第49話 魔王と魔族
ジェラルド達が戻って来た頃には既に戦いは終わっていた。奥には立ち尽くすロナと、酷く傷付いたブリジットとオーグェン。その様子が戦闘の激しさを物語っていた。
「回復の
「すまねぇ」
「ロナあああああ!!」
「師匠。フィリアは、倒したよ」
「良くやったな……怪我は!?」
ジェラルドはロナの頬を見る。そこには一筋の傷。彼は懐から清潔な布を取り出すとロナの頬に当てた。
「ありがとう」
「……お前に任せっきりで悪かった」
「ううん。必要なことだって分かってるから」
元気が無いロナ。そんな彼女を見てジェラルドが不審に思う。
「どうした? 何かあったのか?」
「あ、あのね……」
フィリアに言われた言葉が喉まで出かかって、ロナは言葉を変えた。
「ううん……なんでもない」
その後、回復したオーグェンの力でサザンファムの民達は全て宝石から元の姿へと戻った。
◇◇◇
––そして翌日。
ジェラルド達は城の
「貴方達には感謝します。魔王が現れて以降。我らはこれほどまでの危機を体験したことはありませんでした」
謁見の間が静まり返る。女王は誰に言うでもなくポツリと呟いた。
「ルリーナを失うとは……それに私は気付きもせず……」
「女王様、顔色悪いわよ? 今日は休んでいた方が……」
エオルの言葉に女王は笑みを浮かべた。
「大丈夫ですよ。心配しないで」
初めて出会った時からは想像も付かない柔らかな口調。それは、彼女がジェラルド達を信用する証であった。
「それよりもオーグェンと言いましたか。貴方の協力にも感謝致します」
「構わぬ。もう我らのことをそっとしてくれるのならばな」
「それは約束します。貴方達親子があの崖から去る必要もありません。我らはあの一帯から撤退致しましょう」
「……感謝する」
「結局、オーグェン殿とジブン達を戦わせたのもフィリアだったのでありますか?」
「ええ。あの崖一帯を調査したところ、紛れ込んでいた魔王の尖兵を発見致しました。恐らく……訪れた貴方達を邪魔と見なして始末しようとしたのでしょう」
ジェラルドの脳裏にあの洞窟での轟音が蘇る。
あれの影響でオーグェンが俺達の存在に気付いた。そういうことか。
「あ、あの……女王様」
今まで黙り込んでいたロナがおずおずと口を開いた。
「魔王って一体何者なの? 何か知ってる?」
ロナのヤツ、どうして魔王のことなんか……。
ジェラルドがロナを横目に見る。どことなく不安そうな少女。その様子に言い知れぬ不安感を覚えた。
「魔王……そう、ロナさんは知らないのね」
女王が真っ直ぐに広間の壁へと手をかざす。その先にはこの世界の地図が飾られていた。
「15年前。この世界の
「外の世界……魔王は異世界から来たでありますな。どおりでジブンが知らないはずであります」
「アンタ、魔道騎士達が狙われた時「魔王軍でありますか!?」って驚いてたじゃない」
「それは……旅の行商人から聞いて……」
「2人とも黙って」
ロナの言葉でエオル達が黙る。静かになったことを確認し、女王は再び口を開いた。
「何よりも恐ろしかったのはその能力です。魔王はこの地に生きていたあらゆる存在を
「模倣……」
ロナが呟いた言葉をジェラルドは聞き逃さなかった。
模倣って……。
胸のざわつきが大きくなっていく。彼の中にある原作知識、目の前のロナの表情。その全てかある答えを告げていた。
まさかロナのヤツ。気付いちまったのか。
そのイベントはもっと先のハズなのに……。
いや、考えてみればヴァルガンと出会ったのも想定より早かった。クソッ。もっと早く気付いていれば……。
「生まれたモンスターには血の代わりに
それが経験値の光の真実。魔王が生み出した者の証。
「ねぇ。人間を模倣したヤツもいるの?」
「人間……ですか? いえ、聞いたこともありません」
ロナの顔が暗く沈む。
その姿を見たジェラルドに嫌な汗が伝う。
やめろ。
そんな顔するなよ。
俺が、悪かった。俺がもっと早く向きやってやれば。
「ありがとうございます。女王様」
少女が笑う。その笑顔は無理をしているようで……。
ジェラルドが初めて見た顔だった。
―――――――――――
あとがき。
ロナが真実を知ったと知るジェラルド。彼はロナの心を救うことができるのか?
その前に、次回は1度視点を変えてお送りします。
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