第14話 その女、未来の大魔導士
「クソ……クソッ!! なんで……」
エオルが泣きながら大地を叩く。
そんな彼女に、ジェラルドがゆっくりと近づいて行く。
「やめてよ!! 来ないで!!」
エオルが転がっていた石を投げ付ける。彼はそれを気にもかけずエオルを見た。
「リノアスは使えない魔法を必死になって学んだ。お前は自分の実力を知られることを恐れて閉じこもった。その1年。それが今の結果だぜ」
「そ、そんなの!! ……聞きたくないわ」
「今、どんな気分だよ?」
「……クソみたいな気分よ!」
彼のその
彼女は泣き腫らした顔でなおもジェラルドを睨み付けた。
「まぁ、それなら大丈夫そうだな」
そう言うと、ジェラルドは背を向ける。
「お前のそのクソみたいな気分、晴らす方法教えてやろうか?」
「……なによ?」
「俺達と来い。教師には俺から言っておいてやる」
「待ちなさいよ! どういうこと!?」
「ガキじゃねぇんだから自分で考えやがれ。
ジェラルドはそれだけ言うと、ロナを連れてその場を後にした。
◇◇◇
——王都魔法学院。
陽が高くなった頃。エオルは学院に戻っていた。泣き腫らした顔で校内を歩く彼女。その姿を見た生徒達は皆一様に振り返る。しかし、彼女が発する拒絶の雰囲気に誰もが声をかけられなかった。
そんな中。
「え、エオル……?」
オドオドした様子のリノアスが引き留める。
「……何? 笑いに来たの?」
「大丈夫かなと思って……その、泣いてたみたいだから……」
「……っ!?」
エオルが怒りの表情でリノアスに掴みかかる。
「よくもそんなこと言えるわね!」
「ごめん! わ、私の魔法だとエオルの試験にならなかったよね……? でも、その、私……何とかエオルの役に立ちたくて」
その言葉にエオルが目を見開く。
「……なぜ魔法を使えなかったアナタが
「え? え、と……私、エオルみたいになりたくて……子供の頃からエオルはすごいでしょ?」
リノアスにエオルの実力を疑う様子は無い。彼女はただ純粋にエオルの力になりたかったのだと、エオルは分かってしまった。
「魔法の勉強も人一倍がんばってて……」
やめてよ。
私には才能なんてないんだ。
リノアスは恥ずかしいそうに
「子供の頃、火の魔法を見せてくれたことあったでしょ?。私、あれを見た時決めたの。エオルみたいになりたいって……」
火の魔法しか、使えなかったんだよ……。
「子供なのにもう初級魔法をつかえて、すごかった」
どれだけ頑張っても……どれだけ勉強しても、初級しか、使えなかった。
だから、実力を見せないようにして、閉じこもって、自分が天才だと言い張った。人にそう言った時だけ、私は本当にそうなった気がしたから。
だから、そんなこと、言わないで。
私はただの凡人なんだ。
「もし、エオルの試験に足りないならもっと私頑張るから! だから、その、私にはエオルの悩みは分からないかもしれないけど……」
「ねぇ」
「な、何?」
「なんで私のこと、そんなに思ってくれるの?」
「だ、だって……」
リノアスは言い淀んだ後、エオルの目を真っ直ぐ見つめて微笑んだ。
「エオルは私の
「……」
エオルが彼女から目を逸らす。
「え、エオル?」
「私眠いの。部屋に戻るわ」
「あ……ごめんね。呼び止めて」
「ううん。ありがと。それと……試験も」
エオルは
◇◇◇
エオルとの決闘から3日。
ジェラルド達は王都周辺の草原でモンスター狩りをしていた。
「キュオオオッ!!」
「よっと!」
「キュオッ!?」
ヒスイの剣を斬り上げモスビートのクチバシを空へと切り飛ばすロナ。モスビートは反撃しようと鋭い6本の脚でロナへ掴みかかる。
「キュウウオ!!」
