第28話 結晶竜との戦い

 ガルスマンの家をすぐに出発したジェラルド達は、ホース山脈へと続く川沿いに来ていた。


 ロナが岸壁の亀裂に手を伸ばす。


「うぅ……届か、ない……」


「変わりな。俺が取る」


 ジェラルドが亀裂に手を入れる。


「うん……? これか?」


 ゴソゴソと何かを探すジェラルド。数秒の後、バキリという音と共に青く光る石を取り出した。


「すご! ポワポワ光ってる!」


「ベニトアイトだな。スキルを符呪エンチャントする時に使うんだ」


「そうなんだ。師匠、戦士なのに詳しいね」


「このガルスソードを貰う為にしばらく村にいたって聞いたろ? ガルスマンの下で働いてたからな」


「え!? じゃあ、あのお爺ちゃんはある意味師匠のお師匠さんなの!?」


 師匠? んー全然違うよなぁ……いや、でも……ガルスマンはアイテムに詳しいからなぁ。


 勝手に俺が技術盗んだとはいえ、アイテムの特性とか使い方とかガルスマンから教わったようなもんだし……ある意味、師匠か。


 初めてジェラルドは気付く。村を出た時にガルスマンへと感じた苛立ち。そしてガルスマンが再びやる気を取り戻した時に感じた喜びを。


 ジェラルドは、ガルスマンが腐っているのが許せなかったのだ。彼の技術を認めていたからこそ……。



「ま、そんなもんかもな」



「すごい……じゃあ僕はあのお爺ちゃんの孫弟子なんだね。僕の大師匠だね」



「大師匠……ってお前……」



 どう言う語彙力ごいりょくだよ……。


「そっかぁ〜だから師匠はあのお爺さんを信頼してたんだね」


 ニコニコと笑うロナに、ジェラルドはそれ以上言うことをやめた。


「まぁいいや。次は剣の素材、龍晶石ドラゴングラスを取りに行くぜ。覚悟して行けよ〜」


「うん!」





◇◇◇



 崖沿いを進むジェラルドとロナ。半日かけて先へと進むと、開けた空間へと出た。


「はぁ……着いた。結晶竜クリスタルドラゴンの巣だ」


「さっき教えてくれたよね。竜晶石ドラゴングラス結晶竜クリスタルドラゴンの背中に生える素材なんだって」


「そうだぜ。時間もちょうどいいな。そろそろ現れて……」


 ジェラルドがそう言った時、岩肌がガラガラと音を響かせ崩れ出す。



「グラオオオオオッ!!」



 岩壁の中から現れた四足歩行の竜が雄叫びを上げる。小山ほどもある体躯に岩のような皮膚、背中に大量の結晶クリスタルを背負った竜が。


「お、大きい……サイクロプスよりずっと大きいよ……?」


 クリスタルドラゴンのレベルは40台。ロナ単独では厳しい相手。だが……。


「大丈夫だ。ロナがヴァルガンと戦った時に使った力。アレを発動すれば勝てない相手じゃねぇ」


「あの時の力……ってどうやったらいいから分かんないよ……」


「それも心配すんな。ある程度発動条件は掴んでるぜ」


「ど、どうやって使うの?」


 今までのロナの戦う動機は全て「他人の家族が奪われること」だ。恐らく、ロナ自体が家族に強い憧れを持ってるから来ているんだろうな。


 だからこそ……今のロナはその想いをトリガーにできるはず。



 ありがとよガルスマン。アンタの素材集めのクエストはロナにとって最高の修行になるぜ。



「考えてみろ。あのドラゴンは縄張りを荒らした者を襲う。サイクロプスと同じだ」


「……犠牲になった人もいるってことだね」



「ああそうだぜ。その中には家族がいた奴らもいるだろうし、俺達のような・・・・・パーティもいたはずだ」



「……っ!」


 「俺達のような」とジェラルドが言った瞬間。ロナの雰囲気が変わる。目付きがほんのりと赤く光り、ドス黒いオーラが彼女の中からあふれ出す。



「……許せない。何かを奪う奴は」



 ロナにとって誰かを守りたいという願いが勇気の源。それは彼女自身の家族への憧れから生まれた。


 だが、本来持っていない物を糧に戦うのは難しいのだ。イメージができないからこそ覚悟が揺らぐ。


 今のロナはジェラルド達によって人との繋がりを持った。「失う物ができた」からこそ「奪う物への怒り」が発現するようになった。



 それが彼女の現在の力に呼応し、その本来の力……人ではない・・・・・力を解放させるキーとなった。



 それを、ジェラルドは感じていた。



「……アイツを倒してみな」



 この戦いでロナに力の使い方を覚えさせる。それに、結晶竜の経験値があれば……力にも耐えられる体になる。ロナの成長速度なら。



 ロナがジェラルドに抱き付く。



「僕……頑張るから、見ててね師匠」


「ああ。奴は結晶魔法アーススピアとグランドブレスを使う。どんな攻撃かは覚えてるか?」


「うん。ちゃんと頭に入ってる。師匠が教えてくれたことは、全部」



 ジェラルドから離れたロナが結晶竜クリスタルドラゴンを睨み付ける。


 そして、ガルスマンから借り受けた剣の切先を真っ直ぐ結晶竜へと向けた。


「……悪いけど。死んで貰うよ」


 そう言うと同時に、ロナが竜へと向かって駆け出した。



「うおおおおおおおおっ!!」



 少女が雄叫びを上げる。岩肌にその声が反響し、結晶竜がロナに気付く。



「グラアアアアアァァァ!!」



 結晶竜が咆哮と共に大地を踏み付けると地面から大量の結晶が伸びる。


「これが、結晶魔法アーススピア……っ!」


 ロナを狙うように大地から突き出される結晶をひらりと交わし、空中を舞うロナ。彼女は、自分を狙う結晶の上を飛び移り、結晶竜の目の前へと飛び込んだ。



「クオオオオオ……ッ」



 結晶竜が周囲の大気を吸い込む。それがジェラルドの言っていた「グランドブレス」の前兆だということをロナはすぐに理解した。


「エアスラッシュ!!」


 刃から放たれた風の斬撃が結晶竜の口へ直撃する。ブレスの為に集められたエネルギーが爆発し、結晶竜が悲鳴を上げた。



「グギャアアア!?」



 のたうち回る結晶竜が、その長い尻尾を振り回し、大地をめちゃくちゃに薙ぎ払う。しかし、ロナは一切表情を崩すことなく攻撃を交わしていた。



「すげぇな。やっぱ全体的にステータスが上昇してやがる」



 ジェラルドの目に、巨大な竜を圧倒する少女の姿が映る。


「グラオオオン!!」


 攻撃が当たらないことに苛立いらだった結晶竜が、その強靭きょうじんな前脚をロナへと振り下ろした。



 轟音と揺れの中巻き上がる粉塵ふんじん



 が。



「無駄だよ」



 ロナは立っていた。


 叩き付けられたはずの前脚は、ロナを踏み潰すことなく、あり得ない角度で大地へと横たわる。



「あの脚を切断しちまう威力か」



 結晶竜の脚はロナの剣によって綺麗に切断されてしまっていた。



「グギャ、ア、アアアアアアアア!!」



「終わりだよ」



 再び飛び上がるロナ。空中で縦に回転した彼女がスキル名を告げる。



空舞斬くうぶざん



「ギアッ……」



 突然訪れる静寂。その数秒後、結晶竜の体は真っ二つに引き裂かれる。



 竜の体から漏れでる経験値の光はウネリとなり、ロナへと吸収されていった。




―――――――――――

 あとがき。


 己の力発動のキッカケを掴み結晶竜を倒したロナ。次回、ガルスマンの元でロナの新たな剣を作る回です。そしてもう1つの剣も……ご期待下さい。

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