第22話 魔導騎士ブリジット

「すごいわ……こんなに魔導騎士が……」


 エオルが感嘆かんたんの声を上げる。扉の奥には広大な空間が広がっており、ブリジットと同じ鎧……魔導騎士達が列を成して安置されていた。


 その数は数百では効かない。数千以上にも登った。


 ロナが一体の魔導騎士を触る。


「動かないね」


「ブリジットと違って他は起動してないみたい。魔法による命令が出されていないのね」


「ここの魔導騎士はいにしえに起こった戦争で使われた物だぜ。終戦後、戦争の悲惨さをいた古代人達がここに封印したんだ。門番のブリジットを除いてな」


「そうなんだ〜さすが師匠!」


「よく知ってるわね。歴史書の中でも相当古い内容よ? 魔法学院レベルの図書館でないと目にすることすらないほどの……」


「う、右眼が……っ!?」


 ジェラルドが大袈裟に眼帯を押さえる。説明を省こうとした彼はいつものように過去・現在・未来を見通せるという右目のスキルの能力……ということにした。


 エオルが諦めたようにため息を吐く。


「はいはい。スキルで見通せるのよね。言ってることは合ってるし、そういうことにしてあげる」


「な、なんだか……あきれられてる気がするぜ……」


 ジェラルドを無視して再び鎧を調べるエオル。


「……ブリジットの頭が無事とはいえこれをそのまま使えるのかしら?」


「さっき他の部位を付ければ助けられるって言ったじゃん!」


「それはそうだけどロナ……この並んでる鎧達、動かせないようになってるのよ。魔法による命令が下されるまで動かせないようになってるみたい」


「なんとか動かせないかな?」


 鎧を引っ張るロナを横目に、ジェラルドは石造りの壁を調べる。



 確か……この辺りに……。



 彼の手がくぼみに触れるとゴゴゴ……という音と共に壁が動く。


「お、やっぱりな。予備部品の保管場所があったぜ!」


「ほ、ホントにどうなってるの……? なんで分かるのよ……?」


 エオルは困惑した。



 ……。



 …。



 3人が小さな部屋に入る。部屋中に魔導騎士達の鎧が転がっており、中央には鎧を組み立てる為の台座のような物が設置されていた。


「ロナはその台座にブリジットの頭を置いて。ジェラルドは部品の設置をお願い」


 エオルが台座に書かれた古代文字を読みながら2人に指示を出していく。


「えぇと……起動の鍵は……この魔法式、と。魔力は……この建物自体が魔素の貯蔵庫になってるのね」


 ブツブツと呟きながら手元の装置を触るエオル。全ての鎧を設置し終えたジェラルドは感心したようにその様子を見ていた。


「何よ?」


「いやぁ? すげぇなと思ってよ。古代文字はスラスラ読んでやがるし、魔導騎士の原理も分かってるみたいだ」


「当然よ。古代魔法は私の専門にしようと思ってたからね。私を誰だと……と、これで良いわ」


 エオルが手元のレバーに手をかける。


「ロナ。こっちに来なさい」


「うぇ? なんで?」


「この2本のレバーを操作すると電撃魔法が放たれるから。感電したいの?」


「ひっ!? ちょ、ちょっと待って!」


 慌てて駆け寄って来るロナ。彼女が台座から離れたのを確認してからエオルが片方のレバーを引く。


 すると、地面から4本の円柱が伸び、尖った先端が台座の上に横たわった鎧に狙いを付けた。


「いい? 2人とも」


「ああ」

「うん。お願いエオル」


 2人の意思を確認したエオルがコクリと頷く。そして、もう一方のレバーを勢いよく倒した。



 円柱から放たれる電撃。


 バリバリという音が周囲へと響く。



 鎧の騎士——ブリジットが激しく痙攣けいれんする。



 十数秒その光景が続き、電撃が止んだ。



「これで……大丈夫……のはず」


 心配そうに見つめるエオルの視線の先で、フルヘルムの奥から黄色い2つの球体が浮かび上がる。


「あ! 目が光った!」


 ロナの声にブリジットがビクリと反応し、起き上がる。


「ん? んんん?」


 周囲の確認を始めるブリジット。騎士は立ち上がり周囲を確認すると、急に慌て始めた。



