第60話 襲撃

 ジェラルド達は馬車で4日ほどかけてサザンファムへと向かっていた。


「ねぇ、今ってどの辺り?」


 杖に身体を預けたエオルがジェラルドへと話かける。


「この木の種類……アレクス沼あたりかな」


「もうそんな所まで? やっぱり馬車の旅は楽でいいわねぇ。ね、これからは馬車で旅しない?」


「バカ言うなよ。金もったいないだろ?」


「え〜? ロナも馬車の方が楽で良いわよね?」


「僕は歩きの方が良いかな。修行にもなるしね!」


「あ、アンタに聞いたのが間違いだったわ……」

 


「アレクス山脈であります! ジブンの遺跡の近くであります! 帰って来た感じが致しますなぁ〜!」



 ブリジットが荷台から身を乗り出す。勢い余って体勢を大きく崩してしまった。



「わっ! わっ! であります!?」


「危ないよ! ブリジット!」


 咄嗟にロナがブリジット首元を掴み、馬車に引き戻す。


「はぁ……死ぬかと思ったであります……」



「騎士たる者が情けない……」



 荷台前方からパルガスが馬鹿にしたような声を上げた。


「なんだよパルガス。まだ田舎モン扱いされたのを根に持ってるのか?」


「吾輩は田舎モンではない!」

「愚弄はおやめなさい!」

「ボルティアは田舎じゃありませんぜ!」


 怒り心頭の3人。それを見てエオルが困惑する。


「よっぽど効いてるのねぇ」


「ちょっとそこのクルクルヘアーの魔導士さん!? そんなこと言う貴方は何処の出身ですの!?」


「王都エメラルダスだけど……」


「ぐはっ!? お、王都……ですの……?」


 パルガスパーティの魔導士、リーナは被りを振ってエオルを睨み付ける。


「ど、どこで魔法を習いましたの!?」


「王都魔法学院だけど……」


「ぐはぁっ!?」


 リーナはよほどダメージが大きかったのか、後ろに仰け反った。


「リーナああああ!!」


 パルガスがリーナを抱き抱える。


「貴様らぁ……っ! 出身を自慢し、ウチの紅一点を傷付けおって……っ!?」

「絶対許さないッスお前達! 俺達を田舎モン扱いしやがって!」


「私は聞かれたから答えただけよ」


「勝手にダメージ受けたのはそっちであります」


「うるさいうるさい! 吾輩達を何度も苦愚弄しおって……っ!?」


 などと、どうでも良い会話をしていた時。



 外から声が聞こえた。



「アミュレットを積んだ馬車はあれだ! 取り囲むぞ!」



「お、この声……魔族の尖兵か。やっぱり来やがったな」


 ジェラルド達がキビキビと戦闘の準備を整える。


 ジェラルドがドラゴンメイルに装填されたアイテム達を確認する。


 ロナが馬車のホロをめくり、外を覗いた。


「師匠。馬車の周囲に尖兵が5体……いや、6体いるよ」


「よし。ブリジットは後方の敵、ロナは前方のを頼む。エオルは広範囲魔法でサポートな」


 3人が頷く。そのタイミングで外からバサバサと鳥の羽のような音が聞こえた。


 ジェラルドはガルスソードに手をかけると、立ち上がった。


「この羽音、『魔族の空兵』もいるな。俺はソイツを狙う。パルガス達は任せたぜ。ロナ」


「うん!」


「エオル。俺は飛べねぇから空兵倒す時は炎風魔法タービナスフレイム頼めるか?」


「まっかせなさい!」



 ジェラルド達のやり取りを見て、パルガス達が困惑したような顔をした。


「お、おい……どうしたのであるか?」


「魔王軍が来たぜ」



「ま、魔王軍ですの!?」

「本当に襲って来たッスか!?」



 顔に怯えの色が混ざるパルガス達。


「ど、どうするの? パルガス様ぁ……」

「て、敵多いみたいッスよ? ザコモンスターだけだと思ってたのに……」


「ええい! おち、落ち着け2人とも! ぜ、全員で1人ずつ確実に倒していってだな……」



 それを見たジェラルドは思考を回す。



 ……この反応、戦闘経験はほぼ無い感じだな。結晶竜の話もハッタリかもしれねぇ。



 アミュレットを持ってるのはパルガス。守りながらの戦いはちょっとめんどくせぇな。



「パルガス。アミュレットを俺達に預けてくれ」


「ダメだ! これはラウロン様から預かった品だ! 決して離す訳にはいかん!」



「お前なぁ……」



「師匠。尖兵達が近付いて来てる!」


 クソ。悠長に話してる時間ねぇか。


「分かった。なら俺達が囮になる。お前達はその隙に逃げろ」


「そ、その後どうすればいいッスか!?……」



「アレクス沼を超えた先にがある。そこで落ち合おうぜ」


「わ、分かったのである。だがこれは逃走ではないぞ? 吾輩達は戦略的撤退を……」


「あーあー分かった分かった。俺らが動き出してから馬車から抜け出せよ?」


「あ、ああ……」

 

 バツの悪そうなパルガスを横目にジェラルド達が荷台後方へと移る。

 

「ブリジット、フォロー頼む」


「了解であります!」


 ブリジットが馬車を飛び出す。数秒後、ブリジットのスキル名と尖兵達の叫び声が聞こえた。


「よし! 俺らも行くぞ!!」



 ジェラルド達も馬車を飛び出していく。



 その様子を見たパルガスはポツリと呟いた。



「なんだあれは……歴戦の戦士のようではないか……」



―――――――――――

 あとがき。


 次回。魔王軍対ジェラルド達の戦闘回です。

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