第61話 救いの手
「お前らこっちだぜ!!」
ジェラルドが右手に何かを握りながら魔族の尖兵達から逃げる。馬車の裏手へと逃げる彼の右手には首ヒモがユラユラと揺れていた。
「アミュレットを持っているぞ!! 追え!」
魔族の尖兵達がジェラルドを追い馬車の裏側へ回り込む——。
「ふんっ!! であります!」
死角に潜んでいたブリジットが大斧を叩き付けた。
「ぐおおっ!?」
斧攻撃をまともに喰らった尖兵が、一撃で光になる。
「今であります! 早く!」
馬車の中から慌てて出て来るパルガス達。彼らは怯えたようにその場から逃げ出していく。
「か、感謝するのである」
「早く逃げるのですわ!」
「オレ達には無理だったんだよぉ!」
3人は隙をついて森の中へと消えて言った。
「隊長! 馬車から逃げ出した者がおります!」
尖兵の1人が指揮をしていたモンスター「魔族の隊長」へ向けて叫ぶ。
「どうでもいい! 今は眼帯の男を追え!」
「わ、分かりました!」
残りの尖兵達がジェラルドの持つアイテムに釣られるようにその後を追う。
が。
「これが欲しいならくれてやるぜ!!」
ジェラルドが右手のヒモを引っ張り、尖兵へと何かを投げ付ける。
「お、お!? 手に入れたぞ!!」
「おい待て! それは私が……っ!」
尖兵がそれを両手でキャッチし、もう一体と共に手の中を覗き込んだ瞬間。
轟音と共に爆発が巻き起こる。
「ぎゃああああああ!?」
「うわああああああ!?」
「へっ。サザンファム産バクダンだぜ。仲良く吹き飛びな!」
アミュレットに見立ててジェラルドが持っていたのは、紐を引くと爆発するアイテム「バクダン」だった。
「くっ!? 他の者はいるか!?」
焦って仲間を呼ぼうとした魔族の隊長の懐に赤髪の少女、ロナが飛び込む。
「しまっ——っ!?」
「
驚愕の表情を浮かべる魔族の隊長へ無数の斬撃が刻み込まれる。
「がはああああっ!?」
斬撃に切り刻まれた隊長が光となり、ロナへと吸収された。
「貴様らああああああ!!」
空を飛ぶ「魔族の空兵」が両腕の翼をはためかせ、
それを避けながら、ジェラルドが空兵へと向かい走って行く。
「エオル!」
「分かってる!
エオルの放った炎……彼女の魔力と共に周囲の空気が熱せられ、上昇気流を発生させる。それがやがて渦を巻き、竜巻となっていく。
「うおおおおおおお!!」
ジェラルドが飛び上がり、ガルスソードの抜刀の構えを取る。
鶏の模様が黄金色に輝き、抜刀と共に周囲に朝日のような眩い光を放つ——。
「ガルスソード!!」
ジェラルドの剣撃が空兵を一閃する。
「が……っ!?」
一瞬の空白。
「がは……あぁ……」
その
「ジェラルド殿〜! ジブンが受け止めるであります!」
走って来たブリジットがジェラルドを受け止める。
「サンキューブリジット」
地面におりるジェラルド。彼の元へロナとエオルが走って来た。
「師匠。こっちも全部倒したよ」
「以外に数がいたわね」
「とりあえず最初の襲撃はなんとかなったな。パルガス達を迎えに行くか」
◇◇◇
ジェラルド達が尖兵達を倒した頃。
——アレクス沼。
「はぁ……はぁ……パルガス様、ワタクシもう限界ですわ……」
「お、俺も……はぁ……もう走れない……ッス」
「2人共……分かったのである。少し休もう」
パルガスが2人を支え、木の影へと連れて行く。
「すみませんですわ。足手まといになってしまって」
「気にすることはない。むしろ良くここまで走ったのである」
落ち込むリーナを労うように、パルガスは彼女の頭にポンと手を置いた。
「吾輩は周囲を見て来るのである。戻って来たら、もう一度歩けるか?」
「分かりましたわ」
「今のうちに休んでおくッス」
パルガスは2人に微笑みかけると、木の影を後にした。
アレクス沼は霧が出ており、視界が悪かった。
「あまり遠くに行くと、リーナ達の場所が分からなくなるであるな」
周囲を回って敵がいないかを確認するが、尖兵達の姿は見当たらない。
「……大丈夫そうであるな」
パルガスの緊張が緩む。それと同時にこの任務を受けてしまったことへの後悔が浮かんだ。
「まさか、魔王軍と戦うことになるなんて……」
パルガスは腕には自信があった。ただし、それはあくまで地元でのモンスター退治の話。魔王軍と戦うと考えただけで彼の中で恐怖が勝ってしまったのだ。
「いかんいかん。吾輩が弱気になってどうする。リーナやマークを連れ出したのは吾輩だ。このままでは示しがつかんでは無いか」
