第59話 アミュレット輸送任務
ジェラルド達がサザンファム地下王国を出発してから1ヶ月後。
サザンファムから遠く離れた辺境の地。ボルティア地方、貴族ラウロンの屋敷。
ジェラルド達はアゾム女王の依頼で秘宝「原初のアミュレット」輸送の仕事を請け負っていた。
ジェラルドがその依頼を快諾した理由。それは原初のアミュレットを魔王の手に渡さないこと……それが真エンドへの分岐イベントだったからだ。
まさか原初のアミュレットがダンジョンから持ち出されて貴族の手に渡ってるとはなぁ。ダンジョンに無かった時は焦ったぜ。
「ええと……お前達がアゾム女王の使いだと?」
原初のアミュレットの現所有者、貴族ラウロンが困惑した顔で書面を読む。
「ああ。その『原初のアミュレット』輸送の任務を請け負ってるぜ」
「いや……しかしなぁ……」
ラウロンがジロジロとジェラルド達を見回した。
「子供に若い女、トロそうな鎧……本当にお前達がサザンファムの使者なのか?」
ラウロンの言葉にロナもエオルもムッとした顔をする。
「トロいとは侵害でありますな! それにその手に持ってる書面はサザンファムの物で間違いないハズであります!」
「それはそうなんだが……いや、心配でな」
ラウロンは警戒したような顔で
「頼むぜ。俺達も仕事こなせないと困るからよ」
真エンドの為にも必要なことだしな。
「うむむ……しかし、お前達にこのアミュレットの価値が分かるのか? これは領地が丸ごと買えるほどの」
「だからこうやって宝石を預かって来てるんだろ? サザンファム産の宝石。それもこの量……金銭的にはアンタの方が得する目算だぜ?」
ジェラルドは、もしもの時の為にとアゾム女王から渡された宝石を提示していた。
「だがなぁ……無事に届けられるかは別問題……もし宝石だけ受け取って品を渡さなかったとらなれば我が一族の名に傷が……」
どんだけ心配症なんだよ。
腕を組んで考えるラウロン。そんな彼に先ほどから様子を見ていた男が声をかけた。
「ラウロン様。心配ならない
「おお! パルガス殿が同行してくれるのか! それなら安心だ」
パルガスと呼ばれたのは髭を蓄えた騎士。その風貌から彼自身も高貴な家柄だと一眼で分かった。それに魔導士の女に軽装の男が笑みを浮かべた。
「なんと言ってもラウロン様の持つ高貴な品で
あるからな」
「パルガス殿は我が父の頃より尽くしてくれる腕利きの騎士……良かったな。君達」
ラウロンが爽やかな笑みを浮かべる。
「任せて欲しいのである」
主君の言葉にニヤリと笑うパルガス。彼は得意気にその口髭をさすった。
ジェラルドがパルガスの顔をジッと見つめる。
「なにか?」
「……ふぅん。俺はかまわねぇぜ」
ラウロンの依頼により、ジェラルド達に別のパーティが同行することになった。
◇◇◇
屋敷を出て馬車に乗るジェラルド達。彼らを横目にパルガス達はヒソヒソと何かを話していた。
「やったっスねパルガス様」
「この任務をこなせば報酬もたんまりですわ」
「2人とも辞めないか。はしたないのである」
パルガスがジェラルド達をチラリと見る。
「貴殿らも安心されよ。モンスターなど我らの前にはチリも同然。快適な旅を保障しよう」
「そうですわ! ワタクシ達にお任せなさい!」
「眼帯の兄さんの出番は無いッス!」
笑うパルガスに彼のパーティメンバー達。ジェラルドはため息を吐いて彼らを見た。
「アンタらなぁ……この依頼の意味分かってんのか?」
「意味、であるか?」
「このアミュレットは魔王軍に狙われてんだよ。絶対に襲撃がある」
「何言っているの? このお方は?」
「魔王軍……だって?」
パルガス達は一瞬怪訝な顔をしたが、すぐに小馬鹿にしたような笑みを浮かべた。
「わっはははははは!! 吾輩達なら楽勝である! なぁリーナ?」
「そうですわ! パルガス様こそボルティア地方最強の騎士! 魔王軍なんて楽勝です! ね? マーク?」
「そうだぜ! パルガス様なら楽勝さ!」
馬鹿笑いする3人。それを見たエオルが呆気に取られる。
「の、能天気な奴らね……」
「ボルティアは田舎だからなぁ……魔王軍見たこと無いんじゃねぇか?」
ジェラルドの言葉にパルガスの眉がピクリと反応する。
「ジェラルドとやら……今のは聞き捨てならないであるな」
パルガスがジェラルドの顔を覗き込む。
「吾輩達に仕事を奪われそうで
「冒涜? そんなつもりはねぇぞ」
「いいや! 心の中で言っておったのだろ? 『ぷっ、こんな田舎に住む騎士パーティなんてどうせろくに力も無いヤツらだろ』と!!」
「師匠、この人目が血走ってるよ……?」
「昔なんかあったんだろ」
「我らはバカにされた日から鍛錬を積んだのだ!」
「そうですわ! 都会被れの貧弱パーティなどには好きにはさせませんわ!」
「オイラ達3人で
ロナがレベル50。エオルとブリジットは48。
守ってやんなきゃいけねぇのは俺達か……ま、俺はレベル10なんだがよ。
「俺らは楽させて貰えるならそれでいいけどよぉ」
挑発にジェラルドが乗らなかったことにパルガスが笑い出す。
「フハハハハハ!! 凄んだ瞬間その態度とは、飛んだ
「アンタのその思考回路に驚きだぜ」
己の師匠がバカにされたことでロナの目がうっすらと赤みを帯びる。
「おじさん……師匠のこと馬鹿にしてるの?」
「やめろロナ。意味ねぇことするな」
2人のやり取りを意に介さない様子でパルガスが続ける。
「ハッハッハ! もし魔王軍の襲撃があれば守ってやろう。報酬は、そうだな。その騎士の鎧にでもするか」
ブリジットの鎧に中身がないことを知らないパルガスは、その鎧を舐めるように見回した。
「え!?
ブリジットの言い回しにパルガスが
「ん? まぁいい。その刻印に頑丈そうな造り……手直しすれば吾輩に相応しい物になりそうである」
その視線に嫌悪感を露わにして飛び退くブリジット。
「ヒィッ!? ジロジロ見ないで欲しいでありますこのヘンタイッ!!」
「き、騎士に向かって変態とは無礼なヤツであるな!!」
「パルガス様に失礼ですわ!」
「そうだぜ! 今すぐ謝れ!」
パルガスがビシリとブリジットを指す。
「貴様のような礼儀の無い騎士にその鎧はもったいない。必ずや
その瞬間。
ブリジットは悪寒を感じたように体を震わせた。
「ジェラルド殿ぉ……コイツら嫌であります……」
怯えたようにブリジットはジェラルドの背に隠れる。
「はぁ……先が思いやられるぜ……」
こうして、ジェラルド達はパルガスパーティと短い旅を共にすることになった。
―――――――――――
あとがき。
同行することになったパルガス達。強気な彼らの実力や如何に……。
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