第8話 決戦、魔導列車
「ギャギャギャッ!!」
「っぶねぇっ!」
ジェラルドが車両を繋ぐ扉を閉める。窓越しに激突したコボルトが悶絶する姿が見えた。
「
レウスが魔法を放つ。氷の
コボルト達はガンガンと扉を開けようとしたが、開かないと分かると諦めて別の車両へと向かって行った。
「今の内に脱出するぞ。レウス。
「使えます」
「よし! それで着地の衝撃は殺せるな。早く……」
「待ってよ」
ロナがジェラルドの手を掴む。
「どうした? 風魔法があれば怪我はしねぇ。心配することないぞ」
「そうじゃなくて……他の人達はどうなるの? 他の車両にも人が乗ってたよね?」
レウスがため息を吐いた。
「お嬢さん。状況が分かっていますか? 狭い車両の中で君の剣は役に立ちません。壁や座席に阻害され、できた隙をコボルトに狙われる」
「で、でも……! 他の人が傷付いてもいいの!? 小さい子もいたんだよ!」
「我らまで道連れになると言っているのです。無謀と勇気は違いますよ」
「ぼ、僕は……」
悔しそうに剣を握りしめるロナ。それを見たジェラルドがしゃがみ込んだ。
「ロナ。俺の考えもレウスと同じだ。魔法でヤツらを倒そうとしても他の客まで巻き添えになる。それでもやりたいのか?」
「うっ……」
「俺の目を見ろ。『それでも助けたいのか』と聞いてんだ」
ロナが真っ直ぐジェラルドの眼を見つめる。その瞳は涙で潤んでいた。しかし、そこには確かに彼女の意思が込められている……。
そう、ジェラルドは感じた。
「助けたい。例え
「……」
突然ジェラルドが黙り込む。そして、ブツブツと独り言を言い始めた。
「……後方車両への誘導と統率者の撃破が必要か。1番危険な役は……やっぱ俺が適任だよなぁ」
「……師匠?」
彼女の呼びかけにジェラルドは少年のような笑みを浮かべた。
「しゃあねぇなぁ。さすが勇者様だぜ」
ジェラルドが意見を変えたことにレウスは目を見開いた。
「馬鹿なんですか? 貴方まで子供の
「悪りぃなレウス。俺はバカなんだ」
ジェラルドがゆっくりと立ち上がり、ロナの肩を叩く。
「ロナには家族がいない。だから目の前で他人の
「自分が死んだら意味がないでしょう」
「死なねぇよ。レウス。お前が協力してくれたらな」
……。
…。
——数分後。
「やっぱりな。統率者コボルトキングは
列車の屋根を偵察していたジェラルドが、窓から車内へと戻って来る。
「いいか? 説明した通りだ。ロナは列車上部からコボルトキングの撃破。レウスは列車側面を伝い最後尾へ向かえ」
「私が側面を伝って移動できる根拠は?」
「
「はぁ……良くお分かりで」
レウスが窓を飛び出し、魔法を使用する。すると、彼は列車側面にフワリと降り立った。
大地に対して真横に立つ異様な光景にロナは体を震わせた。
「すごい……!?」
「貴方にも
ロナの体が紫の光に包まれる。
「これで列車から振り落とされることはありません。せいぜいがんばって下さい」
そう言うと、レウスは最後尾へと駆け出して行った。
「妙にロナに攻撃的なヤツだぜ」
ジェラルドがロナへと向き直る。
「いいかロナ。今は命張る時だ。俺も、お前も」
「うん」
「忘れんな。お前は強い。絶対に負けやしない」
「ありがとう。師匠」
そう言うとロナはジェラルドへギュッと抱きついた。
「おい! まぁいいや……死ぬなよロナ」
コクリと頷くとロナは窓から
彼女を見送ったジェラルドが素早さ上昇ポーションを一気に飲み干す。
そして。
懐から強い花の香りを発する袋を取り出した。モンスターを寄せ付ける袋を。
「うぇ……滅多に使わねぇからこの匂い忘れちまってたぜ」
その袋で体を叩き、香りを全身へと移していく。
「これでよし。俺も行くぜ」
全ての準備を整え、ジェラルドは車両を移動した。
◇◇◇
「オラァ!!」
「ギャアッ!?」
ジェラルドがコボルトを蹴り飛ばす。
「乗客は前方の車両に逃げろ!」
「だ、だがアンタは……?」
「俺に構うな! 早く行け!」
2両目にいたコボルト達が鼻を引くつかせ、ジェラルドへと視線へと向ける。
「うわぁ〜この狭い車両ん中で突っ込まなきゃいけないのか……よ!!」
これも一種の『逃走』だよなぁ! スキルちゃんよぉ!!
