第45話 魔将フィリアの勧告

 女王を助け、城から逃げ出したジェラルド達。彼らは深夜の街を駆け抜け、待ち外れの空き家へと逃げ込んだ。



 ジェラルドが扉を蹴破る。古い空き家は若干のカビ臭さを感じる屋内で、近くにあった棚を倒しバリケードにする。


 窓から様子を伺ったロナが、カーテンを閉める。


「追手はいないみたい」


 その様子を見て、エオルは安心したように息を吐いた。



「とりあえず……大丈夫よね?」



「ブリジット、女王を頼む」


 ジェラルドの指示でブリジットがアゾム女王を降ろす。彼女は、おずおずと口を開いた。



「感謝致し……ます。貴方達がいなければ……私は……」



「大丈夫だよ女王様。大丈夫」


 ロナが彼女の背中をさする。女王は未だショックから立ち直れないようで、その体は、僅かに震えていた。



「ありがとう。貴方達はどうやって……?」



 彼女の質問にジェラルドはバツが悪そうに頭を掻いた。



「魔王軍の使い魔・・・がよ。俺らに警告・・して来たんだ。『今夜女王を襲う』ってよ。罠かと思っていたが……」



「そんなことはなかったみたいね」



 そう言うと、エオルが懐から魔力回復ポーションを取り出す。そして、一口飲むと顔をしかめた。


「マズうぅ……ジェラルドこんなのよく飲めるわね。味覚死んでるんじゃないの?」


「うるせ。俺は必要だから飲んでるまで……と脱線しちまった。あの魔将フィリアは俺達の乱入に驚いていた。これはなにかあるな」


「なにか……でありますか?」



「俺達をここに来させたのも使い魔。使い魔は主人の言葉を伝えるだけの存在だ。俺達を操りたいヤツが魔王軍にいるってことさ」



「……魔王軍も一枚岩ではないようですね」



 女王がそう言った時。



 国中に響き渡るような大きさで、フィリアの声が聞こえた。



『アゾム女王に告ぐ。今すぐ私の元へ投降せよ』



「外からおっきな声が聞こえるよ!? この場所がバレたのかな!?」



 立ちあがろうとするロナの手をジェラルドが掴む。



「慌てるな。まだ見つかった訳じゃねぇ。アレは魔族だけが使える拡声魔法エコーだ。恐らく国中に向けて発してる」



『今から1時間の猶予ゆうよを与える。それまでに先程の者達を連れて我が元へ来い。現れなかった場合、我が魔法「妖精の潮流フェアリータイド」を持ってこの国の民を皆殺しにする』



妖精の潮流フェアリータイドかよ……マズイな」



「何よその魔法? 私も知らないわよ?」


「大量の妖精を召喚して、広範囲の生物せいぶつを全て喰らい尽くす……フィリア専用魔法だ」



 かなりの魔力消費を必要とするフィリアの必殺の一撃。ゲーム本編でも戦闘最終盤にしか使わねぇ魔法をここで出して来るか。



「彼女の言っていることは誇張こちょうでは無いのですね?」



 女王が真っ直ぐジェラルドを見つめる。



妖精の潮流フェアリータイド」が発動されたとしたら……本当にこの国の民は食い尽くされるぜ」


「そうですか……」


 アゾム女王がゆっくりと瞳を閉じる。


 流れる沈黙。震える女王。


 彼女が震えを止めるように、体を抱きしめる。


 長い長い沈黙の末、意を決したように女王が瞳を開く。その瞳は決意に満たされた物になっていた。


「聞いて下さい。恐らく私が投降した所で我が民達は殺されるか、屈辱の日々を送るかの2択でしょう。なれば、魔性フィリアを討つより他にありません」


 女王がジェラルド達を見渡す。


「我が命を捨てでもヤツを討つ。勇者達よ。協力してくれますか?」


 さすが一国の女王。良く分かってやがる。フィリアは人との約束を守るようなヤツじゃねぇ。女王の言うことが最適解だ。


 だがどうする? いずれにせよ戦闘になれば妖精の潮流フェアリータイドは発動されちまう。


 そうなったら俺達だけじゃなくこの国の人達まで……そうなったら女王まで後を追う可能性がある。


 考えろ。全員を救う方法を。誰かを犠牲にした瞬間ロナの未来が確定しちまう。


 ジェラルドがロナの手を握る。


「師匠?」


 いつもと違う師匠の行動に不思議そうな顔をするロナ。


 ジェラルドにとって、その顔すらたまらなく……そこまで考えて彼は被りを振った。



 そんなこと考えてる場合じゃねぇ。



「死なせねぇ。俺が。絶対に」



 ジェラルドがブツブツとつぶやく。



 何度も危機を超えて来た男の顔。それを見た少女はこの状況にも関わらず、微笑みを浮かべた。その男を心から信頼しているという様子で。




 ジェラルドは思考を回し続ける。



 あの魔法は撃たれた瞬間に他の生物に向かう。それなら発動を阻害して……いや、どうしても撃たれる瞬間が生まれてしまう。



 どうやって撃たせないようにしたら……。



 考えろ、俺。



 その為の原作知識だろ。もう一度前提条件を思い出せ。



 妖精の潮流は生物・・に反応して襲う。どんなに逃げようと、絶対に追い詰められ、喰われる。


 発動させたらダメなんだ。



 いや、待て。



 ……生物? 生物・・か。



 そうか。発動させないことばかりに気を取られていたが、一つあるじゃねぇか。回避できる方法が。



「そうか。いける……いけるぞ!!」



 全員助けられる。アイツ・・・の力と俺の「にげる」のスキルを組み合わせれば。



「ふふふふふ……」



「ど、どうしたのですか?」



 突然、不敵な笑みを浮かべた男。その不気味さに女王が戸惑う。



「大丈夫よ。女王様」

「そうであります。ジェラルド殿がああなった時は……」



「絶対なんとかなる時だよ」



 ロナ達の確信に満ちた顔にアゾム女王はさらに困惑する。



「心配しなくていいぜ女王。良い方法を思い付いた。全員救ってあの魔将フィリアをぶっ倒すナイスなアイデアがな!」



 勇者の師。ジェラルド・マクシミリアンはニヤリと笑った。



 揺るがぬ自信を見せる男。



 その確信。


 


 アゾムの胸から「不安」という言葉が消え去った。





―――――――――――

 あとがき。


何かを思い付いたジェラルド。果たして彼らは地下王国を救うことができるのか?


 次回、ボス戦です。

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