第37話 サザンファム地下王国へ

 魔王軍豪将ヴァルガンを倒して1週間後。


 ——ドレーヌ山脈。


 ジェラルドの黒い眼帯・・が朝日に照らされ、刻まれた星座の模様がキラリと光る。



「いい感じだな」



 その隻眼の先にはロナ達の戦闘が繰り広げられていた。



火炎魔法フレイム!」


「プギュッ!?」


 エオルの放った火球が直撃したスライムが光となって消滅する。


「ふ〜これで最後……」



「グガアアアアア!!」



 気を抜いたエオルの背後から狼のようなモンスターが飛びかかる。



「危ないであります!」



 ブリジットが飛び込み、その鎧で狼の牙を受け止める。ガキンッという音と共に噛み付く狼。想定外の衝撃にモンスターは軽い悲鳴を上げた。


「狼種のリィオウルフだ! 投げ飛ばせ!」


 ジェラルドの指示にブリジットのヘルムの奥から瞳の光がビカリと輝く。



「せいっ! であります!」



 ブリジットがリィオウルフを投げ飛ばす。



「キャウンッ!?」



鎧騎士の強靭な力により、狼は空高く舞い上がった。




「ロナ。力は使わなくていいぞ」


「うん!」


 森の木を三角跳びし、ロナが狼の元へと飛び込む。



空舞斬くうぶざん!!」


「ギギギギギャンン!?」



 縦に高速回転したロナ。彼女がリィオウルフへと突撃すると、モンスターは真っ二つとなり光になった。



「楽勝だったわね」


「何が楽勝でありますか!? 危うく襲われる所だったであります!」


「ゆ、油断して悪かったわよぉ……」


 詰め寄るブリジットにエオルが頬を掻く。


「よっと」


 その様子を横目に、ロナが大地へと舞い降りる。フワリとマントをなびかせて着地する様子には、今までには無かった風格のようなものを感じさせた。


「……」


 ジェラルドが静かに3人の様子を見つめる。


「どうしたの師匠?」


「ん? 全員戦い方が安定して来たと思ってよ」



 俺の出る幕は完全にねぇなぁ……。



 ジェラルドは、ロナ達の成長への嬉しさと、自分が置いていかれるような寂しさが入り混じるような……なんとも言えない気持ちになった。



「……」



 エオルは、そのジェラルドの様子を心配そうに見つめていた。





◇◇◇



 周辺のモンスターを倒し終えた頃には辺りは薄暗くなっていた。


 野営の準備を終えたジェラルド達が焚き火を囲む。


「この魚美味しいわね……」


 エオルが串に刺さった魚をかじって目を見開いた。



「僕が川で取って来たヤツだよ? 感謝してよね〜!」


「はいはい。美味しいお魚が取れてロナちゃんは偉いですね〜」


「なにその言い方!」



「え、エオル殿。ロナ殿をあおるのはちょっと……」



「ブリジットは僕の味方だよね?」


「え? いや、ジブンは……」



 オロオロとするブリジットを見たエオルは、ニヤリと笑うとジェラルドの腕に抱きついた。



「ブリジットはロナの味方? じゃあバランスを取ってジェラルドは私の味方になってくれるわよね? パーティで1人だけ孤立させたりしないわよね?」



「えぇ!? 俺を巻き込むなよ!」



「エオル! 師匠はいつも僕の味方なの! 何取ろうとしてるの!?」



 怒ったロナが反対の腕に抱きつく。なぜか喧嘩する2人はジェラルドの腕を引っ張りあった。



「アンタが調子乗ったこと言うからでしょ!?」



「いでででで!? ちょっとやめろってお前ら!」



「ジェラルド殿ぉ……ジブンはど、どうしたら良いでありますか……?」



俺を・・助けてくれえええぇぇぇ!?」



 ジェラルドは、なぜか自分がしっかりしなければいけないと感じた。




 ……。



 …。



 夜も更けた頃、焚き火に当たっていたエオルが神妙な面持おももちで声を上げた。



「ねぇ。本当に行くの? サザンファム地下王国に。罠かもしれないわよ」



「仕方ないじゃん。魔王軍の犠牲者が出るのを知ってて何もしないなんて、耐えられないよ」


 ロナが悲しそうな顔で火を見つめる。




 数日前。レッドツリーの村にいたジェラルド達の元へ一体のコウモリが現れた。それは、使い魔として有名なモンスター。それが言い放ったのだ。




 ——勇者よ。我ら魔王軍はサザンファム地下王国を落とす。




 それだけ言い残し使い魔は飛び去った。



「大規模な戦いになるのでありますかな……」


「いや、恐らく魔王軍は幹部が出て来るはずだぜ」


「単独で攻めるのでありますか?」


「サザンファムは外界からの侵入を防ぐ魔法障壁があるからな。単騎で強力な者を潜ませるはずだ」



 原作と同じなら魔将フィリアか。なんとしても止めねぇと……。



 今回、彼らが動いたのにはもう一つ理由があった。


 ロナを救う真エンドに向かう為には、死亡イベントのキャラクターを救う必要がある。



 それが、サザンファム地下王国のアゾム女王・・・・・



 彼女が魔王軍魔将フィリアに殺されてしまう……それが原作で発生するイベントだった。



「ヤツらは必ずアゾム女王を狙う。それだけは絶対防がなきゃならねぇ」



 あんまりのんびりはできねぇな。朝になったらすぐ出発しねぇと。


 ジェラルドがガルスソードを握りしめる。


「師匠、大丈夫?」


 心配そうに自分を見つめるロナ。その頭をジェラルドはポンポンと撫でた。



「お? すまんすまん! ちょっと作戦を考えててよ〜! いやぁ伝説の戦士は考えること多くて大変だぜ〜」


「そう? なら、いいけど」


 そうは言うものの、ロナはジェラルドの隣に身を寄せるように座った。


「なんだよ?」


「ううん。なんとなく」


 ロナはジェラルドの様子がいつもと違うことをなんとなく察したように、その顔を暗くする。


「なーにをイチャイチャしてるのよ?」



 突然、エオルがニヤニヤと笑みを浮かべた。



「そんな深刻な顔しなくても大丈夫よ! なんと言ってもこのエオル・ルラールがいる訳だしぃ? 楽勝よ楽勝」



「その割にはさっき油断していたであります」


「うっさいわね!」


 騒ぎ立てるエオル達を見てジェラルドが笑う。


 なんかエオルのヤツ、今日は妙にテンション高いな。



「ほら! ジェラルドも暗い顔しないの! 私達は絶対負けないわ!」



 暗い?



 ……。



 そうか。



 エオルのヤツ、俺の様子が変だったから気にして……。



「ふ」



「……? 師匠?」



「ふはははは! そうだぜ楽勝だ! なんたってこの伝説の戦士ジェラルド様が指導してるパーティなんだからよ!」


「アンタはぜんっぜん戦わないでしょ!?」


「ウッセ! 俺は無駄なことはしない主義なんだよ!」



 ジェラルドは高らかに笑った。



 そうだぜ。俺は1人じゃねぇ。心配なんかすんな。



 笑ったままロナを助けて見せるぜ!



「ま、ちょっとはらしく・・・なったんじゃない?」


 エオルが肩をすくめる。その様子を見てジェラルドは思った。



 ……ありがとな。エオル。




―――――――――――

 あとがき。


 ジェラルド達はサザンファム地下王国へ。


 次回、砂漠バトルをしつつサザンファムに行く回です。

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