第40話 宝石のオーグェン

 ジェラルド達は女騎士ルリーナに連れられ地下門へとやって来た。


「この地下門はお前達が入国した地上門とは異なり、この先の地下空間へと繋がっている」


「ルリーナさん。僕達が倒すモンスターはどんなヤツなの?」


 ロナが訪ねると、ルリーナが何かを取り出した。


「何よこれ?」


「宝石でありますか?」


 全員がルリーナの差し出した何かを覗き込む。そこにはキラリと輝きを放つ石が1つ。


魔獣・・オーグェン……生き延びた者はそう言っていた。虎のような姿を持つモンスター。生物を宝石へ変える恐るべき存在だ」



 魔獣? オーグェンなんてモンスターいたか?


 ルリーナが説明を続ける。


「奴はこの地下空間の先、クリスタルの崖の最上部に住み着いている」


 ルリーナが地図をロナへと渡す。ジェラルドとロナが地下世界の地図を覗き込む。


「奴が宝石の採掘師達を襲ってな。せっかく新たな発掘場を開拓したと言うのに……我らも難儀している」


 地図中央にサザンファム地下王国の紋様。そこから北へ進んだ先に印が打たれており、そこがクリスタルの崖だということを示していた。


「人を宝石に変えるなんてただの魔法じゃない気がするであります」


「古代魔法の一種ね。文献で見たことがあるわ」


 ルリーナが深刻な顔で全員を見渡す。


「気を付けるのだな。全滅されては私も寝付きが悪い」



 いきなりそんな危険な所に向かわせておいてよく言うぜ……。


 ジェラルドは内心ため息を吐いた。





◇◇◇




 その後、ジェラルド達は丸一日かけてクリスタルの崖へと到着した。



「着いたね。クリスタルの崖……」



 ロナが見上げる先には、遥か上層まで続く断崖が広がっていた。


「どこまで続いているか分からないであります」


「地上まであるかもしれないわねぇ」


 ジェラルドが辺りを確認する。すると、中へと入れそうな横穴を発見した。


 サザンファムで購入した松明に火を付ける。中を照らすとクリスタルの洞窟に反射し、洞窟の奥まで照らし出した。


「ここから入れるな……外と違って光源を失うとマズイか」


 皮袋から人数分松明と魔法の巻物スクロールを渡す。


「松明は1人ずつ持て」


「この巻物スクロールは?」


「そいつにはサザンファムで買った障壁魔法バリエル巻物スクロール……緊急用だ」


 ジェラルドが3人を集める。


「いいか? ヤバイ時は巻物スクロールを使え。宝石にされても本体であるオーグェンを倒せば戻るはずだ」



 少なくとも、ゲーム本編に一生効果を発揮する魔法は無かったはずだからな。



「ぜ、全滅したら?」


 ブリジットが恐る恐るジェラルドに聞く。


「全滅はしねぇ。お前は鎧、生物・・ではない……だろ?」


「あ、そうでありますな」


 急に安心したのか、鎧騎士は間の抜けた声を出した。


「ブリジットがいる限り全滅はねぇ。ブリジットを中心にロナが前衛、俺とエオルが後方からフォローする」


「ブリジットはとにかく力を温存……だね」


 ロナがルミノスソードを抜く。暗闇の中にベニトアイトの青い光がキラリと光った。


「僕も新しい技を覚えたし、魔法を使わせないように頑張るよ」


「新しい技? いつ使えるようになったんだ?」


 疑問符を浮かべるジェラルドにロナは得意げな笑みを浮かべた。


「それがね! 昨日のおっきい魚と戦った時に使えるようになったみたいなんだ〜! 名前もなんだか頭に浮かぶし」


「なんて言う技なのよ?」


連環煌舞れんかんこうぶって言うみたい! まだ使ったことないんだけど!」


 連環煌舞れんかんこうぶ……原作にもあったロナしか使えない技か。確か連続斬撃を放つスキルだったはずだ。


 あの技、なんか設定に秘密がありそうなんだけど設定資料集にもなんも書いてなかったんだよなあ。


 そういえば、空舞斬くうぶざん連環煌舞れんかんこうぶ……ロナの技は設定が明かされてない物がチラホラあるな。


