第44話 深夜の訪問者
深夜。
——アゾム女王の寝室。
暗闇の中、アゾム女王が目を開く。
「……魔王が私の命を……か」
ポツリと呟いた言葉が暗闇へと消えていく。
何故自分が狙われるのか? 一国の女王だからなのか……ジェラルド達の言った内容が頭から離れない。
初めは世迷いごとだと思った。しかし、オーグェンの一件で彼らが信用に足る人物だと感じた今は……。
ベッドから降り、水差しを手に取る。水を注ごうとするが、上手くコップに入らない。
「……え」
もう一度注ぐが、やはり、上手く注げない。
水差しをは持つ手を見ると、カタカタと震えているのが分かった。
「ふふ……1人になった途端……恐ろしくなるなんて……」
水差しを置きベッドに座る。
怖い。
死ぬのが怖い。
民を守る為ならば死んでも良いと思っていた。だが、自分が狙われるとなると……。
「なぜ地下に引き
「貴方さえ
「だ、誰です!?」
誰もいないはずの部屋で聞こえる声。そのことにアゾム女王の全身に寒気が走る。
「女王様。私の声をお忘れなんてひどいじゃありませんか。あれほど貴方にお仕えしたというのに」
暗闇から人影が現れる。うっすらと外の光源に映し出された姿は……。
「ルリーナ……? 何故私の部屋に……」
女騎士ルリーナが椅子に座り脚を組む。その姿は、昼間見せていた騎士の仕草とは全く異なる物だった。
「ふふふ。あの勇者達。大人しくオーグェンに殺されていれば良かったのにねぇ」
「な、何を言っているのです?」
ルリーナが妖艶な笑みを浮かべる。
普段の彼女からは想像も付かない表情。その顔を見た瞬間、アゾム女王は感じ取った。
ルリーナでは、ない。
「貴方は……誰ですか」
「あら残念。もうちょっと戸惑う顔が見たかったのに」
ルリーナの顔をした何者かが人差し指を立てる。
「
その言葉と共に、女騎士の姿が一瞬にして変化する。銀髪に褐色の肌、ドレスのような服を見に
「魔王軍魔将、フィリアと申しますわ女王様」
フィリアがドレスの裾をつまみ、大袈裟に頭を下げる。しかし、堪えきれない様子で笑い声を上げる。
「入れ替わっていたことに気付かないなんて……女王もその程度なのねぇ」
「魔王軍!? 本物のルリーナはどこなの!?」
「ここよ?」
彼女が指を鳴らすと、空間に裂け目が生まれ、その中から女性が倒れ込む。
「あ、あ……」
それは見覚えのある女性。
女王が送った
倒れ込んだのは正気の無い顔、高貴な鎧に身を包んだ女騎士ルリーナ。
その
「ルリーナあああぁぁぁ!」
アゾム女王が駆け寄る。顔に触れようとも、そこに温もりはなく、ただ硬直した感触だけが指を伝った。
「最後まで健気に立ち上がって……中々楽しい相手だったわよ?」
フィリアの指先に魔力が灯る。
「
魔法名と共に彼女の魔力が暗黒の球体へと変化する。その球体から大きな口が現れ、ジュルリとヨダレを落とした。
「この魔法に触れられた者は全身を喰らい尽くされ絶命する。あ、でも頭は残しておかないとね。アゾムが死んだと証明する為に」
指先を女王へと向けるフィリア。
アゾム女王は、側近から死んだショックで逃げることすら叶わぬようだった。
「死ね。アゾム」
フィリアが暗黒の球体を放とうとした瞬間——。
ドアが蹴破られ、眼帯の男が飛び込んだ。
「
「……!?」
フィリアは放たれた
「ちっ。消されちまったぜ」
「なぜ貴様がここにいる!?」
「さぁ〜何でだろう……なぁ!!」
抜刀の構えで懐に飛び込むジェラルド。彼女は彼へと向け魔法を発動する。
「
再びフィリアの指先から放たれた魔法がジェラルドへと迫る。
「こっちには
ジェラルドの意思に呼応し、星座模様の眼帯が光る。
逃走回数分だけ、1度だけ回避率を飛躍的に上昇する眼帯スキル「
「よっ!」
——目前に迫っていた喰尽魔法を避けた。
逃走回数が最大となったスキルの力によってそれは残像を生み出し、フィリアの目には瞬間移動したようにも見えた。
「なんだその能力は!?」
「行くぜぇぇぇ!!」
面食らったフィリアへ向け、ガルスソードⅡを放つ。
グランチタニウムの刀身が鞘の中を走る。
逃走回数254回。
ガルスソードⅡの力を極限まで引き上げた一撃がフィリアを切り裂いた。
「キャアアアアアァァァ!!」
「ブリジット! 女王を!」
「了解であります!」
フィリアが苦しみもがく横をすり抜け、ブリジットが女王を担ぐ。
「逃げるぞ!!」
2人が廊下へと飛び出し、全力で駆け抜ける。
「ぐぅぅぅ……っ!? 逃すかアアアアア!!」
胸を抑えたフィリアがジェラルド達の後を追う。どこから現れたのか、黒い粘液に包まれ細身の鎧のような、異形のような姿となっていく。
「
連続で魔法を放つフィリア。その姿を横目で見たブリジットが片手で斧を握り技を放った。
「
くるりと空中で横回転をしたブリジットが大斧を壁に叩き付ける。
勢い良く崩れ落ちる壁。その壁が魔法を止める盾となる。
が。
「その程度で私の魔法を止められると思うなよ!!」
崩れ落ちた壁は、瞬く間に
「ヤバイヤツであります!?」
「あの窓から飛べえええぇぇ!!」
「飛ぶでありまあああああす!!」
ジェラルドとブリジットが突き当たりの窓を破り空中へと放り出される。
そこは城の3階。通常ならタダでは済まない高さ。
「バカめ!! そんな高さで無事でいられるか!」
フィリアが窓を覗き込む。
「うおおあああああおあエオルゥゥゥ!?」
ジェラルドの叫びと共に魔法が発動する。
城の外……1階で2人を待ち構えていた女魔導士エオルの魔法が。
「
発生した竜巻がジェラルド達の体を包み込み、彼らをふわりと大地へ着地させた。
「何だと!?」
「悪かったな! 女王様はやらせねぇぜ!」
身を乗り出したフィリア。そんな彼女の目の前に
「エアスラッシュ!」
エオルと同じく下で待ち構えていたロナが風の斬撃を放つ。それがけむり玉へと直撃し、フィリアの目の前を真っ暗な煙で包み込む。
「ケホッケホッ!」
必死に煙幕を払うフィリア。
全ての煙が晴れると、そこにジェラルド達の姿は残っていなかった。
「アイツらぁ……ッ!!」
フィリアは怒りの表情で腕を叩きつけた。
―――――――――――
あとがき。
魔王軍魔将の魔の手から逃げ延びたジェラルド達。
しかし、これで終わるはずもなく……次回もどうぞご覧下さい。
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