魔導列車編

第7話 師匠と弟子、魔導列車に乗る。

 ジェラルドとロナは街を出発してから2日かけて魔導鉄道「ギギン地方駅」へと辿り着いた。


「これが、魔導列車……!?」


「それは列車じゃねぇ。駅だって教えたろ」


「あ、これが駅か〜!」


 ロナは恥ずかしそうに笑った。


 ロナのやつ、天然すぎるぞ。マジであの村のヤツら何も教えて無かったんだな。


 ジェラルドは駅員からチケットを購入し、列車の時間を待った。


 列車は1日に数本。次の列車は昼頃だったので、ジェラルドは駅のアイテムショップでアイテムを買い込んだ。


 攻撃魔法スクロールに毒薬、各種ステータス上昇ポーション。それと、けむり玉数個を。


「師匠。そんなに沢山のアイテムどこにしまっておくの?」


「この鎧だぜ」


 ジェラルドがドラゴンメイルを触ると鎧の各所がカパっと開いた。


「ドラゴンの骨は加工しやすいらしくてな、アイテムを仕込む空間を職人に作って貰った。それと荷重補助魔法も符呪ふじゅして貰ってる。動きを阻害しないんだぜ」


「あ! だから師匠足が速い・・・・んだね!」


 ロナが目を輝かせる。


「へ……? あぁそうだぜ! なんつっても俺は素早さ高すぎるからよぉ。いや〜強すぎると困るぜ! ちょっとの重量でも邪魔くさくてしょうがねぇからな〜」


 もちろん嘘である。


 ジェラルドはまだロナに自分がレベル10固定であることを告げていなかった。それとスキル「にげる」しか無いことも。



 ま、まぁロナが完全に強くなるまではな。おれが強いと思わせる方が修行しやすいからな。



「やっぱり師匠はすごいな〜!」


 尊敬の眼差しで見つめるロナに、ジェラルドは余計に言い出しづらくなった。



◇◇◇


 列車が到着し、1号車に2人は乗り込んだ。4人がけのボックス席が並んだ構造をロナが興味津々で見て回る。


 乗客は1人客や家族が数組み。走り回っていた子どもがロナへとぶつかり、慌てた母親がロナへと謝っていた。


 ロナは笑顔で2人を見送り、少しだけ切ない表情で呟いた。


「お客さん少ないね。満席かと思ってた」


「こんな長期離鉄道に乗るのは役人の関係者か金持ちだけだな。チケット代も高いしな」


「そう言えば師匠のお金はどこから出てるの?」


「まぁ、元貴族だからな」


 悪徳貴族だけどな。


「そうなんだ! なんで戦士になったの?」


「……ロナ。戦士はな。自分が戦う理由をベラベラ喋るもんじゃねぇんだよ。そういう美学が大事なんだ」


 ジェラルドはうやむやにする為、それっぽいことを言った。


「師匠カッコいい……!」


 ロナが瞳を輝かせる。想定外の反応でジェラルドは内心狼狽うろたえた。


「こ、こっちだぜ」


 車両の中央の席にジェラルドが座った。それに続きロナもソワソワしながら向かいの座席に座る。


 


 しばらくすると、魔導列車から甲高い音が聞こえる。列車の導力路へ燃料の魔素が投入された音だった。


 ゆっくりと列車が加速して行く。



「ねぇ師匠。王都まではどれくらい乗るの?」


「ここからだと5時間ってとこか」


「結構乗るんだね。楽しそう!」


「ほぼ景色は草原だけどな。あ、でもデカいみずうみは見えるか」


「ホント!? 僕、湖って初めて! 楽しみ〜!」


「あ、おい! 危ねぇぞ!」


 開いていた窓を覗き込もうとするのをジェラルドが止める。


「ふふ」


 隣の席から笑い方が聞こえる。ジェラルド達が振り返ると、そこにはローブを着た若い男が座っていた。


 ん? なんかこの男、見覚えが……サブクエストのキャラか?


