運命との戦い編

第26話 脅威の後

「師匠!?」

「じ、ジェラルド殿」


 駆け寄って来るロナと体を引きずり近付いて来るブリジット。ジェラルドはその光景を見て笑みを浮かべる。


「へ、へへ。無茶した甲斐かいがあったぜ……」


「ジェラルドぉ……なに死にそうになってるのよぉ……」


 ジェラルドは、大泣きするエオルをなだめるようにポンポンと頭をでる。


「死ぬかよ。ロナ、薬草取ってくれ」


「うん……」


 彼はロナから渡された薬草を鷲掴わしづかみにすると口に放り込んだ。


「苦げぇ……」


 苦味を噛み締めていると、徐々に意識がはっきりとし、体が動くようになっていく。しかし、全身を襲う激痛は未だ引くことは無かった。


「痛っつ……っ!」


 エオルが、起きあがろうとするジェラルドを支える。


「……色んな所の骨が、折れてるわ。回復魔導士の所へ行かないと」


「ごめんね、師匠……ブリジットも……僕がもっと強かったら……」


「ジ、ジブンも……何の役にも立てなかったであります……」


 辺りが沈黙に包まれる。彼女達全員、ヴァルガンに敵わなかったことに打ちひしがれていた。


 これは……コイツらの方がダメージ来てるな。


 ジェラルドは、己の体のことよりも彼女達を気にかけた。


 このままいけば、ヴァルガンに再び勝つことなどできないと感じたから。



「ロナ……エオル、ブリジット。ちょっと来い」



 悲壮感の漂う彼女達がおずおずとジェラルドの元へと集まった。



「よく聞け。俺達は生きてる。あの魔王軍豪将と戦って……だ。これはすげぇことだぜ」


 ジェラルドがロナ達の頭に手を乗せる。


「ブリジットはロナを守ってくれた。エオルは戦闘を止めてくれた。ロナは……お前のおかげで俺は生きてる」


 3人の瞳に映る。ボロボロになりながらも目の奥の光……それだけは失っていない男の姿を。


「生きてる。生きてりゃ次がある。敗北じゃねぇ。しかも1週間だぜ? これだけあれば、絶対にアイツに勝てる。最高かよ」


 それは彼女達だけでなく、己の心にも響かせる言葉。ジェラルドは自分自身も鼓舞こぶしていた。



 そうだ。世界は俺に「今すぐ死ね」とヴァルガンと出会わせた。



 だが俺は……俺達は、それを乗り越えた。乗り越えたんだ。例えわずかであっても運命に抵抗できた。



「うん。次は、必ず勝つ……」


「ジブンも……リベンジするであります」


「し、仕方ないわね。私も、ひっく、手を、貸してあげるわよ」


「はは。お前ら泣きすぎだっての。エオルなんて顔真っ赤にしてよ〜」


「う、うるさいわねぇ!」


 エオルが反射的にジェラルドをバンッと叩く。


「あ」


 エオルが叩いたポーズのまま固まった。



「痛ってええええええええ!?」



「ちょっとエオル何やってんの!?」


「つ、つい……」


「大変であります大変であります! ジェラルド殿がのたうち回っているであります!」


「大丈夫師匠!?」



「痛ええええよぉぉぉぉ!?」



「こ、これ薬草じゃなんとか……ならないわよね」


「なる訳ないであります!!」


 遺跡中にジェラルドの声が響き渡った。



 ……。



 次は本当に超えてやる……っ!



 俺の運命を。




◇◇◇




 2日後。



 ジェラルドの希望で勇者パーティはある村を目指していた。



「ブリジット! 早く早く!」



 ブリジットの斧を担いだロナが走る。その視線の先には煙が上がっていた。


 職人の村として有名なレッドツリーの村である。


「見えて来たわよ。ジェラルドが行ってた村。私とロナで先に回復魔法師に話付けてくるわ。ブリジットも急いで!」


 そう言うと、エオルとロナは村へと走って行った。


「鎧使いが荒いでありますなぁ。ジェラルド殿を背負ってるジブンのことをもっとねぎらってほしいであります」


 カシャンカシャンと鎧の音を響かせながらブリジットが2人の後を追う。


「スマねぇなブリジット。かつがせちまってよ」


「ジェラルド殿は気にしなくて良いであります。怪我人を助けるのもジブンの仕事。そう命令されているであります」


 2人の間に沈黙が流れる。


 き、気まずいな……。


「そういや、ブリジットって門番やめようとか思わなかったのか?」



 あんな所にずっと1人とか絶対暇だよなぁ。



「考えたこともなかったであります。命令なので」


「ふぅん、命令って逆らったらどうなるの?」


「逆らったら? ううん……分からないでありますなぁ」


「分からない?」


「だってジブンは魔導騎士であります。命令を守る必要があるのであります」


 命令を守る……か。



 ……。


 戦闘続きだったし、俺もこんな有様だったからブリジットとちゃんと話す暇なかったな。


「じゃあ質問を変えるぜ。お前はどうして1人だけ門番してたんだ?」


「え」


 急にブリジットが黙り込む。


「どうした?」


「あ、いや……ジブンは、魔導騎士の試作品でありまして……他の魔導騎士と違うのであります」


「何が違うんだよ?」


「弱い。のであります」


「弱い? お前の戦闘を見てたがそんな風には見えなかったぜ」


「あれは魔族やモンスターだったからであります。戦争中に『人を殺せ』と言われて……戦ったでありますが、ジブンは負けてしまったのであります」


「……」


 そうか。確か大昔の戦争は、人と人との戦争だったもんな。



「それで、役立たずと軍から言われて、マスターの元に追い返されて……」


「そのマスターさんは? なんか言ってたのか?」


「マスターは『それでいい』と言っていたであります。それからジブンをあの遺跡の門番に任命したのであります」


 ブリジットはジッと正面を見つめながら歩き続ける。その様子は遠い記憶を思い出しているようだった。


「そうしている内に戦争が終わって、魔導騎士の仲間達があそこに眠って、マスターも死んで……いつの間にか1人になったであります」


「……そうか」


「あ! でもジェラルド殿達に出会えて良かったであります! 魔王軍から仲間達とマスターの残した命令魔法も取り返さねばいけませんからなぁ!」


 ブリジットの声が急に先程までの調子に戻る。


「ところで! 向かってる村にいる人物はそんなに重要なのでありますか? ジェラルド殿の言っていた確か……ガ、ガ、なんでありましたっけ?」



「ガルスマンだぜ」



「そうガルスマン。変わった名前であります!」



 ガルスマン……俺の持つ剣「ガルスソード」の制作者。



 アイツに会うことは絶対必要なんだ。ロナの新たな剣を作り、ヴァルガンを倒す為にはな。




―――――――――――

 あとがき。


 ガルスソードの制作者、ガルスマンの元へと向かうジェラルド達。


 次回、村へと到着したジェラルド達だが、ガルスマンとジェラルドには何やら因縁があるようで……? どうぞお見逃しなく!

 

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