8本のナイフが。



「これ……全身に仕込んであるのかよ!?」


「ドラゴンメイルに追加で加工を施したからの」


「でも何でナイフなんか」


「ナイフとバカにしてはいかん。お前が使い込み、よく刀身にスキルが馴染んだ剣はの……」


 ガルスマンがナイフを奪いジェラルドへと向ける。


「逃げる回数をフルチャージすればナイフ1本がガルスソードと同等の威力を放つことができる」



「な……!? まじかよ!?」



「そう。ただし、完全チャージの場合のみじゃぞ。それ以外の状態のガルスソードの攻撃は、全て使って通常のガルスソード1撃分じゃ」



「それでも3連撃分の攻撃になる……フルチャージすれば、10連撃だ」



「全てお前が剣を育てたからこそ作り出せた物。敢えて言おう。そのガルスソードⅢこそ、お前が持てる最強の剣。8本で1対の……な」


「最強の……剣、か」



 ジェラルドの隻眼に炎が宿る。



 待ってろよロナ、エオル、ブリジット。


 俺が絶対に助けてやるからな。




「ほっほ。らしい顔になったの」



 覚悟を決めたジェラルドの姿を、ガルスマンは嬉しそうな顔で見つめた。




◇◇◇


「よっしゃ。行くぜレウス!! ロナ達を助けに!」


「それは良いのですが……何故こんな所で立ち止まるのですか?」


「決まってんじゃねぇか。城に向かうまでの間……」



「グルルルル」

「ブキュギュ……」

「ギャギャギャ」


 周囲にはモンスターの群れ。城に向かう途中。ジェラルドが突然立ち止まったことですっかりモンスター達に取り囲まれてしまったのだ。


 狼種やスライム、コボルト達がジェラルドとレウスのことを狙っていた。


 その中でジェラルドは不敵に笑う。



「にげるんだよおおおおおおおおぉぉっ!!」



 ジェラルドはモンスターに追われながら城へと走った。



―――――――――――

 あとがき。


 新たな武器と再会したレウスと共に、ロナ救出へと向かうジェラルド。次回、そんな彼らの前に魔王軍が……?

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