最弱の師匠編エピローグ

第6.5話 夜の平原にて

 ジェラルドとロナは魔導列車に乗る為リムガルの街を出発し、1日が経った。


 食事を終えた後、ジェラルドは用意していたテントを設置をした。


「ロナ。先に中入ってろ」


「はーい」


 ジェラルドがモンスター避けの聖水を周囲に撒く。ロナと旅を初めて2週間あまり。2人での野営も随分慣れていた。


 テントに入ると、装備を外し毛布にくるまったロナが目に入る。


「な、なんか夜になってから急に冷えたね……」


 ガタガタと震えるロナ。ジェラルドは、さりげなくもう一枚の毛布を渡した。


「もうすぐギギン地方も抜ける所だからな。気候も変わって来るだろ」


 ドラゴンメイルを脱ぎ、毛布を被る。隣を見ると、ロナがこちら側を見ていることに気付いた。


「どうした?」


「師匠はさ、1人で旅してたんだよね?」


 ジェラルド・マクシミリアンになってからしばらくはアイツ・・・の所にいたけどな……けど、ロナを迎えに行くのに旅してたのは事実か。 


「まぁな」


「寂しいとか、思わなかったの?」


 寂しい……ねぇ。


「いいや。思わなかったな」


 生き残る方法を考えるのが最優先だったからな。そんなこと考える余裕も無かった。


「すごいね。僕は村のみんなといたのにずっと……」


 最後まで言う前に、ロナがジェラルドの毛布へと入って来た。


「おい。自分の毛布で寝ろって」


「だって寒いもん。こうした方があったかいよ?」


「俺臭えからよ」


 ロナは、何も言わずジェラルドに体を寄せた。


「おい」


「臭くないもん。師匠は良い匂いするもん」


 ……。



 まぁ、長年家族がいなかったんだ。誰かに寄りかかりたくもなるか。



 昨日もずっと俺のこと待ってくれてたしな。


「好きにしろよ」


 ジェラルドがロナに背を向ける。ロナはそんな彼の背中に頬を当てた。


「師匠」


「ん?」


「僕が魔王を倒すまで……ううん。魔王を倒しても一緒にいてくれる?」


「一緒に?」


 俺の死亡イベントさえ乗り越えたら後は用済みなんだけどな。


「まぁ、魔王を倒してからのことは考えておくぜ」


「そうじゃなくて、約束して」


「約束?」


「そう。約束」


「えぇ……?」


「お願い」


 ロナの手が腰に回る。その手が震えているような気がして、ジェラルドは嘘を吐いた。心にも無いことを。


「しゃあねぇな〜分かったよ」


「やった」


 後ろから彼女が笑う声がする。どんな顔をしていいか分からぬまま、ジェラルドは目を閉じた。


 分かった気ではいたが、やっぱ分かんねぇな。ガキの考えることは……。



 ガキ……か。



 俺の場合、いつからだろうな。ガキじゃなくなったのは。


 前の世界でも……なんとなく就職して、躍起やっきになって働いて、いつの間にか何も感じなくなってた。自分の限界が分かって一般人であることになんの疑問も持たなくなっていた。


 ガキの頃は、自分も勇者になれるって思ってたのによ。それこそ、ロナみたいな……。


 ジェラルドが被りを振る。


 いけねぇ。最近どうも考え込んじまう。ロナのせいか?


 自分が生き残ることだけに集中しろ。俺。


 ……。


「明日はいよいよ魔導列車だ。もう寝るぞ」


 しかし、返事が無い。


「ロナ?」


「……スースー」



「寝ちまった……か」




―――――――――――

 あとがき。


 次回は2人が魔導列車に乗る回です。しかしそんな2人へ不穏な影が……。

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