第46話 魔将への挑戦

 フィリアの宣言から1時間後。


 リミットギリギリまで準備を施したジェラルド達は、再び城へとおもむいた。




 ——サザンファム城前。




 アゾム女王がフィリアをにらみ付ける。


「……約束は守りました。民を巻き込むのはおやめなさい」


「アゾム女王が懸命な方で良かったわぁ。悪あがきの酷いあの女騎士と違って」


「……貴方のような外道にルリーナのことを語られたくはありません」



「ふふ。入れ替わりに気付かなかったクセに、よく言うわね女王様?」



 フィリアが馬鹿にしたかのように笑みを浮かべる。


「……っ!?」


 アゾム女王がその手を震わせた。


 ジェラルドが彼女をかばうように一歩踏み出す。



「大丈夫です……抑えられます。怒りは……っ」



 女王、かなり無理してやがる。本当は今すぐにでも飛び掛かりたいだろうに……スゲェ人だな。



「その怒り。俺達が数倍にしてあの女に味合わせてやるよ」


 ジェラルドが大袈裟な仕草でフィリアへと指を指す。



「聞きやがれ性悪女!!」



「……どういうつもりで言ってるか知らないけど、私を挑発するなんて死期を近付けるだけよ?」



「無駄無駄。お前の低レベルな魔法なんて俺達には効かないぜ」


「へぇ。私の魔法を低レベルと……」



「俺達は魔王軍豪将を倒した勇者パーティだからよぉ。お前の魔法なんて効かねえんだよな」



「ヴァルガンを? そうかお前達が……ちょうどいい。先にお前達を始末してやろう!」



 フィリアが両手に喰尽魔法イクリプスの黒い球体を出現させる。



 よし。挑発に乗りやがった。



「行くぞロナ! エオルは援護! ブリジットは女王を頼む!」



 言うと同時にロナとジェラルドが駆け出す。



「良いかロナ。フィリアはそれほど体力は高くねぇ。追い詰めれば必ず妖精の潮流フェアリータイドを発動させるはずだ」



「分かったよ師匠。見ててね」


「ああ。特等席で見てるからよ」



「2人揃そろって殺してあげるわ!」



 フィリアが両腕の喰尽魔法を放つ。黒い球体から大きな口が現れ、2人を襲う——。



炎風魔法タービナスフレイム!」



 エオルが猛烈な熱を帯びた竜巻を発生させる。ジェラルド達に襲いかかろうとした食尽魔法はその渦に絡め取られるように上空へと吹き飛ばされた。



「何!?」



「残念だったわね! アンタの通常・・魔法は攻略済みよ!」



 驚くフィリア。その眼前へ力を解放したロナが飛び込む。赤い瞳は怪しく光り、全身にそのオーラが揺らぐ。



「クロスラッシュ!!」



 ルミノスソード光輝く。その軌跡が十字を描き、フィリアへ強烈な斬撃を浴びせた。


「くっ!?」


 ギリギリで防御魔法を発動しダメージを最小限に押さえたフィリア。彼女は再び喰尽魔法イクリプスを放つ為その手を伸ばす。



「消えろ小娘ぇ!!」



 怒りの表情を浮かべるフィリアに対して、少女は冷たく言い放った。



「よそ見してていいの?」



 ロナのつぶやきでフィリアが我に帰る。一瞬の隙。周囲を確認するフィリア。その目の前には……。



 眼帯の男が突撃していた。




 鶏模様の鞘が強烈な輝きを帯びる。



「ガルスソード!!」



 逃走回数254回。



 黄金の輝きを放つ刀身がら魔王軍魔将を一閃した。



「キャアアアアアッ!?」



 周囲に響き渡るような金切り声。溢れ出す経験値の光。通常であればこの一撃で致命傷になるであろう傷口……。



 だが。



「ふふふふ……あはははははは!!」



 フィリアが笑いながら魔法を放つと、全身が粘液に覆われる。


 次に彼女が現れた時、その傷は完全に治癒していた。



「簡単に倒せると思ったかしらぁ!?」



 フィリアが腕を払うと大量の喰尽魔法イクリプスが放たれる。



「やっぱり速攻は無理か。ロナ、来い!」


「うん!」


 ジェラルドの声にロナが抱き付く。少女を抱えたジェラルドが飛び退くと、スキル「にげる」が発動し、フィリアから距離を取る。



「逃がさないわ!」



 フィリアが喰尽魔法イクリプスの球体へと指示を出すと、黒い球体がジェラルド達へと襲いかかった。



「障壁魔法の巻物スクロール!」



 ジェラルドのガントレットから魔法の巻物スクロールが射出される。そこから発生する魔法障壁が、彼らを包み込むように展開される。


 大量の黒い球体が勢いよく障壁に激突し半数が消滅した。



「減ってしまったわね。だけど、ふふ。無駄無駄」



「師匠! 障壁が食べられてる!」



 黒い球体達がそと口を大きく開き、展開された障壁をバリバリと食べ始める。



「ちっ。もう一度だ!」



 再び発動する魔法障壁の巻物スクロール。2度目の障壁が展開されたタイミングで先ほどの障壁は音を立てて崩れ去った。



「あはははははは! 巻物スクロールごときで止められる魔力量では無いわ!」



「消えるのも時間の問題か。だったらよ……」



