第48話 ロナの真実

 ジェラルド達が虫を引きつけている頃。



「元に戻れ勇者の娘よ」



 オーグェンがその角から魔法を放つ。その光に当てられた青い宝石は、一瞬にして元の姿……ロナの形へと変化した。



「ありがとうオーグェン」


「感謝するであります」



「良い。鎧殿には借りがある。その借り……返させて貰おう」



 ロナ達が身構える。その様子を見ていたフィリアは肩を震わせた。



「わた、わた、私の魔法を……愚弄しやがって……」



 フィリアから凄まじいプレッシャーが溢れ出す。オーグェンの持つ本能が生命の危機を感じ取り、その身体がビタリと固まってしまう。



「ぐう……っ」



「大丈夫だよオーグェン。僕はもう君のことを知ってる・・・・。絶対に死なせない」



 ロナの瞳が赤く輝き、ルミノスソードの切先を真っ直ぐフィリアへと向ける。



「魔王軍魔将フィリア。お前は許さない。悪いけど死んで貰うよ」



 その瞬間。



 ユラユラと漂う黒いオーラがロナの全身から湧き上がった。


 ロナのオーラによってオーグェンを縛り付けていたプレッシャーが消える。



「身体が……動くぞ」



「オーグェンとブリジットはアイツの強い魔法を防いで、やり方は分かってるよね?」


「オーグェン殿と戦った時の戦法でありますな!」


「嫌な記憶だな……」


 オーグェンがロナとの戦いを忘れるように被りを振った。



「ふふ。行くよ2人とも!」



 3手に分かれ、ロナ達が一斉にフィリアへと向かう。



小癪こしゃくなあああああァァァ!!」



 フィリアが両手に食尽魔法イクリプスを発動し、ロナへと投げ付ける。



「喰われろ小娘ぇぇぇ!!」



 放たれた黒い球体がバカリと開き、その口でロナを喰らおうと迫る。



「……やってみるか」



 ルミノスソードを下段に構えたロナ。彼女は食尽魔法イクリプスを諸共せず真っ直ぐ駆け抜けた。



「あれは実態に近い魔法。なら、僕にもできるはずだ! ヴァルガン・・・・・と同じことが・・・・・・!」



 2つの球体が重なる瞬間——。



 ロナがルミノスソードを斬り上げる。



 真っ二つに切り裂かれる魔法。



 その瞬間を目撃したフィリアは驚愕の表情を浮かべた。



「な……!? それはヴァルガンの!?」



「うおおおおおおおお!!」



 ロナが加速し、フィリアの懐へと飛び込む。



連環煌舞れんかんこうぶ!!」



 無数の斬撃がフィリアの身体を捉える。



 その直後。



 彼女の全身が切り裂かれた。



「きゃあああああ!!」



 叫び声を上げながらフィリアが新たな魔法を発動しようと身構える。



「させるか!!」

「やらせないであります!」



 フィリアの両面からブリジットとローグェンが飛び込み、その爪と大斧でフィリアのフィリアの両腕を叩き折った。



「ぐうぅっ!?」



 しかし、フィリアは魔法の発動を止めない。折れた両腕から魔力が放出され真っ黒い粘液のような物がフィリアの全身を包み込む。



「何をしようとしているか分からないでありますが……させないであります!!」



 ブリジットが斧を叩き付ける。


 しかし、見た目とは裏腹に黒い粘液は一切斧の刃先を通さなかった。バキンという音と共に大斧が止められてしまう。



「何ぃ!? であります!」



 全身を包まれ真っ黒い人影となったフィリア。彼女がフワリと空中へ浮くとブリジットの胴体へ強烈な蹴りを繰り出した。



「ぎゃっ!?」



「ブリジット!?」

「鎧殿!?」


 吹き飛ばされるブリジット。真っ黒な人影は不自然に折り曲がった両腕をユラユラと揺らしながら、魔法を唱えた。



回復魔法キュア



 緑色の光が彼女のからだを包み込むと、その折れた両腕が元の形状へと再生する。



「アンタも油断してる場合じゃないわよ!!」



 フィリアが回復した腕でオーグェンの胴体を殴り飛ばす。



「ぐぉぉ!? こ、この!!」



 虎がその爪でフィリアを狙う。しかし、あっさりと避けられ、その体を地面に叩き付けられる。



「がああぁ!?」



 大地へ叩きつけられたローグェンはバタリと倒れ込み動かなくなってしまった。



「オーグェン!」



「うるさいわねぇ。まだ殺して無いわよ。珍しい生物は魔王様へ献上しないと」



