第23話 侵入者を叩け

 ジェラルドが壁の装置を起動させ、抜け道を塞ぐ。


 「よし。これで侵入者には安置所は分からねぇはずだ」


 魔導騎士の安置所を出たジェラルド達は侵入者の痕跡こんせきを追った。



 1時間ほど遺跡内を探索していると、一体のモンスターが目の前を通り過ぎた。


「ケルドラコであります。この辺りには生息しないモンスター……なぜこの遺跡にいるでありますか?」


「え、ケルドラコってここに住み着いてる訳じゃないの?」


 ロナが驚いた顔をする。


「ジブンが最後に見たのは数百年前。この国の外であります」


 この国の外だと? そういや、ケルドラコって野生以外にもどこかで見た記憶が……。



「貴様達! そこで何をしている!?」



 突然、通路の奥から声が聞こえた。


「見て! 黒い影がいるわ!」


 エオルが声の主へ杖を向ける。そこにはジェラルドの見覚えのある敵がいた。黒い影のよつな魔物が。


 ……魔族の尖兵せんぺいだと?


「アイツ。前に僕達を襲って来たヤツと同じ……っ!」


「同種族だな。けど心配すんな。今のロナなら苦戦する相手じゃねぇ」


 この地形ならヤツの動きは限られている。先に仕掛けた方が勝ちか。


「エオルとロナは先行しろ。ブリジットはトドメだ」



「何をごちゃごちゃと話している!!」



 魔族の尖兵が翼を広げ、猛烈な速度で廊下を向かって来る。



「自分から飛び込んで来るなんてバカなヤツ! 火炎魔法フレイム!!」



 杖から放たれた火球が尖兵の顔面へと直撃した。



「がっ!?」



「クロスラッシュ!!」



 魔法によってできた隙にロナが飛び込み、すれ違い様に十字の斬撃を刻み込む。


「ぐはぁ!? き、貴様ぁ!!」



 激昂げっこうした尖兵がロナを追おうとした時——。



「隙あり! であります!」


 尖兵の頭上に斧を構えていたブリジットが浮いていた。



「うあああああああ!?」



 面食らった尖兵へとブリジットが斧スキルを放つ。



頭蓋割ずがいわり!!」



「ぐおっ!?」



 斧とブリジットの全体重を乗せた一撃が尖兵を襲う。



 通路に轟いた地響きと共に尖兵は両断され、光となった。


「まずは1人。でありますな!」


 大斧を振り回し、ブリジットが背中に担ぐ。


「大したことない敵だったわね」


「僕、強くなってる……気がする。前に尖兵せんぺいと会った時は全然勝てる気がしなかったのに」



「間違いじゃないぜ。ロナもエオルも尖兵を超えてるからな。2人とも自信持っていいぞ」



 ジェラルドがロナとエオルの頭に手を置く。


「師匠に鍛えて貰ったおかげだね」

「さ、さわらないでよ……」


 純粋に喜びを表すロナに、恥ずかしがるエオル。対象的な2人だが、成長の実感を得ているのは分かった。



 ……お前らが勝手に成長したんだけどな。



 俺がやったことと言えばレベル上げに最適な場所での戦闘とかコンビネーション教えるとか、そんなもんか。



 ホント、やっぱ本物の勇者パーティはすげぇな……。



 おっと。そんなこと考えてる場合じゃねぇ。


「尖兵がいたっていうことはここを襲ったのは魔王軍か。そういや、ケルドラコは魔王軍が騎乗することもあったな」


「まままま魔王軍でありますか!? 大変であります大変であります! ジブンの仲間達が狙われてるであります!」


 慌てて走り回るブリジットをジェラルドが止める。



「落ち着け。とりあえず遭遇した魔王軍のヤツらを片っ端から潰すぜ」



 ある意味ちょうどいいや。これくらいのレベルの敵がいるならブリジットのレベル上げには最適だな。


「おし。気合い入れていけよお前ら。トドメはブリジットに任せたぜ!」