「無駄だよ!」
彼女は、モスビートの胴体踏み台に飛び上がり、大きな羽へと技を放つ。
「エアスラッシュ!!」
彼女の斬撃が音速を超える。剣先から巻き起こる風の斬撃がモスビートの羽を真っ二つに切り裂いた。
それは勇者ロナがレベル28で覚える技。列車での戦い……そして王都周辺での修行を行った彼女は、さらなる成長を遂げていた。
「ギュオオ……ッ!」
羽を切断されたモスビートは絶叫しながら光となった。
「いい感じだな」
ジェラルドが水筒を投げる。
「ありがとう師匠」
受け止めた水筒をロナは少しだけ口を付けた。
「今の個体。戦ってどうだった?」
「うーん。あんまり強く感じないかな。動きも単調だし慣れちゃった」
ロナがモスビートを倒したのはこれで50匹目。彼女は既に、王都周辺のモンスター達のレベルを超えていた。
それはサイクロプスの
彼女が強くなるには数をこなすしか道はない。それを感じていたジェラルドは、3日間モンスター狩りをロナへと課した。
ここらのモンスターじゃもう成長には足りねぇな。
「ねぇ。エオルさんホントに来るかな」
ジェラルドは近くにあった岩へドカリと座る。
「来るぜ。アイツはプライドが高い。あのままでは終われねぇはずだ」
「師匠はさ、なんでエオルさんと戦ったの? 正直……イジメみたいで見てて辛かったよ」
「自分の理想と現実の差。それから目を背けてるヤツにはさ、現実を叩き付けるしかねぇんだ。どれだけ拒絶しようがそれが本来の自分。天才という幻想にすがっても先に進めねえ」
そう。受け入れるしかねぇんだ。例え弱くてもな。
右目を失った時の俺みたいに。
「エオルさんのこと、師匠はどう思ってるの?」
「アイツは大魔導士になる。俺には分かる」
「師匠の未来を見る力?」
「そうだ」
勇者と共に魔王を倒す。それがあの女の成し遂げることだ。
恐らく、原作本来のエオル・ルラールは何かが原因で火炎魔法しか使えないことを他の奴に知られたんだろうな。それで実力を思い知らされ謙虚になる。
だが、俺がこの世界に入り込んでしまったことで何かがズレた。エオルが実力を知られる機会が無くなってしまった。それが今のエオルの真実……俺が決闘に誘った時のあの態度。アレで俺の予想は確信に変わった。
……。
だが、アイツの実力は間違いねぇ。
「エオルは気付いて無かったようだが、あの数の魔法を放てる魔力量。あれは並の使い手じゃねぇさ」
「今の言葉……ウソじゃないわよね!?」
振り返るといつの間にか旅の支度を整えたエオルが立っていた。
「エオルさん!? 本当に来た!」
エオルが顔を背け髪を払う。草原をそよぐ風に
「私はね。あれぐらいで潰れる器じゃないわ」
エオルがその手の杖をジェラルド達へと向ける。
「アンタ達を認めて上げる! 決闘に負けた者として、
「おう。歓迎するぜ」
驚いた様子の無いジェラルドにエオルが肩を落とす。
「な、なんだか読まれてたみたいで悔しいわね……」
「まぁいいじゃねぇか。そんだけエオルに期待してるってことだ」
「ま、まぁいいわ! しっかり
エオルが笑みを浮かべる。
それは、先日のような己を強く見せようとする顔ではなかった。
泣き腫らした後に、少し疲れた表情。
しかし、彼女は。
楽しそうに笑っていた。
―――――――――――
あとがき。
無事にエオルが仲間になりました。次回は3人で初めてのクエストに挑戦します!
少しでも楽しんでいただけた方は☆や作品フォローを入れて頂けると、とてもとても励みになります! どうぞよろしくお願いします。
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