第64話 師弟
ザヴィガルの城。
——ジェラルドが城を去ってから数時間後。
夜もふけった頃。石造りの城内でザヴィガルの声が反響する。
「クソ……っ!? なんで殺しちゃダメなんだよっ!!」
ザヴィガルが苛立つように壁を蹴る。
彼の元にやって来た魔王軍の使い魔。彼はその指示によってロナ達を殺すことを禁じられていた。
「ヴァルガンやフィリアを殺した奴なんだぞ!? なんで魔王様はよォ!!」
ザヴィガルが近くにいた尖兵をその大剣で切り裂く。
「ぐあっ!?」
真っ二つに切断された尖兵は一瞬にして光となった。
「おやめ下さいザヴィガル様!!」
「ど、どうか落ち着いて下さい!」
周囲の尖兵達がザヴィガルを羽交締めにするが、それでもザヴィガルは止まらない。力任せに2人の尖兵を投げ飛ばし、その鋭利な爪で引き裂いた。
「ぎゃああああ!!」
「あぐぅっ!!」
一瞬で光になる尖兵達。その光を吸収したザヴィガルが呟く。
「ケッ。なら別の憂さ晴らししてやるよ」
ギロリと魔法障壁に閉じ込められたロナを睨みつけるザヴィガル。彼は怒りを込めた瞳で障壁内を覗き込む。
「お前らの仲間。あの男を目の前で引き裂いてやるよ。ケケッ。殺すなと言われたのはお前達だけ。ならあの眼帯の男はどうなってもいいよなぁ?」
「お前……っ!?」
オーラを
「無駄なんだよ。ここの障壁は再生するよう改良を施してある。並大抵の力じゃ破れ無いぜ。カカッ」
ザヴィガルはひとしきり笑った後、再びロナを睨んだ。
「……テメェらに絶望を味合わせてやるよ」
ザヴィガルがその両翼を開く。
「ま、せいぜい体力を温存しておくんだな……泣き叫ぶためのよぉ! カカカカカカカカカカカカカカカカ!!」
疾風のように部屋を舞ったザヴィガルは、窓を突き破って森の方角へと飛んで行った。
◇◇◇
誰もいなくなった部屋で、ブリジットが障壁をガンガンと殴り付けていた。
「ダメで、あります……っ! ジブンの力もロナ殿の技でもすぐに修復されてしまう……」
「もうやめようブリジット。幸い僕達は装備を取られてない。障壁が解除された時に賭けよう」
「そうで……ありますな。殺さないと言っていたから、このままという訳でもないはずでありますし」
杖に寄りかかっていたエオルがポツリと呟く。
「兵士達はまたジェラルドを探しに行った見たいね」
先程のザヴィガルを思い出したのか、ブリジットの両眼の光が小さくなる。ションボリとする鎧騎士。項垂れるようにブリジットが呟く。
「無事でありますかな……ジェラルド殿」
「大丈夫! 師匠はザヴィガルになんて負けないよ!」
明るく振る舞うロナを、エオルは神妙な面持ちで見つめる。
「ロナ……そうね。きっと大丈夫」
エオルは口に出す直前で言葉を変えた。本当は「無理をするな」と言いたかった。だが、ここで彼女を気遣うことはむしろ不安を大きくさせてしまうと思ったからだ。
「ロナ殿の言う通りであります。それに、ジェラルド殿がジブン達と同じ立場なら次の手を考えるはずであります」
「敵がいない今は体力回復に努めるべきよ。私が見張りをするから2人は休みなさい」
「ダメ。エオルの魔法は複数戦闘で絶対必要だからエオルこそ休んで」
「ロナ……」
ポンと地面に座るロナ。彼女は抱きしめるようにルミノスソードを抱きしめる。彼女は瞳の奥にキラリと光を灯らせた。
「僕達はできることをしよう。だからエオルは休んで。ザヴィガル達との戦いでかなり魔力使ったでしょ?」
「……そうね。ありがたくそうさせてもらうわ」
「エオル殿。ジブンに寄りかかると良いであります」
鎧騎士の言葉に頷くとエオルは背を預けた。
「ブリジットも。鎧でも体力使うでしょ?」
「それなら、少ししたらジブンが見張りを交代するであります。この体勢でも見張りはできるので」
「……ありがとね」
ロナが障壁の外へと目を向ける。眠りにつく最中、その様子をエオルが見つめる。
自分達がこの後どうなるか分からない。
けれど……。
危機に陥っていても仲間を信じ、勇気付けるロナの姿。それは、形は違っても彼女の師匠、ジェラルドの姿とどこか似ていた。
「師匠なら……諦めない。絶対」
その言葉は自分自身に言い聞かせているよう。本当は怖いだろう。恐ろしいだろう。それでもこの少女は
「大丈夫よロナ。アンタも。ジェラルドも、きっと……」
エオルは、ポツリと呟いた。
―――――――――――
あとがき。
次回はジェラルドの視点でお送り致します。お見逃しなく。
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