第63話 罠と逃走
ザヴィガルが疾風のように空を駆ける。
「カカカ!! アミュレットは頂いて行くぜ!」
まずい。あれを奪われたら真エンドへの道が閉ざされちまう。
「追うぞ!」
「うん!」
ジェラルド達が追いかける。
「パルガスは仲間を連れて村に行け!」
「あ、あぁ……感謝する……」
残されたパルガスは複雑な表情でジェラルド達を見送った。
◇◇◇
ザヴィガルを追い、林の中を疾走するジェラルド達。途中、ロナが「エアスラッシュ」で攻撃を試みたが、空を舞う空将を仕留めることはできなかった。
「ねぇ! このまま魔王城まで逃げられたらどうするのよ?」
走りながらジェラルドがステータス上昇のポーションを飲む。素早さ、回避、体力上昇の効果が現れ、ジェラルドの体に淡い光が帯びる。
「アイツの飛行距離はそれほど長くねぇ!
ジェラルドの予想は当たっていた。しばらく彼らが追跡すると、ザヴィガルが小さな城へと逃げ込むのが見えた。
「逃げ込んだであります!」
「移動魔法を使われる前に早く行かないと!」
……。
…。
モンスターを薙ぎ倒し城の奥まで進むと、領主の部屋と思わしき広間でザヴィガルが待ち構えていた。
「ザヴィガル! アミュレットを返せ!!」
「カカカ! やっぱり来やがったか赤髪の女ぁ!」
ロナが放った剣撃をザヴィガルが避け、部屋の中を飛び回る。
「
「カカッ。そう慌てるんじゃねぇよ。オレが作った縄張りがダメになっちまうだろ?」
連続で放たれた火球を避け、ザヴィガルが部屋の奥へと舞い降りる。
「頭蓋割り!」
「危ねぇ〜これはお返しだぁ!!」
ブリジットが振り下ろした大斧を
「勇者一行は血の気が多すぎて困ったモンだぜ。これじゃあ話も出来やしねェ」
大袈裟な素振りで話し出すザヴィガル。その様子にジェラルドは違和感を覚えた。
なんだ……? ザヴィガルのヤツ、妙に落ち着いてねぇか?
「まぁ聞けよ勇者ども。この城も中々イカしてると思わないか? 豪華な装飾にこの部屋の広さ。石造りなのが寒々しい感じもするが……それも趣があるだろ?」
「そんなこと今関係ないだろ!」
叫ぶロナ。彼女の言葉を遮るように空将が続ける。
「この城はな。
「……この城の人達は?」
「カカ。勇者様は敗者のことが気になるのかァ?」
ザヴィガルが狂気を帯びた笑みを浮かべる。
「
ザヴィガルがそう言った瞬間。
ロナがその瞳を赤く光らせ、ザヴィガルの元へと駆け出した。
「みんな! 援護お願い!」
ロナの言葉にエオルも、ブリジットも走り出す。
「待てお前ら! これは挑発だ! 乗るんじゃ……」
ジェラルドが止めようとした瞬間——。
ザヴィガルが叫んだ。
「障壁展開を展開しろ!!」
その言葉と共にドーム状の「魔法障壁」が展開され、ロナ、エオル、ブリジットの3人がその中に閉じ込められてしまう。
「なにこれ……!?」
閉じ込められたロナが障壁の中を殴り付けるが、障壁を破ることはできなかった。
「カカカカカカ!! 言ったろぉ? 落とすのに苦労したってよぉ! この城は
ザヴィガルがニタニタといやらしい笑みを浮かべジェラルドを見る。
「後はぁ? お前1人だけだぜェ……オレは分かるんだよなぁ。お前が1番弱いってよォ!!」
言うと同時にザヴィガルが大剣を構えて襲いかかる。大剣の一撃を回避しようとするジェラルド。しかし、ザヴィガルの攻撃は完全に回避することができない。咄嗟にガルスソードを抜き、大剣攻撃を受け流した。
大剣の攻撃を受け流すたびにガルスソードが軋む。刃こぼれを起こし、その刀身が痛んでいく。
「く……っ!」
「オラァ!! テメェ1人じゃ何もできねぇのかァ!? カカカカ!!」
攻撃ギリギリで受け流しながらジェラルドの脳内が高速で回転する。
ガルスソードは両方とも使っちまった。今オレが持ってるアイテムだけじゃザヴィガルは倒せねぇ。どうする? 考えろ! ロナ達を救ってこの状況を抜ける方法を……っ!