 ジェラルドが取り出す3つ目の巻物スクロール



「こうすりゃ良いんだろうがあああ!!」



 ジェラルドが巻物スクロールを放り投げる。物体・・である巻物は障壁をすり抜け、ドーム型に展開される。



 大量の喰尽魔法イクリプスの球体を包み込む・・・・ように。



「私の喰尽魔法イクリプスが!?」



「そろそろ天才魔導士の出番でしょ!」



 エオルがその杖に火球を灯す。小さな火球が5つ。ゆっくりと、だが徐々にスピードを早め回転していく。



「最大魔力で撃ってあげるわ!」



 高速回転した火球達。杖を捕らえられた喰尽魔法イクリプスへと向け、エオルが魔法名を告げる。



烈火魔法フレイバースト!!」



 魔法発動と同時に障壁の一部が消える。障壁内に広がった炎により、フィリアの魔法達は跡形も無く燃え尽きた。



「蒸し焼きね。いえ、丸焼きかな?」



 得意気に胸を張るエオル。その姿を見たフィリアは怒りの形相で雄叫びを上げた。




「ふざけるなあああああアアアアア!!!」



 フィリアが、青い古代文字を空中へと描いていく。膨大な魔力が込められた古代文字。



 それが頭上へと流れていき、辿り着いた先に黄金色の球体を作り上げる。



「遊びは終わりだ!! 下等な人間共は皆殺しにしてやる!!」



 フィリアが片手を高く上げ、邪悪な笑みを浮かべた。



「貴様ら諸共もろともこの国の人間は全て妖精・・に喰われる。苦しみながら死んでいけえええ!!」



「来るぜ! フィリアの妖精の潮流フェアリータイドが。ブリジット準備はいいか!?」



「万事オッケーであります!!」



 女王の元へいたブリジットが手にした笛をヘルムに当てがう。そして勢い良く音が鳴った瞬間——。




 虎の咆哮・・・・が聞こえた。




「妖精の潮流フェアリータイド!!」



 フィリアが魔法名を告げる。それと同時に頭上の球体が弾け飛び、中から空を埋め尽くすほど大量のが溢れ出す。




「あははははははは!! 妖精達よ! この国の人間共・・・を全員喰らい尽くしなさい!!」



「へ。妖精ってより虫だな……趣味悪りぃぜ」




「減らず口をっ!!」



 フィリアが虫達へと命令を下した瞬間。ブリジットが叫ぶ。



オーグェン・・・・・!! ジェラルド殿とエオル殿を除いたこの国の人間・・・・・・全てを宝石にして・・・・・・・・欲しいであります!!」




「承知した」




「な、なんだ? この声は?」



 我に帰ったフィリアが周囲を見渡す。すると、城の上から銀色の虎がこちらを見下ろしているのに気が付いた。



「召喚魔法だと!?」



「お前が俺達に殺させようとしたオーグェンだぜ!! お前の虫達は生物・・を襲う。これからどうなるだろうなぁ!?」




 召喚されたオーグェンが天へと向かい魔法を放つ。




 暗い地下王国の空をオーグェンの虹色の光が包み込む。




「師匠。死なないでね」


「お前もな。フィリアをぶっ倒す役目……頼んだぜ」


「うん。絶対。倒すよ」


 そう言葉を交わした直後。ロナと女王が宝石へと変化する。


 周囲に残された者達はフィリア、ブリジット、ジェラルド、エオル。



 国の人間達は全て宝石へと変化・・・・・・・・した。



「ブブブブブブッ!!」



 空を埋め尽くすほどの虫がジェラルドとエオルへと狙いを定める。



「お前達! 私の言うことを聞きなさい!」



 何度叫んでも虫達にフィリアの命令を聞く気配は無い。



「無駄だぜ。もう俺とエオルしか目標がいねぇんだよ!」



 この地下の空間に残された「人間」はもはやこの2人だけ。こうなることを見越してジェラルド達は準備したのだ。



 オーグェンに全ての人間を宝石にして貰うことを。



「来いエオル」


「ええ」


 ジェラルドに担がれたエオルが空を見上げた。



「さ、流石に気味が悪いわね」


「頼むぜ。お前の魔法に全部掛かってるからよ。あの虫に喰われるなんて嫌だろ?」


「嫌に決まってるでしょ!!」


「そりゃそうか……それじゃあ死ぬ気で行くぜ!!」


 ジェラルドのスキル「にげる」が発動し、その全身が青い光に包まれる。


「ブリジット! ローグェン! 後は頼むぜ!」



「任せておくであります!」


「任された」



 ジェラルドが走り出す。それに合わせて妖精の潮流フェアリータイドの虫達が彼らを追ってウネリを上げる。



「貴様らあああああああああ!!!」



 己の最大魔法の裏をかかれたことで叫ぶフィリア。彼女の怒りの声は、広大な地下世界へとこだました。




―――――――――――

 あとがき。


 自分達に標的を絞ることでフィリアの魔法を攻略したジェラルド達。しかし、彼らは大量の虫達から逃げ延びることはできるのか?


 次回はジェラルド、エオル視点でお送り致します。お楽しみに。

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