第21話 古代文字遺跡内部へ

「し、師匠!? ひ、人が……バラバラに……!?」


 ロナがバラバラになった鎧へと駆け寄る。


「ど、どうしよう!? もう助からないの!?」


「待ってロナ。その騎士、何か変じゃない?」


 エオルがガントレットを拾い上げると匂いを嗅ぐ。


「花のような香り。魔力の残り香みたいね……とすればどこかに古代文字が……あったわ」


 エオルがガントレット内部を覗き込む。その様子を見たジェラルドは感心したように呟いた。


「さすが知識はあるな」


「アンタ最初から分かってたでしょ! 早く言いなさいよ! 心臓が止まるかと思ったわ」


「すまねぇ。俺も突然のことだったからさ」


 2人のやり取りにロナが苛立ったように地団駄をむ。


「何を2人して分かったみたいな顔してるの!? 僕にも分かるように教えて!」


 エオルがガントレットの内側を見せる。


「見て。古代文字が書いてあるでしょ? これは魔法なの」


「魔法? 何の?」


「魔導騎士。失われた古代呪文よ」


「ああ。俺が仲間にしようとしてたソイツ……魔導騎士ブリジットだ」


「ブリジット……助かるの?」


 ロナが心配そうにエオルを見つめる。


「うぅん……この頭部が無事だからなんとか……2人とも。散らばった鎧を集めて」


 ジェラルドとロナが鎧をかき集め、その鎧をエオルが念入りに調べていく。


「どうだ?」


「黙って」


 30分ほどかけてエオルが鎧を分けていく。入念に中を覗き込み、無事な物を確認する。


 しかし……。


「頭部以外損傷が激しすぎる。魔力を供給する古代文字が歪んでしまってるわ」


「そんな……!?」


 泣きそうな顔をするロナ。そんな彼女へエオルは微笑みかけた。まるで安心させるように。


「待って。むしろ頭部が無事なのが奇跡よ。魔導騎士は頭部から全身へ魔力を送っているの。まだなんとかできるかもしれないわ。同じ鎧さえあれば」


 エオルが古代遺跡へと視線を送る。


 破られた門。何かが侵入した後を。


「この遺跡はそもそも魔導騎士達が眠っている場所だ。同じ鎧はあるはずだぜ」


 ロナが心配そうにブリジットの頭部を撫でる。


「この子は、生きてるんだよね?」


「厳密には擬似生命体。でも、魔導騎士はちゃんと意識を持って個が確立してるの。私も書物でしか知らないんだけど……」


「ま、ある意味生きてるっつー事だな」


 ロナがブリジットの頭部を抱きしめる。


「助けなきゃ。この子を」


「ロナだったらそう言うと思ったわ」


 エオルが立ち上がり、杖を真っ直ぐ遺跡に向ける。


「ジェラルドも覚悟決まってるわね? 遺跡に入るわよ」


「俺は最初からそのつもりだぜ?」



 だけど、一体誰が……こんな展開は初めてだぜ。いや、ロナと出会ってからずっとか。


 俺も原作知識に自惚うぬぼれてちゃダメだな。



◇◇◇


 古代遺跡の中に入った全員が息を呑む。


 侵入者を迎え撃つであろうトラップは徹底的に破壊されていた。


 ロナがトラップの残骸ざんがいを触る。本来は壁から出現し侵入者を真っ二つにしたであろう長い剣は、いびつな形になっていた。


じ切られたみたい。どんな魔法使ったらこうなるんだろう?」


 ロナが答えを求めるようにエオルを見る。


「こんな魔法あったかしら。ねじる力が発生する魔法なんて……重力系魔法でも難しいだろうし……」


 捻る力、か。


 ジェラルドが考えを巡らそうとした時、背後から音が聞こえた。


「グルルル」


「ん? 何だこの音?」


 振り返ると、そこにはよだれを垂らした小さな竜がジェラルドの後ろに立っていた。


「キュアウッ!」


「うおあああああ!?」


 ジェラルドが咄嗟に飛び退き距離を取る。


「キュルル」


 再び良く見てみると、人間ほどの大きさの竜がジェラルドのことをジッと見つめていた。


「ケルドラコかよ! なんでこんなとこに!」


「何よソイツ?」


「キュ?」


 竜が首つぶらな瞳で首を傾げる。その仕草を見てロナも目を輝かせる。


「ちょ、ちょっと可愛いかも」


「お前ら油断すんなよ。ケルドラコは弱そうに見えるけどよ……」


「ギャウッ!!」


 突然、ケルドラコが大きく口を開き、電撃を吐き出した。ロナとエオルの足元に雷が放射される。


「うわぁ!?」

「……っぶないわね!?」


「無差別に電撃ブレスで攻撃して来るんだよ」


「早く言いなさいよ!?」


「油断すんなって言っただろうが」


「もっと強く言いなさいって!」


「えぇ……」


 なんだそりゃ。まぁいいや。


 奥にボスモンスターがいるかもしれねぇ。できればアイテムやガルスソードは温存しておきてぇな。


「エオルは火炎魔法フレイム。ロナはヤツの電撃ブレスを妨害しろ」


「うん!」

「分かったわ!」


 ロナがヒスイの剣を構える。


「ロナ、新しい技を使ってみろ」


「やってみるよ」


 ロナがケルドラコの周囲を駆け抜ける。小さな竜は少女の速度に翻弄ほんろうされ、ブレスを撃てずにいた。


「ギュゥ?」


「よそ見してんじゃないわよ! 火炎魔法フレイム!!」


「ギャアウッ!?」


 エオルの放った火球がケルドラコに直撃し竜が悶絶もんぜつする。


「今だ! 空舞斬くうぶざん!」


 飛び上がったロナが縦に高速回転し、ケルドラコへと飛び込む。


「ギャギャギャウウウウウ!?」


 回転刃のようになったロナの連続斬撃に、ケルドラコが倒れ込む。やがてケルドラコは経験値の光となってロナとエオルに吸収されていった。


「2人とも良いコンビネーションだったぜ」


「ジェラルドはほとんど戦わないじゃない。たまには手伝ってよ」


 そう。ジェラルドは通常戦闘では一切戦うことは無かった。基本的には「にげる」のスキルを使い戦闘を回避する時のみだった。


 エオルの言葉にジェラルド大袈裟おおげさに肩をすくめる。


「分かってねぇなぁ。弟子達の成長の為に敢えて手を出してねぇんだよ」


 ジェラルドは適当な理由を付けた。


「ま、まぁ? ファントムフェイスとの戦いでアンタがす、すごいのは分かってるけど?」


 ……。


 エオルもなんだかんだでジェラルドに言いくるめられるようになっていた。



◇◇◇


 古代遺跡を進む3人。途中、ジェラルドが裏道を発見し、さらに奥へと侵入する。そこの壁はダメージを受けておらず、未だ侵入者に発見されていないことだけは分かった。


「ねぇねぇ! ここに大きい部屋があるよ!」


 ロナが古代文字の書かれた扉を指す。



 その模様……ゲーム本編で見たことあるな。



「そこが魔導騎士達が安置されてる場所だと思うぜ」


 ジェラルド達は、魔導騎士が安置されている広間へと入った。




―――――――――――

 あとがき。


 遺跡内部には大量の魔導騎士が眠っているという……。


 次回、新たな仲間が目を覚ます。

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