原初のアミュレット編
第58話 愚か者
ジェラルド達がボルティア地方へと向かっている頃。
──魔王城。魔王の間。
魔王軍知将シリウスは魔王城へと呼び出されていた。
「ヴァルガンに続きフィリアまでも消滅するとは……シリウスよ。2人を倒した者の調査結果を報告せよ」
魔王デスタロウズが冷たい瞳でシリウスを見下ろす。
「はっ」
「幹部達の監視に当たらせていた使い魔。その情報によると、2人は眼帯にドラゴンメイルの男……そして同行している赤髪の少女に倒されています」
生き残ったフィリアを自ら手にかけたシリウス。しかし彼はそれを歯牙にもかけない様子で嘘の報告をした。
「この世界の人間達に我が子らが殺されたと?」
「はい」
デスタロウズが拳を玉座に叩き付ける。
「許せぬ……っ! 我が創造物を消すなどと」
「デスタロウズ様」
「なんだ?」
「その人間達がどのような人物か、調査したく思います。私に一時自由を頂けませんでしょうか?」
「どうする気だ?」
「ヤツらに近付き、その信頼を得ようかと」
「信頼だと?」
「はい。いずれ御身の前に差し出す為に」
「……」
「デスタロウズ様。私の姿は人間のそれと同じ。必ずや期待に応えてみせましょう」
「……人間の
魔王デスタロウズはモンスターやシリウス達のような魔族といった生命を創造する力を持つ。それにはオリジナルの理解が必要であった。
だが、優秀な兵士を作り出そうとしていた魔王の計画は、ある出来事の影響で一度失敗していた。
「今度こそ完成させられるか……我の新たな器を」
デスタロウズがブツブツと1人事を言う。
その様子を、シリウスは無表情で見つめる。そして意を決したように口を開く。
「デスタロウズ様。実はもう1つお伝えしたいことが」
「なんだ?」
「そのうちの1人。赤髪の娘は消えた器の可能性がございます」
「……」
ひとしきり考えた
「良かろう。自由に動くがよい。それと全軍に通達せよ。赤髪の娘を殺すなと」
「はっ。ありがとうございます」
シリウスが深く頭を下げる。それと共にあることを考えていた。
……次の行動への布石を打っておくか。
彼は、今日魔王城に入ってから感じていた違和感を口にする。
「そういえば、空将ザヴィガルは? 城内に見当たりませんでしたが」
「ザヴィガルには任務を与えた」
「ザヴィガルに? なぜあのような者を?」
「我に
「しかし、ヤツは……」
「我に意義を申す気か?」
「……出過ぎた真似を申し訳ございません」
「よい。我は貴様を高く評価している。
「はい」
「だが……野心に取り憑かれた者は裏切りを産む。貴様は我の創造物。それを忘れるでないぞ」
野心……か。そんなものに興味などない。
「心に刻んでおきます」
「では期待している。その人間共を必ずや我が前に引き摺り出してみせよ」
「必ず」
そういうと、デスタロウズの玉座は闇に溶け込むように消えた。
誰もいなくなった玉座の間でシリウスは思考する。
ザヴィガルの任務、か。
あの魔王の反応……恐らく、自身の弱点に関する物だろうな。偉大な魔王様は自分の命に執心しているようだ。
数多の命を奪っておきながら、業の深いことだな。
だが、そうであれば事態は予測しやすい。
私が見た古代の文献通りであるならば、サザンファムの女王を狙った理由にも繋がる。アゾム女王の力が無ければあの
フィリアの失敗でアゾムは警戒心を抱いた。魔法障壁のあるサザンファムにはもう魔王軍は手出しできないだろう。
だからこそ、アミュレットを……狙う。
よほど恐れているのか。魔導具「原初のアミュレット」を。
だが、そのことにアゾムも気付いているだろう。原初のアミュレットはこの世界の外敵を払う為のものだからな。
アゾムの信頼を得たジェラルド達はアミュレット回収を依頼されるはずだ。
事態がどのように展開するか……私はしばらく様子を見るか。
……しかし。
ザビィガル……。
己の快楽の為に合理的では無い行動をする愚か者。同じ幹部として全く理解できない存在だな。
ジェラルドとロナがザヴィガルとぶつかるのは必至。恐らくザヴィガルは負けるだろうが……保険は必要だな。
シリウスが己の手を見つめる。
私も、動くか。
かなりの賭けになるが、原初のアミュレットが力を取り戻すことは、目的を達成する為に必要なことだ。
……。
命を張らねばいけない時も、ある。ジェラルドという男はそう言っていたな。
論理的でない者達は嫌いだが……。
久々に名乗らせて貰うか。
私のもう一つの名、「レウス・ゴルドウィン」……ドロシーに貰った名前を。
―――――――――――
あとがき。
シリウスは一体どのように動くのか。そして新たな幹部「空将ザヴィガル」その実力は……?
「原初のアミュレット編」をどうぞご期待下さい。
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