座席を踏み台にコボルトの頭部に飛び乗るジェラルド。それに呼応するかのように彼のスキル「にげる」が発動する。
急激に加速したジェラルドがコボルト達の頭を飛び移っていく。
そして、着地と同時に次の車両へと転がり込んだ。
「食らえ!」
ジェラルドが床にけむり玉を投げ付ける。床に当たると同時に大量の煙が噴き上がる。煙幕によって塞がれた視界の中、コボルト達は嗅覚を頼りにジェラルドの跡を追う。
駆け抜けながら乗客達に声をかけていく。座席に隠れた乗客達はコボルト達が通り過ぎた後前方車両へと逃げて行った。
「よっしゃ!」
そしてジェラルドは次の車両へ。
車両を移動する旅に彼を追いかけるコボルトが増えていく。
「ギャルル!!」
「うぉっ!?」
前方の座席からコボルトが飛びかかった。
「うおあああああああ!!」
「ははっ! 馬鹿なモンスター共だな!」
「ギ……ギギ……ギギャギャアアアアア!」
「あ、やべ」
怒り狂ったコボルト達が再びジェラルドを追った。
数両に渡る逃走を繰り返し、ジェラルドが車両を移り最後尾へと辿り着く。幸い最後尾の車両には乗客は乗っていなかった。
「うおおおおおお!!」
ジェラルドが最後尾の窓を突き破り外へと飛び出す。
目の前に高速で流れていく線路が映る。
「ひえぇ!? 落ちる!」
「
レウスの声が聞こえ、空中のジェラルドが列車側面に着地した。
「はぁ……信じてたぜレウス」
「さっき会ったばかりでよくそんな台詞が出ますね」
レウスが車両連結部へと走る。
数秒後、コボルト達がジェラルドの後を追い車両へと突撃した。
「ギギッ!?」
溢れるほどのコボルトが一両へ集まり、モンスター達は身動きが取れなくなる。
全てのコボルトが乗り込んだのを確認した後、レウスは扉を閉めた。
「
一瞬にして凍結する扉。その中ではコボルト達が必死に脱出を試みていた。
「おし。車両を切り離すぞ」
ジェラルドがレバーを勢いよく引き、最後尾車を切り離す。
「これで終わりです」
レウスが切り離された車両へと手を伸ばす。
魔力が彼の周りを渦巻き、その髪を、ローブを揺らす。
「
レウスの呪文と共に猛烈な勢いの竜巻が発生する。
「ギャギャッ!?」
「ギャイイギィ!!」
「ギャアアアア!」
巨大になった竜巻がコボルト達の乗った車両を空へと放り投げた。
「すげえ。中級魔法でこの威力かよ」
「魔法を集める者ですからね」
轟音と共に大地へと車両が叩き付けられる。
ひしゃげた車両が、中のコボルト達が無事ではない事を告げていた。
―――――――――――
あとがき。
次話はロナ戦闘回となります。ジェラルド達が車内コボルト達を引き付けている間、ロナは単独でボス、コボルトキングに挑みます。
果たしてロナは……?
どうぞお楽しみに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます