第43話 勇者の資質

「……という状況だ。オーグェンは子供が生まれた後はクリスタルの崖から旅立つと言っていた」


 ひざまずいたジェラルドがアゾム女王へと報告する。女王は目を閉じ、静かに傾けていた。


 女騎士ルリーナが鋭い眼でジェラルドを睨み付ける。


「宝石にされた者達は? 彼らを助けぬまま帰って来るなど評価する訳にはいかないが?」



「旅立つまでクリスタルの崖を荒らさないと誓えば全て元に戻すという条件が出ている。これが証拠だ」



 ジェラルドが小さな金属製の笛を取り出す。



「召喚魔法が宿った笛。これを発動することが奴の要求を飲んだ証。呼び出されたオーグェンが全ての採掘師達を元に戻してくれる」



「なるほど。ではそれをこちらへ」



「ただし」



 ルリーナの言葉を遮り、彼は魔法の笛を握りしめた。


 


 ここだ。


 ここで女王に俺達を信用させる。


 アゾム女王は厳格に見えて慈悲深い。俺達が勇者らしい存在だと見せれば……。



「結論が出るまで俺達が預かろう」


「貴様……どういうつもりだ?」


 ジェラルドがゆっくりと立ち上がる。


「これはあの虎が俺達を信じてたくした物。アンタ達からハッキリと答えを聞くまで渡す訳には行かないぜ」


「我らの信頼を得たい訳ではないのか? 虎などの肩を持ちおって」


 つるぎに手をかけたルリーナをアゾム女王が手で制す。



「おやめなさいルリーナ」



 アゾム女王がジェラルドを見据える。彼女と目が合った瞬間彼の背中にゾクリと寒気が走る。



 ……流石に一国の女王なだけあるな。威圧感ヤバいぜ。



「貴方はジェラルド……と言いましたね?」


「ああ。勇者ロナを指導している」


「師匠という訳ですか。ならば貴方に問いましょう。あの虎が信用に値するという証拠は?」



「アゾム女王。アンタにとって民とはどんな存在だ?」



「……かけがえの無い存在。民を守る為ならば、私は自分の命も惜しくありません」



 女王の言葉を聞いたジェラルドがロナの顔を見つめる。ロナは、コクリと頷くと口を開いた。



「女王様。僕は……あの虎を倒そうとしました。だけど、オーグェンは自分の子だけ・・は守ろうとしてた。だから僕は……倒せなかった」



「民を思う女王様なら分かると思うぜ。その虎の気持ちがよ」



 女王が黙る。



 頼むぜ……上手くいってくれよ。



 ヒリヒリとした沈黙が続く。そして、その沈黙を破るように女王は呟いた。



「分かりました」



「女王様!!」


「黙りなさいルリーナ。彼らは『勇者』としての仁義を通す……そう言っているのです。それとも、私の判断が不服ふふくですか?」



「い、いえ……そんなことは……」



「理解頂き感謝するぜ。俺達の目的はあくまで魔王からこの世界を守ること。イタズラに命を奪うことじゃない」


「……貴方のその言葉、それを信用することに致します」


 アゾム女王が笑みを見せる。


「この国への滞在を認めます。オーグェンへの回答は追って知らせを出しましょう」


「ありがとうございます! 女王様!」


 ロナが嬉しそうに声を上げる。



「魔王軍が来た時は頼りにさせて頂きますよ。勇者のお嬢さん」



 その後、いくつか取り決めを交わし、ジェラルド達はサザンファム地下王国へと滞在することとなった。





◇◇◇


 宿屋を取ったジェラルド達は、それぞれ用事を済ませることになった。


 エオルとブリジットは魔導書が保管されている図書館へ。そしてジェラルドとロナはアイテム類を買う為にアイテムショップへ。


「毒薬は6、煙幕5、魔法の巻物スクロールは属性毎に3ずつ……やっぱり回復魔法は高けぇなぁ……」


「ねぇ師匠〜こんなのあるよ!」


 ロナが赤黒い実に糸が巻き付けられたアイテムを手に取る。不思議そうにアイテムを除き込んでは紐を引っ張っていた。


「ばっかお前!」


 ジェラルドがロナからアイテムをひったくる。突然彼が血相を変えたことにロナがシュンとする。


「え……これ、高いの?」


「違う。これは破裂の実を加工したバクダンなんだよ。ヒモを引き抜けば爆発するぜ」


「ば、爆発……っ!?」


 血の気が引いた顔をするロナ。その顔を横目にジェラルドがバクダンを棚へ戻す。


「顔に傷でも付いたら大変だろ? 魔法で治らねぇ傷もあるんだ。お前のそんな姿・・・・見たくねぇ」



 ジェラルドの背後が急にシンと静まり返る。



 ん? なんでロナのヤツ黙るんだ?



 彼が振り返るとロナは頬を染めていた。



「どうした?」



「う、うううん。いや、ふふ、へへへ……」



 ロナが恥ずかしそうに笑う。その姿を見てジェラルドは急に恥ずかしくなった。誤魔化す為にアイテム棚を漁る。



「ふふふ……」



 ロナが彼の腕に抱きつく。



「は、恥ずかしいから離れろよ!」


「嫌だ。こうしてるもん!」



「仲が良いね〜」



 2人の様子を見て店主がニコニコと笑みを浮かべる。珍しくジェラルドが顔を赤くした。


「顔が赤いよ? 僕がこうしてるから嬉しいの?」


「う、うるせ。そんなんじゃねぇよ」


 嬉しそうに笑うロナに恥ずかしがるジェラルド。



 2人の姿は、師弟と呼ぶにはあまりにも仲睦なかむつまじく見えた。



 ……。



 そんな様子を窓の外から見ている者がいた。



 魔法障壁のあるこの国に如何にして紛れ込んだのか、コウモリのようなモンスター……魔王軍の使い魔・・・が。



―――――――――――

 あとがき。


 ジェラルド達の様子をうかがう使い魔。果たしてその目的は……?

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