「いや、アンタもいい加減戦いなさいよ」




◇◇◇


 ジェラルド達は魔王軍の敵を確実に処理していった。敵を倒しながら遺跡を一周し、騎士達の安置所前へと戻る。



「これで……最後であります!」


 ブリジットが横回転を加えた攻撃を放つ。



崩壊打ほうかいだ!!」



「ぐあああっ!!」



 ブリジットの一撃を受けた尖兵は遺跡の壁にめり込み光となった。



「ふぅ。簡単に倒せるようになって来たであります!」



 光が3つに分かれブリジット達に吸い込まれていく。



「おお! また光ったであります!」



 よし。ブリジットもこれで5回目のレベルアップだ。



「ちょっと! 斧振り回さないでよ危ないわね!」


「ご、御免ごめんであります……」


 ブリジットはシュンとした。



 これでロナのレベルは35。エオルは30、ブリジットは28は超えたはずだ。単独でも尖兵は軽く倒せるようになったはず。後は指揮官を探すか。



 普通なら魔王軍モンスター「魔族の隊長」が率いてるはずだ。そいつならちょうどレベルはロナと同じ程度。イケるな。



「このまま魔王軍の隊長格を打ち取るであります! 我らが遺跡の仕掛けまで・・・・・破壊して・・・・……絶対に許さんであります!」



 気合いを入れるブリジット。その様子を見ていたジェラルドの脳裏に、遺跡に入った時の光景が蘇る。



 そう言えば……仕掛けを壊した攻撃をする敵と遭遇していない。



 ねじったような……竜巻たつまきうず螺旋らせん……みたいな。



 螺旋らせん



 待て。



 待て待て待て。



 いたじゃねぇか。螺旋らせんの技を使う敵が。



 1人だけ。



 マズイ。今ヤツ・・と遭遇したら……。


「おい。侵入者達のボスはヤベェ奴かも知れねぇ。早くここから——」


 ジェラルドがそう言いかけた次の瞬間。



 技名が聞こえた。



螺旋突らせんとつ



 突如響き渡る轟音。その後、猛烈な風と共に遺跡の壁が吹き飛んだ。



 壁に空いた風穴。そこから竜巻のように回転した何者かが現れた。



「きゃあああああ!?」

「な、なんでありますか!?」



 破壊されたのは魔導騎士達が眠っていた広間への隠し通路。そこから大量の魔族達が現れる。



 そして。ジェラルド達の前を通り過ぎた竜巻が止む。そこから現れたのは……。



 槍を携えた竜のような見た目の大男だった。



 魔族の1人がその男へと報告する。


「ヴァルガン様。魔導騎士と操作の為の魔導書回収が終了しました」


「よし。お前達は移動魔法ブリンクで魔王城へ帰還しろ」


「ヴァルガン様はどうなされるので?」


 ヴァルガンと呼ばれた男があごでジェラルド達を指す。



「コソコソと動いていた者達……オレは奴らと遊ばせて貰う」



 槍を弄びながらヴァルガンがジェラルド達を睨み付ける。



 その瞬間。



「……っ!?」



 全員に恐ろしいまでのプレッシャーが襲いかかった。


 ヴァルガンの指示で魔導騎士を抱えた魔族達が移動魔法ブリンクを発動し、瞬時に消えていく。



「あ、あ……仲間達が連れ去られるであります!」



「やめろ! 迂闊うかつに近付くんじゃねぇ!」



 駆け寄ろうとしたブリジットをジェラルドが手で制す。



 魔王軍豪将ヴァルガン。



 俺を殺す張本人・・・・・・・にもう出会っちまうなんて……。




―――――――――――

 あとがき。


 ついに現れたジェラルド殺害イベントの中心。豪将ヴァルガン。


 果たしてジェラルドはヴァルガン相手に生き残れるのか……?

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