パルガスが懐から原初のアミュレットを取り出す。
「吾輩を信用してコレを預けてくれたラウロン様の為にも、なんとしても村へ」
「カカッ」
突然、不気味な笑い声が聞こえた。
「な、なんであるか? 今の声は」
パルガスが降り向こうとした瞬間。
上空から何者かが襲いかかって来た。
大きな羽根の音と共に、鳥のような脚がパルガスの両肩をガシリと掴む。
「がっ!?」
「クカカカカカカカカ!! 逃げ出した方を見張っていたがぁ? どうやらこっちの方が当たりみたいだったなぁカカカカカカカカカ!!」
パルガスの身体が空高くへと舞い上がる。鋭利な爪が食い込み肩から血が滲む。
「ぐ、ううああ……」
痛みを堪えて上を見上げると、鳥と人間を混ぜたような怪物が、自分を掴んでいるのが見えた。
両腕に大きな鳥の羽根を持ち、背中に大剣を背負った鳥男。それが怪物に抱いた印象だった。
「な、なんだ貴様は!?」
「カカッ! オレかぁ? オレはなぁ!!」
鳥男が空中へパルガスを放り投げる。突然フワリとした浮遊感が彼を襲った。
「うわああああああああっ!!」
地面に叩きつけられ、両足があらぬ方向にへし折れてしまう。
「あ"っ!? 脚が……っ!」
あまりの痛みにパルガスは呻き声をあげる。
「カカカカカカ! 良いねぇその声ぇ!」
鳥男が両腕を開く。その大きな翼に鋭い眼光。鷹のような顔をした男はニタニタと笑みを浮かべる。
「オレは魔王軍空将ザヴィガル。お前の持つアミュレットを奪いに来た」
「く、空将だと?」
「そうだぜ。カカッ。幹部直々に殺されるか。アミュレットを渡すか。選べ」
「ぐ……っ渡す訳には……」
「そうかい」
ザヴィルガルが急降下し、パルガスの右腕へその強靭な脚を叩き付ける。
「がああああああっ!?」
ゴキリという音と共にパルガスの右腕が折れてしまう。
「カカッ。面白いが……イマイチおっさんの声ってのはそそらねぇなぁ」
「あ"っああ……」
声ともならない声を上げるパルガス。
「じゃあこうしようぜ。アレを見ろ」
ザヴィガルがその脚で無理矢理パルガスの顔をある物へと向かせる。
彼の瞳に映ったのは……。
木に吊るされた仲間達の姿だった。
「う、う……うぅぅぅパルガス、様……」
「い、痛いぃぃぃ……」
2人共、体に枝が突き刺され、無理矢理空中に浮く形にされていた。
「リーナぁ!! マーク!!」
ザヴィルガルの翼のような手がパルガスの顔を掴む。
「カカカカ。オレの習性でよぉ……ついつい獲物はああやっちまうんだ」
「やめろ……アミュレットは渡すから……仲間には手を出さないでくれ……」
「おぉ! 良い反応だぜ! じゃ、アミュレットをよこしな」
パルガスが残った左手でアミュレットを差し出した。ザヴィルガルがそれをひったくるように奪うと空へと舞い上がる。
「よし。それじゃあ……これで」
そして……リーナの元へと舞い降りた。
「お前らは用済みだなあああああカカカカカカカカカカカ!!」
今度はリーナの両腕を脚で掴むと徐々に力を加え始めた。
「い"いぃぃ!? パルガス様ぁ"助けて……」
「やめろおおおお!! 手を出すなと言っただろう!!」
「カカカカカカカ!! この女引き裂いてやるよぉ!!」
ギリギリと嫌な音が鳴り、リーナの苦痛の声が漏れる。
「い"やぁぁ!? パルガス様ぁ"!!」
身体を動かすこともできないパルガスは嗚咽を漏らしながら呟いた。
「誰かぁ……誰か助けて……くれ、リーナを……」
「エアスラッシュ」
突如聞こえた技名と共に、巨大な風の刃がザヴィガルへと直撃する。
「ガァっ!?」
吹き飛ばされるザヴィガル。翼をはためかせ、空中で体勢を整える。
「クソがっ!? もう尖兵共を倒しやがったか!?」
ザヴィガルが攻撃の発生源を探そうと周囲へと気を向けた時。
「な!?」
轟音が響き渡り、爆発が空を明るく染め上げる。
「グアアアアアアアアッ!?」
マントを
「おじさん。遅くなってごめん。もう大丈夫だからね」
ジェラルドのガントレットがバカリと開き、回復の巻物(スクロール)が発動する。その暖かな光がパルガスの痛みを消し去った。
「仲間達も治すからよ。後は俺達に任せとけ」
2人の言葉に、パルガスは涙を流した。
―――――――――――
あとがき。
現れた空将ザヴィガル。果たしてジェラルド達はザヴィガルを倒せるのか……?
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