第38話 砂漠の戦い

 ジェラルド達がサザンファム地下王国を目指して旅をすること2週間。


 ドレーヌ山脈を抜け、村に立ち寄り装備を整え、大ケイトを船で渡り砂漠を抜ける。




 そうして、ついに目的地目前までやって来た。広大な砂漠へと。



「あづい"わね……」


 エオルが杖をつきながら砂漠を進む。


「だらしないでありますな」


「鎧のアンタと一緒にしないでよ……」


 前を歩く2人を見ながら、ロナがジェラルドの手を握った。



「サザンファムの女王って僕達の忠告聞いてくれるかな?」



 前を悠々と歩いていたブリジットが振り返る。



「もし聞いてくれなくてもなんとかするであります!」



「そうだな。俺らは俺らで出来ることをやろうぜ」



「ジブン達は豪将ヴァルガンを倒した勇者パーティ! ジブン達だけでなんとかなるであります!」




 カシャンカシャンと音を立てながらブリジットが元気よく走る。エオルを通り越し、さらにさらに前へと。


「鎧は気温の影響受けないから良いわねぇ……」



「お! 何か見えて来たであります!」



 砂の山に登ったブリジットが前方を指差した。



「ま……待ちなさいよ……こっちは必死なんだから……」



 エオルがヨロヨロとブリジットの後を追おうとした時。



 ロナが叫んだ。



「ブリジット!! し、下!」


「ん? なんでありますか?」



 ブリジットが下を確認した瞬間。ゴゴゴゴという地響きと共に砂漠の中から巨大な口が現れる。



「グモオオオオォォォォォ!!!」



「うおあああっ!? っであります!?」


 