 ……。


 思い出せねぇ。まぁ、いいか。


「すまん。うるさかったか?」


「いや、気にしませんよ。にぎやかな2人だなと思いまして」


 はしゃいでいた姿を見られていたと知り、ロナが顔を真っ赤にして丸くなる。


「お2人はどこまで乗られるのですか?」


「王都までだ」


「そうですか。初めての魔導列車はいかがですか?」


 男がロナへと顔を向ける。


「うぅ……恥ずかしい」


 ロナはよほど先程の姿が恥ずかしかったのかブツブツと何かを呟きながら丸くなっていた。


 男の目が一瞬だけ鋭くなる。だが、ジェラルドがそれに気付く前には元の笑顔へと戻っていた。


「だ、そうだ。はしゃぎすぎたみてぇだな」


「ですね。どうです? 王都到着まで時間があります。暇つぶしにお話でも」


「悪りぃがあんまり馴れ合う気は……」


「どうせ今日だけの仲。気にする必要もないと思いますが?」


「まぁそうだな。じゃ、アンタの自己紹介と旅の目的、行く先でも教えて貰おうか」


 ジェラルドは会話のボールを相手へぶん投げた。


「はは。まるで尋問ですね」


 男はそう言うと、ジェラルド達の向かいへと座った。整った顔に青い瞳。装備したローブから魔法職のように見えた。


「私はレウス・ゴルディア。見ての通り魔導士ウィザードです。珍しい魔法を集め、各国に売ることで暮らしています」


「ふぅん。商人みたいなもんか。どこに行こうとしてるんだ?」


「ブレードラ地方へ」


「ブレードラぁ? 砂漠しか無い地方じゃねぇか」


「そういう場所こそ珍しい魔法が隠されているものです。古代の魔法使いは強力な物ほど後世へ伝えるのを避けましたから」


 黙って聞いていたロナが急に口を開いた。


「でもそれって危ない魔法なんですよね? そんなの他の国に売ったりしたら……」


 レウスの笑顔が消える。「その質問はウンザリだ」とでも言いたげに彼はため息を吐いた。


戦争・・に使われるでしょうね」


 一瞬にして和やかな空気が消える。


「そんなこと!」


 立ちあがろうとしたロナをジェラルドが止める。


「やめとけ。この男を追求する証拠がねぇし、俺達にそんな義理もねぇ」


「でも! この人のせいで死ぬ人がいるかもしれないんだよ!」


「私も売る相手くらい選んでいますから。それに、強力な武器は盾となることもあるのですよ? お子様には分からないとは思いますが」


「それだけ強力な魔法を持ってたら魔王を倒してくれたらいいのに……」


「魔王デスタロウズは人の身で討つことはできません。存在する次元が違うのです。私程度では無理ですよ」


「ん?」


 ジェラルドの中で疑問が浮かぶ。


「何か?」


「いや、お前……」


 ジェラルドが問いかけようとした直後。



 轟音が響き渡った。



「な、何っ!?」



 それとほぼ同時に列車が急停車する。



 ジェラルドが咄嗟とっさにロナを抱き寄せ、かばうように座席の下へと入れる。揺れが収まると、再び列車が動き出した。


「地震か?」


 ジェラルドが車両を覗き込んだ時、レウスが人差し指を立て、静かにするようにジェスチャーを送った。


(モンスターの襲撃のようです。前方にコボルトが数匹見えます)


(マジかよ。護衛兵は何やってんだ)



 ジェラルドが座席から前方を覗き込む。



「ギャギャッ!!」


 彼の目に映ったのは、今にも車両に突撃しようとするコボルトだった。



 こんなの本編にねぇぞ……。




―――――――――――

 あとがき。


 コボルト達に襲撃された魔導列車。ジェラルド達は無事に降りられるのか? そんな中ロナが……。次話もどうぞお見逃し無く。

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