第65話 目覚め

 誰かが名前を呼ぶ声がする。自分の名前を。


 ロナか?


 ん? 俺はなんで寝てるんだ?


 確か……原初のアミュレットを女王に届けようと……。


「ジェラルド」


 女の声で覚醒する。急激に記憶が蘇る。ザヴィガルにロナ達が捕まったこと、自分が攻撃を受け、動けなくなったことを。


「ロナ!!」


「きゃっ!?」


 目の前で驚く女性。その姿はジェラルドに見覚えのあるものだった。


「サリア……か?」


 周囲を見渡すと見覚えのある光景が広がっていた。


「レッドツリーの村……なんで俺はここに?」


「貴方を運んでくれた人がいたの」


「誰だよソイツ」


「私には教えてくれませんでした。村に滞在すると言っていたから宿屋にいると思いますけど」


「そうか……そうだ! 俺が運び込まれてからどれくらい経った!?」


「丸1日ほどです」


 マジかよ……悠長にしてたらアイツらがどんな目に遭わされるか。


「すぐ準備して行かねぇと!」


 ベッドを出ようとするジェラルドの手をサリアが握る。


「死にそうになっていたのですよ!? いくら回復魔法で怪我は治せると言っても……限度があります」


 悲しそうな顔をするサリア。彼女はジェラルドを行かせまいとその手に力を込めた。


「この前も大怪我していたのに……やめて下さい。もう反魂の眼帯も無いのですよ? 死んでしまったら……」


 涙目になるサリアを見て、ジェラルドは目を背けた。


「ロナ達が捕まったんだ。……魔王軍に」


「ま、魔王軍……?」


「エオルも、ブリジットも、このままじゃ……俺が助けてやらねぇと」


「貴方は弱いじゃないですか! 王都に救援を呼べば……」


「時間がねぇ。俺がやるしかない」


「……」


「すまんサリア。行かせてくれ」


 立ち上がるジェラルド。彼は背中越しにサリアへと声をかけた。


「治療ありがとな」


「そんなに、ロナさん……達が大切なの?」


「俺のパーティメンバーだからな」


「……変わりましたね、ジェラルド。この村にいた時とは全然違う」


「そうか?」


「ええ。これ以上は、何も言いません」


 部屋を出て行くジェラルド。静まり返るサリアの治療院。


 彼女は、何かを思うように部屋を出る。


 そして、隣の病室へと入った。そこには数人の人影があった。


「貴方達にお願いがあるのです——」




◇◇◇


 ジェラルドは村を駆けずり回り、戦闘に使えそうなアイテムを片っ端から買い漁った。毒薬、煙幕、巻物スクロールにポーション類……バクダンはサザンファム産なので手に入らなかったが。


「後は……ん?」


 慌てて治療院を出て来てしまったせいで腰にあるハズの物が無いことに気付く。


「ガルスソードが無い!! 治療院に忘れて来ちまったのか……?」


 周囲を見渡すジェラルドにある光景が目に入る。



「ガルスマンの所で剣が作られてる……?」



 それはガルスソードの生みの親、武器職人ガルスマンの家、その煙突から煙が出ていたのだ。武器が作られている証である煙が。



 ガルスマンの家をノックすると声が聞こえる。それに導かれるように中へと入ると、奥の工場で何かを作るガルスマンの姿が映った。


 ジェラルドの持っていはずの2本のガルスソード。それがガルスマンの家に置かれていた。


「おぉジェラルド! 目が覚めおったか!」


 ゴーグルを付けたガルスマンが大声を上げる。ハンマーを叩くカンカンという音が部屋中に響き渡り、自然とジェラルドも大声になる。


「なんで俺の剣がここにあるんだよ!?」


「お前ガルスソードボロボロにしおったじゃろぉ!? じゃからワシが作り直して・・・・・やっておるのじゃ!」


「ガルスソードがいるんだよ! 修理・・はいいから早く返してくれ!」


「ダメじゃ! 完成するまで返さん!」


「なんでだよ!!」


「勇者のお嬢さん達に何かあったんじゃろ!? 万全ではない装備で挑むつもりか?」


「う……っ!?」


「弱いお前が持ち得る力はそのオツムと道具だけじゃろ。それを忘れおって馬鹿者が……っ!?」


 怒りを込めてハンマーを叩くガルスマン。その姿にジェラルドの焦りが急激に消えて行くのが分かった。


「あと数時間かかる。どうせ今焦って出発した所でお前が負ければしょうがないじゃろ?」


「……ああ。そうだな」


 カン! とハンマーを叩くと、ガルスマンは剣を持ち上げた。


「じゃが。このガルスソードはもう使えん。損傷が激しすぎる」


「じゃあどうすんだよ?」


「ワシの秘蔵のアイデアをくれてやる。完成した剣・・・・・からでないと作れん一品を」


 ガルスマンが、ジェラルドが来てから初めて真っ直ぐ彼の顔を見る。



 不敵に笑うガルスマン。ジェラルドにとって、その姿が頼もしく見えた。



「作ってやるよ。お前の新たな剣を」



 ガンッという音と共にハンマーをふるい、ガルスマンはジェラルドの剣を真っ二つに叩き折った。



「ガルスソードⅢをな」



―――――――――――

 あとがき。


 剣を作り直さ無ければ作ることのできないガルスソードⅢ。それはどのような武器なのか……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る