その巨大な口にブリジットがバクリと丸呑み・・・にされてしまった。



「ブリジットぉ!?」



 叫ぶロナの前に巨大な魚型モンスターが現れた。


「な、何よあれ!?」



「あれは……ブレードラディクスだな。砂漠地帯ブレードラに潜む砂漠魚さばくぎょモンスターだぜ」



「落ち着いてる場合!? ブリジット食べられちゃったのよ!?」


「心配すんな。ブリジットは鎧だぜ? そう簡単に消化されたりしねぇよ」



 だがなぁ……。



 ブレードラディクスのレベルは46。しかも相当タフだ。俺も戦闘に入らねぇと助けられないか。



 ジェラルドが抜刀の構えを取る。



 ガデスソードに蓄積された逃走回数は128回。ロナと合わせりゃいけるな。



 後は吐き出させる準備もか。



「エオル! 炎雷魔法フレイライトニングの応用技あったよな? あれをやれ! ロナは俺について来い!」



「分かったわ!」

「うん!」



 ジェラルドとロナがブレードラディクスへと走っていく。



「グモオオオオォォ!!」



 巨大な魚は頭部に付いた触手をムチのようにしならせジェラルドを攻撃する。



「早速仕掛けて来やがったな」



 触手が叩き付けられる瞬間——。



 彼の眼帯。その星座模様がキラリと光り、叩き付けられた触手を人ならざる速度で回避する・・・・



「すご……!? 残像みたいのが見えた……」



「言ってる場合かよ! 連続では使えねぇから早めに決めるぞ!」



 ジェラルドの新たな眼帯「運命の眼帯」。



 それは、装備者の意思に合わせて発動し「逃げた回数だけ」1度だけ回避率を急激に上昇する装備……ジェラルドの為にガルスマンが密かに作っていた物だった。



撹乱かくらんしろ!」


「分かったよ!」



 ジェラルドとロナが2人に分かれる。目標が分かれたことでブレードラディクスの意識がロナへと向かう。



「オラオラぁ! よそ見してんじゃねぇぞ!」



 ジェラルドが腰のガルスソードを抜刀する。



「ガルスソード!」


 ブレードラディクスの腹部を一閃する。モンスターは想定外の威力に声を上げる。



「グモォォ!?」



 流れるように左手でガルスソードⅡを放つジェラルド。逆手に握られたつるぎが1度目の斬撃と同じ軌跡を描く。


「二連!!」



「グモアアアアアッ!?」



 ガルスソードの二連撃でブレードラディクスがのたうち回る。



「エオル今だ!!」



 ジェラルドの叫びと共にエオルが烈火魔法フレイバーストを唱え……5つの火球が弾け、大地に炎の膜を作り上げる。


 ヴァルガンの時のように発生する上昇気流。その頭上に厚い雲が出来上がる。



「見てなさいよ〜! もう一度!」



 さらに烈火魔法を放つエオル。再び放たれた5つの球が高速で回転し、魔力の混ざった風が渦を巻き、やがて竜巻へと変化していく。


「ふふふ……炎雷魔法フレイライトニングを編み出した時気付いたのよ。雷を発生させる前段階だってちゃんと使えるってねぇ!」


 エオルが左手をモンスターへとかざす。



炎風魔法タービナスフレイム!!」



 竜巻となったエオルの魔法がのたうち回るモンスターを絡め取る。


「グモモォォッ!?」


 地上から浮き上がったブレードラディクスは、空中で高速回転させる。


「ォォ……オォォ ……」


 大地へと叩き落とされたモンスターはフラフラと立ち上がろうとした。



「これで終わりだよ!」



 両眼を赤く光らせたロナ。力を解放した彼女がブレードラディクスの懐へと飛び込む。



「エアスラッシュ!!」



 ロナが風の斬撃を放つ。成長し、力を解放されたロナの一撃は、巨大なモンスターすら空中に浮かせるほどの威力だった。



「グモモォッ!?」



「うわわぁっ!? で、ありますぅ〜!?」



 ブレードラディクスが吐き出したブリジットが空を舞う。



「だ、誰かぁぁ〜!?」



 空中をジタバタと暴れ回るブリジットの元へジェラルドが駆け付け、その鎧をしっかりと受け止めた。



「無事で良かったぜ」


「うぅ……粘液で……体中がデロデロでありますぅ……」


 体中が粘液まみれのブリジット。鎧騎士はジェラルドの腕の中で申し訳無さそうにうつむく。


「はぁ……なんとかあの魚倒せたわねぇ……」


「一時はどうなることかと思ったよ……」


 へたり込むエオルとロナ。その後ろではブレードラディクスが光となって消滅していった。


「ん?」


「どうしたでありますか?」


 ジェラルドが突然ブリジットの鎧の中へと手を突っ込んだ。


「なんか光る物が……」


 ブリジットの胸元へ手を突っ込むジェラルド。そして、鎧の中から花のような物を取り出した。


「なんだこれ? 髪飾り・・・……か?」



「キャアアァ!? ヘンターイ!! であります!!」



「痛えっ!?」


 ブリジットがポカポカとジェラルドを殴る。たまらず地面に降ろすと鎧騎士は乙女のように胸元を押さえて身構えていた。



「何するでありますか!?」



「いや、だってお前……鎧だし……そんなに恥ずかしがらなくてもよ」


「性別はなくとも胸元に手を入れられたら恥ずかしいでありますぅ!!」



 しばらくブリジットは乙女モードになっていた。





◇◇◇



 ——さらに砂漠を進むと、突然門のような建造物が見える。そこには門番が2人砂漠の中に立っていた。



「こんな何もない所に……」


 驚くロナへ兵士が近付く。


「冒険者か? 許可証は?」


「許可証はねぇが女王に至急伝えなきゃならねぇことがある」


 ジェラルドがエメラルダス王室の模様が入った書面を見せ、ロナが勇者だと伝える。


「え、エメラルダスだと……!?」


「エメラルダスに認められた勇者パーティってことよ」


 エオルの言葉に、兵士は食い入るように書面を見た。



「確かに……本当のようだな」



「魔王軍について情報共有がしたい」



「う、うむむ……しかし……」



 あ、そうか。原作設定だとエメラルダスとサザンファムは仲が悪かったよな。ここはこの兵士の背中を押してやる必要があるか。



 判断に困っている兵士を見てジェラルドがニヤリと笑う。


「いいのか? 火急の知らせを無碍むげにして。万が一この国が魔王軍に襲われたらどうなっちまうかなぁ〜」



「わ、分かった! 私が付くことで王室へ向かうことを許可しよう」



 もう1人の兵士が槍をトントンと叩くと門が開く。しかし、扉の奥は、真っ白い空間が広がっているだけだった。



「何も無いであります」


「これは転移門魔法ゲートよ。べつの場所へ繋がってるわ」


「すご……っ!? こんな魔法があるなんて……」


 驚くロナの背中をジェラルドがポンと叩いた。


「いや、驚くのはまだこれからだぜ」



 そうしてジェラルド達は門の先へと足を踏み入れた——。




―――――――――――

 あとがき。


 いよいよ地下王国へ。


 次回、女王に出会ったジェラルド達はある提案をされて……?

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