ジェラルドの中でザヴィガルの言動が思い出される。
コイツは弱者を痛ぶるのを好むクソ野郎だ。それにアイツはアミュレット回収の任務を任されてるハズ……。
なら……。
ジェラルドの隻眼が探す。空将が持っているはずのアミュレットを。
そして、ザヴィガルの懐にアミュレットの首紐を発見する。
「これで終わりだぁ!!」
ザヴィガルの攻撃を無視し、手を伸ばすジェラルド。そんな彼を大剣が切り裂く直前──。
「うおおおお!!」
ジェラルドの眼帯がキラリと光を放った。
本来避けられないはずの剣撃が
「な、なんだとっ!?」
ジェラルドは「運命の眼帯」を発動させていた。逃走回数254回まで蓄積された眼帯スキル「回避」は人の認知を超える速度で攻撃を回避させた。
ジェラルドがザヴィガルを蹴り飛ばす。隙を突かれた形となった空将が体勢を崩す。
それを見逃さずジェラルドが「原初のアミュレット」を奪い取った。
ザヴィガルに主導権を握らせるな。ヤツのプライドを傷つけろ。
「へっ。鳥野郎が。テメェ程度のオツムじゃこのジェラルド様には勝てねぇんだよ!!」
圧倒的優位だと思い込んでいた状況が崩された屈辱、アミュレットを奪われた焦り、そこにジェラルドの挑発が加わり、ザヴィガルの顔が怒りに歪む。
「貴様程度がぁああああ!!」
かかった!
ザヴィガルが襲いかかると同時にジェラルドがスキル「にげる」を発動させ城の窓を突き破る。
ジェラルドがチラリとロナ達の方を見る。彼女は深刻な表情でジェラルドを見つめていた。
すまんロナ。今は「助けに来る」と安心させてやることができねぇ。だが、絶対助けてやるからな。
「逃すかああアアアア!!」
背後から
「
空中で身を
「っぶねぇ!」
咄嗟に大地に飛び込み回避するジェラルド。周囲の木々が真空の刃に切り裂かれ宙を舞う。ジェラルドは無事だった木々の後ろに隠れた。
「どこだァ!! 絶対逃さないからなァ!」
空中からジェラルドを探すザヴィガル。その声が森一帯に響き渡る。
やっぱボスクラスから逃げるのは並大抵じゃねぇか。
ジェラルドが持っていたありったけの煙玉をバクダンにくくりつけ、空中へと
「クソが!! ふざけた真似しやがって!!」
これで多少マシなはずだ。今のうちに──。
「
ジェラルドが走り出した瞬間に大量の真空の刃が放たれる。
そのうちの一撃がジェラルドの背中に直撃する。
「が……!?」
猛烈な痛みが彼を襲う。一撃一撃が低威力の範囲攻撃とはいえ、レベル10の彼には致命傷になり得るほどの攻撃であった。
回復の
「ぐ……だめだ。ここでやられたらみんなが……ロナが……」
痛みに堪えながら煙幕の中を進むジェラルド。しかし、やがて彼は意識を失い倒れ込んでしまう。
「だ……めだ……オレは……こんな所で……」
ジェラルドの前に何者かが立ち塞がる。
ザヴィガル、か? 次の手を早く……。
力を振り絞り見上げた先にいたのは、無表情で自分を見つめるローブの男…… 見覚えのある男の姿だった。
コイツ……魔導列車の……。
そこまで考えが至った所で、ジェラルドの意識は暗転した。
―――――――――――
あとがき。
逃げ切ることが叶わず倒れてしまったジェラルド。しかしその前に現れた者は……。
その前に次回は捕まってしまったロナ達の視点でお送り致します。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます