第27話 武器職人ガルスマン

 レッドツリーの村に到着したジェラルドはすぐに回復魔法士の所へ運び込まれた。


「なぜもっと近くの村に行かなかったのですか!? こんな体で2日も移動させるなんて!」


 回復魔導士はサリアと言い、ジェラルドのことを知っているようだった。


「ご、ごめんなさい……」


 怒られた3人は、困ったようにジェラルドを見た。


「すまんサリア。俺が頼んだんだ。この村に連れて来てくれってよ」


「なぜ戻って来たの……?」


「会わなきゃいけなくてよ。あの爺さんに」


「……」


「師匠。誰に会いに来たの?」


 サリアの横からロナが顔を覗かせる。


「ガルスマン。俺の剣を作った爺さんだ」


「ガルスマン……怒ってましたよ。貴方が突然いなくなったって」


 サリアが悲しそうな顔でジェラルドを見る。


「まぁな。その日の内に出発しちまったからなぁ」


「私にも言ってくれなかったですし……」


 ポツリと呟いたサリアの言葉にジェラルドが怪訝けげんな顔をする。


「何か言ったか?」


「いえ、何も」


 サリアは顔を背け、回復魔法キュアを放つことへと集中した。


「ジェラルド殿はこの村と関係があるのでありますか?」


「昔な。ガルスマンの爺さんと喧嘩してよ。それからこの村には来てねぇんだ」


「ガルスマン。剣を握りしめて貴方を追いかけ回していましたね」


 サリアの言葉にジェラルドが頭を掻く。


「殺されるような勢いだったよなぁ」


 ジェラルドはロナ達にこの村にいた時のことを語った。


 ガルスソードを手に入れる為にこの村に来たこと。しかし、ガルスマンが頑なに作ろうとしなかったこと。


 剣を作って貰う為にジェラルドがしばらくこの村に滞在していたこと。


 この村に滞在した最後の日。ガルスマンがガルスソードでジェラルドを叩っ斬ろうとし、一瞬の隙をついたジェラルドがガルスマンから剣を奪い去って行ったことを。


「よ、良くもう一度この村に来ようと思ったわね……」


「ん? 大丈夫だって! 上手く説得できる方法があるからよ!」 


「えぇ……?」


 エオルは、ジェラルドのたくましさに感心した。



 ……。



 30分ほど回復魔法を受けた後、サリアはジェラルドへ包帯を巻きながら言った。


「これで大丈夫。ただし、再生した骨はまだ弱いですから無理はしないで。食事は骨に良い物を中心にね」


「色々ありがとなサリア」


「……仕事ですから」


 そう言うと、サリアは部屋から出て言った。 




「で? ガルスマンっていう人に何を頼む訳?」


 窓際に腰を下ろしたエオル。クルクルとサイドで巻かれた彼女の髪が風に揺れた。


「壊れたヒスイの剣。それに変わる新たな剣を手に入れたいんだ。この辺りで信用できる武器職人はあの爺さんだけだ」


「じゃあすぐ作って貰って修行するであります!」


「さっきのジェラルドの話聞いてたの? 大喧嘩してこの村飛び出したなんて、すんなり話通ると思えないわ」


「僕達がヴァルガンと戦うまで、今日を入れてあと6日。早く力を付けないといけないのに……」


 3人が頭を抱える。そんなロナ達を見て、ジェラルドが声をかけた。



「それなんだけどよ。この6日の使い方を説明するぜ」




◇◇◇



 30分後。



 ロナとジェラルドはガルスマンの家の前にいた。


「良かったの? エオルとブリジットを滝に行かせて」


「時間がねぇからな。3日で俺達は新しい剣を手に入れる。エオル達は魔法の習得。そして残り3日で戦闘方法を練る。これが最善だ」


「剣を手に入れるのに3日もかかるんだね」


 ロナがニワトリ模様の付いたさやを撫でる。


「そんなに仲直りが大変なのかなぁ」


「ま、すぐに分かるぜ」


 ジェラルドが扉を叩く。


「……出てこないね。もう1回」


 扉を叩こうと手を伸ばしたロナをジェラルドが止める。


「待て。ここはな、出て来るまで待たなきゃ行けねえ所なんだ」


「え?」


「急かすと逆に出て来ねえ爺さんなのさ」



 ……。



 待つこと1時間。


「ねぇ〜師匠? そろそろさ、もう一回ノックを……」


 ロナがそう言いかけた時、中から白髭を蓄えた老人が顔を覗かせた。


「……ん? その炎模様の眼帯……」


「よ。久しぶりだなガルスマンの爺さん」


 ガルスマンは、訪ねてきたのがジェラルドだと分かった途端に顔を真っ赤にした。



「ジェラルドか!? お主よくも抜け抜けとワシの前に!!」



「待て! 今日はアンタに良い話を持って来たんだ!」



「問答無用! 駄作を欲しがりおって!!」



 剣を構えたガルスマンが飛び出して来た。



「うへぇ……やっぱ話を聞かねえ爺さんだぜ」



 身構えるジェラルドとガルスマン。そんな2人の間にロナが割って入った。


「話を聞いてお爺さん。僕はお爺さんに剣を作って欲しいの」


「うるさい! ワシはなぁ……」


 喚き散らすガルスマンにも一切怯まず、ロナは真剣な顔でもう一度言った。



「お願い。師匠から聞いたの。どうしてもお爺さんの剣が必要・・だって」



「わ、ワシの剣が……必要・・?」



 ガルスマンが面食らったようにロナとジェラルドの顔を見た。



「そうだぜ爺さん。アンタによ、特別な剣を作らせてやるぜ?」



「なんじゃ作らせてやるって」


「このは弟子のロナ。それに聞いて驚くなよ? ロナは勇者の称号を持ってる。アンタに勇者の武器・・・・・を作らせてやるって言ってんだ」


「……なんじゃと?」


 ガルスマンの目付きが変わる。


 ジェラルドが見計らったかのように懐から王宮で貰った書類を見せた。



「ほら、王宮の紋章付きだぜ」



「ほ、本当じゃ……」



「どうだ爺さん。俺の話、聞いてみたくなったろ?」


「……ま、まあの、聞いても良いもしれん」



 お、これは良い反応だな。



 もう1つの方・・・・・・の頼みも今ならいけるか……?


「そのついでにもう1つ頼みがあるんだけどよ〜」


「なんじゃ?」



「またガルスソードを」

「嫌じゃ」



 扉を閉めよとするガルスマン。ジェラルドは扉の間に足を突っ込み閉められないようにした。



「まぁ待てよ。お前の剣が必要なんだって」



「……やっぱり興味無いの! ガルスソードなんてふざけた名前で呼ぶのも気に食わんし!」



「5本も作ってんじゃねぇか。もう色んな街に出回ってるしいいだろ?」


「若気の至りじゃ! 散々武器職人達から馬鹿にされたの知っとるじゃろ。もうほっといてくれ……」


 急にショボくれるガルスマン。ジェラルドはそんな老人を見て肩をすくめた。



 めんどくせぇ爺さんだなぁ。



 ガルスマンは世界一の武器職人になることを目指していた。しかし、本人がほんの遊び心で作ったガルスソードが有名な武器職人の目に止まり「にげる」ほど威力が上がるというそのアンバランスさを散々馬鹿にされた。



 それ以降、武器職人達の間で有名なのだ。「チキンヤロウのガルスマン」として。



「まぁ待てって〜! アンタにとっても、名を上げるチャンスだぜ! もう少し話聞いてくれよ〜」


「お願いお爺さん! 僕達に協力して?」


「む、むむぅぅ……」


 2人の必死の説得で、ガルスマンは話を聞いてくれることになった。




◇◇◇


「つまり……その魔王軍の幹部との戦闘にワシの武器を使いたい……と」


「そうだぜ爺さん。アンタの武器で魔王軍豪将を倒す。しかも勇者がガルスマンの武器を使っていると知れ渡ったらどうなる?」


「ワシの名前は……有名に……」


「そうだ」


「ワシが、有名人に……」


「そうだ」


「見返せるのか、ワシを馬鹿にした奴らを……」


「そうだぜ。アンタのこと馬鹿にした奴らみんな見る目が無かったってことになるな」


「う」


「う?」



「うおおオオオアアアアアああああああ!!! これじゃこれじゃ!! これは天啓てんけい!! 天がワシに与えたチャンスじゃあアアアアア!!」



 ガルスマンの目が先程とは比べ物にならないほどの輝きを放ち、部屋中を漁り出した。



「お、お爺さんなのに……『すごい』って言われたいんだ……」



 ロナが感心したように呟く。


「そりゃあそうだぜ。ああいう職人は誰だってそうだ」


 ジェラルドは、やる気を見せるガルスマンの姿を見てニヤリと笑った。


「でも、この調子だったら3日もかからないね!」


「いいや。こっからだぜ」


「え?」


 不思議そうな顔をするロナ。それを他所にガルスマンが丸められた紙を大量に抱えてやって来た。



「ふははは! アイデアが次々といて来おるぞ! ほれジェラルド。この材料全部集めて来い!!」



 抱えていた紙に記されていたのは大量の材料だった。



「え!? こんなに沢山集めるなんて……」



「馬鹿言っちゃあいけないぞお嬢さん! いや、勇者様! 勇者の剣を作るにはスキルの符呪エンチャントをせねばならん! 妥協などできんぞ! さぁ! 早く集めて来るのじゃ!」


「こ、これを全部?」


 ロナが手にした紙に書かれた材料は100種以上。彼女にとって聞いたことのない素材ばかりだった。


「な、言ったろ。本当はこういう爺さんなんだよ」


「み、3日かぁ……」


 珍しくロナがため息を吐いた。




―――――――――――

 あとがき。


 無事にガルスマンを説得できた2人。次回、素材を集めの為に、ロナはある敵へと挑みます。お楽しみに。

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