 まぁ、強力な攻撃なのは確かだし、覚えておいて損は無いか。


「と、そうだ。回復の巻物スクロールも渡しておくぜ」


 ジェラルドから渡された巻物スクロールをブリジットが懐へしまう。


「もし何かあったらジブンが回復するであります。言って欲しいであります」


 全員が洞窟に入って行く。



 その様子を何者かが・・・・見ていた・・・・のだが、ジェラルド達がその存在に気付くことは無かった。





◇◇◇



 陣形を組み洞窟の中を進むジェラルド達。途中岩石型のモンスターに何度か遭遇したが、さほど苦戦はせずに奥へと入っていく。


 坂を何度も上り、上へ上へと向かうジェラルド達。順調に最上部に辿り着けると思った頃——。



 異変が起きた。



 突如轟音・・と地震が発生し、壁が音を立てて崩れ始める。



「この揺れ何!?」


「わ、分からないであります!!」



 よろけるエオルをジェラルドが担いだ。



「ちょっと!? 何するのよ!?」


「後ろ見ろ!」



「ギャギャギャッ!!」



 エオルが後方に目を向けると殺気だったコウモリ型モンスターが迫っていた。


「みんな走って!」


 ロナの叫びで全員が走る。


「あ、あんな量のモンスター見たこと無いでありますよ!」



 あの量……飲み込まれたらひとたまりもねぇな。



「ジェラルド抑えてて! 私がやるわ!」


「任せたぜエオル!」


 ジェラルドに担がれながらエオルが杖の先をコウモリ達へと向ける。



「まだよ……まだ……」



 杖の先端に小さな火球が現れ、車輪のように回転を始める。


「エオル早く!」


 ロナの叫びが洞窟に響く。モンスターはすぐそこまで迫って来ていた。


「……! 行けるわ! 全員後ろ見ちゃダメよ!」


 エオルの杖の先端で高速回転した火の輪をコウモリ達へと向ける。



烈火魔法フレイバースト!!」



 放たれる火の輪。エオルが左手を握りしめると、それが弾け飛び、後方のコウモリ達が真っ赤に燃え上がる。



「ギュッ!? ギュッウウウウゥゥゥ……」



 辺りが昼間になったかと思う程の光が発し、数秒後に大量の経験値の光がエオルに吸い込まれた。


「はぁ……はぁ……焦ったぜ……」


 息を切らせたジェラルドがその場に座り込む。


「良かったぁ……」





 へたり込むロナ。




 その頭上に……。





 ギラリと2つの光・・・・が瞬いた。





「ロナ殿! 上に何かいるであります!」



「虎……!? ソイツがオーグェンよ!」




 ブリジットが叫んだ瞬間、虎の姿をしたモンスターがロナの頭上の壁に張り付いていた。



「我が安息地を踏み荒らす不届き者達!! 消えろ!!」



 壁を高速で走り回るモンスター。額に着いた水晶のような角がギラリと光り、全員へと魔法の光を放つ。



「え!?」



 完全に隙を突かれた形となったロナ。突然なモンスターの出現に巻物スクロールすら取り出せない。無防備な彼女を含め、全員に魔法の光が——。



「ロナあああぁぁぁ!!」



 ジェラルドのガントレットがガチャリと開き、ロナへ向けて障壁魔法の巻物スクロールを発射する。


 ロナを包み込むように展開される障壁魔法バリエル



 その直後。



「うおおああああ!?」

「きゃあああああ!!」



 その場の仲間達全員がバリバリという音と共に光りに包まれる。


 光が止んだその場に残っていたのはロナとブリジットの2人。



「師匠、エオル……?」


「た、大変であります!」



 ロナ達の目に映ったのは、手のひらほどの宝石となったジェラルドとエオルの姿だった。



―――――――――――

 あとがき。


 突然現れたモンスター……オーグェンによって宝石になってしまったジェラルドとエオル。ロナ達は2人を元に戻すことができるのか?

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