第6話 その男、弟子の元へ帰る。
魔族の尖兵との戦いから数時間後。
——リムガルの街。
ジェラルドが街に入る頃にはすっかり暗くなっていた。
ロナを探して街の中を進んで行くと、中央広場、銅像の近くに彼女が座っているのが見えた。
悲しげな表情を浮かべる彼女。ジェラルドが声をかけるか迷っていると、彼に気付いたロナが全力で駆け寄って来た。
「師匠!!」
「お、おい! 抱き付くなよ!」
「だって……ひぐっ……心配だったんだもん! アイツ物凄く強そうだったから……」
「大丈夫だって言ったろ? 俺のがずっと強いからってよ」
「う、うん……」
ジェラルドはここまでロナが自分を心配していたことに驚いた。
「師匠が僕を連れ出したんだからね? 1人にしない、で……」
涙でぐしゃぐしゃになった顔でロナが彼を見つめる。
あぁ、そういうことか。ロナの奴、ずっと1人だったから……か。
情を持つなよ。こんなガキ、目的を達成したら用済みだろ?
自分の中で負の声が聞こえる。
だが……。
泣きじゃくるロナを見て、ジェラルドは声を振り払った。
ここで突き放すのは大人のやることじゃねぇな。
「すまん」
そう言うと、ジェラルドはロナの肩に手を置いた。
「次はお前の力をもっと頼るようにするぜ」
「うん」
「だからもっと修行しねぇとな」
「うぇぇ!?」
「当たり前だっての。俺の背中を守ってくれるんだろ?」
「そうだけどぉ」
ロナが子供っぽく頬を膨らませる。それを見てジェラルドは少し安心した。
「今日は遅えから宿に行こうぜ」
◇◇◇
宿は1部屋しか空いておらず、2人は同じ部屋で寝ることになった。
ジェラルドが早々に奥のベッドで横になる。
「俺はもう疲れた。先に寝るぜ」
「お、おやすみ師匠」
ジェラルドは寝たふりをしてロナへ背を向ける。
しばらく物音が聞こえていたが、やがてスースーという彼女の寝息が聞こえ始めた。
サイクロプスを1人で倒したんだ。ロナも疲れただろうな。
反対に、ジェラルドは眠ることができない。昼間の戦闘が頭をよぎる。
ロナを起こさないように部屋を出たジェラルド。彼は宿屋のバルコニーへと出ると、夜の街を見下ろす。高台の宿屋からはリムガルの街が一望できた。
……。
あの尖兵。本来なら出現するのはストーリー中盤以降だ。こんな序盤に現れるなんてな……。
やっぱ、俺が本編に干渉しちまったからとしか思えねぇ。
このままいけば、俺の死亡イベントは想像よりも早く来ちまうかもしれない。いや、来るだろうな。俺には分かる。
ジェラルドは眼帯の上から右目をなぞった。
この右目も結局無くしちまったしな。
ジェラルド・マクシミリアンの設定通りに。
彼がジェラルドとなってすぐの頃。彼の右目はまだ無事だった。
過去、彼が見たロスト・クエストの設定資料集にはこう記されていた「ジェラルドは暗殺者に狙われたことがあり、右目を失っている」と。
転生して最初の年、彼はその運命を
しかしダメだった。結局暗殺者は現れ、右目を失うことになった。それほどまでに、ジェラルドを縛り付ける運命は
よっぽどこの世界は俺のことを死なせてえみたいだな。
そうはいくか。俺の死にはまだ回避ルートがある。俺を殺す魔王軍豪将——ヴァルガンのレベルさえ超えれば、まだ。
俺は絶対に……。
……まてよ。
運命がそれほど強固なら、
……。
どうせ俺には後がねぇ、できることはなんでもやってやる。
◇◇◇
翌日。
ジェラルド達は武器ショップの亭主へアリアの花を渡し、ロナの新たなマントを購入。亭主の
「これから王都エメラルダスに向かうぜ」
「お、王都!? そんな都会に何しに行くの?」
「王都魔法学院って知ってるか? そこに用があるんだよ」
魔法学院にいる女魔法士。本編で仲間になるあの女を仲間にしないとな。
「魔法の学校? 初めて聞くなぁ」
ロナは不思議そうに首を傾げた。
「魔法学院知らねぇって……あの村長の野郎、ちゃんと教育してやれよ」
「みんな知ってることなの?」
「う〜ん流石に常識だよなぁ」
「じゃあ師匠が教えてよ」
ロナがジェラルドの手を取る。
「修行だけじゃなくてさ、もっと色々教えて欲しいな」
恥ずかしそうに笑うロナの顔。
ジェラルドを一切疑うことなく信頼する瞳。
それを見てジェラルドは肩をすくめた。
「しゃあねぇ。ロナが立派な大人になれるよう教えてやるよ」
「やった!」
「じゃ、まずは移動手段について学ぶか」
「移動手段? 徒歩じゃなくて?」
ジェラルドはニヤリと笑った。
「驚くなよ〜王都に行く為にな、
ジェラルドの中で少しだけ、ロナに対する感情が変わった気がした。
―――――――――――
あとがき。
次は閑話となります。ロナが甘えて来る回です。本日2話更新です。次話は20:03分頃更新致します。お楽しみに。
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