「なぜジブンはコンディションルームにいるでありますか!?」



 少女のような、少年のような高い声が部屋に響く。


「コン……何だって?」


 ジェラルドが聞き慣れない言葉に戸惑っている間もブリジットは慌てふためいていた。



「門は!? ジブンは侵入者を防ぐことが任務なのに!?」


 ブリジットが部屋中を走り回る。そして、部屋にいた少女にドスンとぶつかる。


「!?」



 ブリジットがゆっくりとロナの顔を見た。



「んん?」


「やあ」


 彼女が軽く手を挙げると、鎧の騎士はその両眼をビカビカと光らせた。



「し、侵入者!? 追い返すであります!!」



 部屋に立てかけてあった大斧を取り、ブリジットがめちゃくちゃに振り回す。


「この子、混乱してるよ!?」


「侵入者! 侵入者! 帰るであります!!」


 斧を構えたブリジットがロナを追いかけ回す。


「助けて〜!!」


「ちょっ!? 待っ——」


 止めようとしたジェラルドに向かって、ブリジットが斧を振り下ろした。ガチンッという金属音が部屋中に響く。


「っぶねぇ!? おい! 話を聞けって……」


「問答無用であります!」



「落ち着きなさい!」



 エオルが先程のレバーを引く。



 円柱から放たれた電撃は、ブリジットの持つ鉄製の斧へ惹かれるように空間を走る。



「アババババババッ!? でありますッ!!」



 放たれた電撃を全身に浴び、ブリジットは沈黙した。




◇◇◇


「つまり……ジブンは何者かに破壊されていて、それを助けてくれたのがエオル殿達ということでありますか?」


「そうよ。貴方は魔王討伐の為に必要な存在なの。だから私達の仲間になりなさい」


「ですが、ジブンは魔導騎士の仲間達を守るという役目が……」


 ゲーム本編ならブリジットはこの遺跡の防衛システムが堅牢けんろうだって理由で旅立つことを決めてたよな。



 だけど既に誰かに侵入された後だとな……。



 ……。



 そうだ。



「お前もさ、ここに侵入したヤツら追い返したいだろ? 俺達が手伝ってやるからさ。とりあえず一緒に侵入者撃退しようぜ」



 そうだよ。協力して侵入者を追い返して、ブリジットに恩を売ればいいんだ。



「協力……で、ありますか?」


「そうだぜ。俺達のパーティのリーダーは困ったヤツを放っておけないんだ。な、ロナ」


 ジェラルドがロナを見る。突然話を振られたロナは驚いた顔をしながら両手を振った。


「リリリリーダー!? ぼ、僕はそんなんじゃ……!?」


「何言ってんだよ? 勇者はお前なんだぜ? 俺達はお前の意志を尊重するぜ」


「まぁ、一応私もロナの勇者パーティ所属になってるし」


「ででででも……」


 エオルにもリーダーであると言われ顔を真っ赤にするロナ。


「自信持てよ。教えたろ?」


「う、うん」


 彼女は顔をブンブンと振るうと真面目な顔でブリジットへと向き直った。



「君が、さ、困ってるなら助けるよ」



「ロナ殿……間違って攻撃してしまったジブンの為に……感動であります!」


 ブリジットの両眼の光がウルウルと揺らぐ。


「だから仲間になってね」


「えぇ!? であります!」


「じゃあ、やめちゃおっかな〜手伝うの〜」


「ま、待つであります! もうちょっと、その、手心てごころを……」


 イタズラっぽい笑みを浮かべたロナは、ブリジットに仲間になるように強引な交渉を持ちかける。


 そのやり取りを見たエオルがため息を吐いた。


「なんだか師匠ジェラルドに似て来たわねあの子……将来が心配だわ」


「え? なんでだよ?」


 首をかしげるジェラルド。そんな彼を見てエオルはもう一度ため息を吐いた。




―――――――――――

 あとがき。


 遺跡内部の侵入者を倒すことになったジェラルド達。


 次回。ある敵・・・が徘徊している事に気付いて……。

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