 彼女の顔をおおう粘液が開くと、その中からフィリアの顔が浮かび上がる。その顔から先ほどまでの焦りは消え去っていた。



「中々キツイ攻撃だったわ……身体強化魔法が無ければ終わっていたわね」



 フィリアの手のひらに集まる粘液。彼女はそれを愛おしそうに撫でる。



「けど解せないわね」



 フィリアがロナを睨み付けた。



連環煌舞れんかんこうぶ……それは我ら魔族だけ・・・・が使える・・・・技よ。なぜそれを使うことができるわけ?」



「魔族の……技? 連環煌舞れんかんこうぶが?」



 ロナが固まる。



「……何、言ってるの?」



 フィリアの言葉など聞いてはいけないと頭では分かっていても、真っ向から否定することができない自分に戸惑った。


 両親がいない自分には、否定する材料が無いと。



それ・・が普通の人間に使える可能性は万に一つも無い。ということはぁ……?」



 動揺するロナを見たフィリアはいやらしい笑みを浮かべる。



「分からない? アンタは私達やモンスターと同じ。オリジナルを元に作られた存在……アンタは人間の模造品・・・ね」


 

 模造品。



 その言葉がロナの全身を駆け巡る。それと同時に瞳の色はさらに赤みを増し、彼女の包むオーラが膨れ上がる。



「……嘘を吐くなぁ!!!」




「あはははは! いい顔ねぇ……さっきの憂さ晴らしにちょうど良いわ」



 フィリアが両手を開く。彼女を包む黒い粘液がそれに呼応し、その両手に鋭い爪を出現させる。



「同族だろうと邪魔するなら今すぐ殺して上げる!!」



 フィリアが加速しその爪を構える。



「魔将フィリア……お前は絶対に殺す!」



 ロナは怯むどころか、フィリアの攻撃へと向かって行く。


「愚かな娘。八つ裂きにしてあげるわ!」


 フィリアが爪を薙ぎ払う。


空舞斬くうぶざん!!」



 飛び上がったロナが縦に高速回転する。



「それも魔族の……ふざけた娘ねぇ!!」



 フィリア連続で食尽魔法イクリプスを放つ。回転刃のようになったロナに黒い球体達は切り裂かれていく。


  切り裂くごとにロナの回転の勢いが弱くなる。それを見計らったかのようにフィリアが蹴りを放つ。


「……くっ!?」


 咄嗟にロナがルミノスソードで蹴りを受け流す。フィリアがまとう粘液が槍のように変化し、ロナの頬に血を滴らせた。



 その血が空を舞う。


 キラキラと光を放ちながら。


 経験値の光・・・・・のような、光を。



「これでおしまいよ!!」



 フィリアの粘液が右手に集まる。巨大な剣のように変化したその切先がロナの首筋を狙う。



「死ねえぇぇぇ!!」



 その腕を——。



 ロナが人ならざる反射速度で蹴り上げた。



「——え?」



「うるさいんだよお前」




 ロナが構えを取る。



「エアスラッシュ」



 巨大な風の斬撃が放たれる。その一撃が、フィリアの粘液を容易く引き裂き、その肉をえぐり、骨をも叩き折った。



「ギっ!? しまっ……だけど、ま"だ……っ!」



 回復魔法を発動させようとするフィリア。



 が。



「クロスラッシュ」



 攻撃の手は緩むことなくフィリアを襲う。



 十時の斬撃がフィリアを断ち切る。もはや人の形状維持すら危ういほどに。



「ギャアっ!?」



 よろよろと挙げた彼女の手に魔力の光が灯る・・・・・・・


「させるか」


 ロナがフィリアの腕を蹴り飛ばし、攻撃魔法の発動を防ぐ。


 そして、技の構えを取った。彼女の怒りの源である技の構えを。




連環煌舞れんかんこうぶ



 放たれる高速斬撃。



「ああ"ああ"ああああ"ああ!!?」



 一撃一撃におぞましいオーラを帯びた攻撃が、ボロボロナのフィリアを粉微塵に吹き飛ばす。


 粘液と入り混じり、もはや不定形のモンスターのような姿となって周囲へと飛び散った。



「あ……く……」



 言葉にならないような声を残し、フィリアは空間に溶け込むように消え去ってしまう。



「僕は……師匠……」



 静まり返った戦いの場で、少女はその剣を抱きしめた。




―――――――――――

 あとがき。


 ロナは魔王が作り出した存在だった……?

次回、ロナが出自に気付いたことを知ったジェラルドは……。

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