第13話 決闘 天才魔導士
——魔法学院の東側、エオルの住む寮。
ジェラルドはロナをリノアスへと預け、1人でエオルの部屋へ戻った。
「またアナタ? 女性が住む部屋に1人で来るなんてデリカシーが無さすぎない?」
「まぁ聞けよ。俺はさ、アンタに決闘を申し込みに来たんだよ」
「はぁ? 決闘?」
「そうだ。知ってるぜ。アンタ実技試験受けねぇと留年しちまうんだろ?」
「……そんなのアナタには関係ないでしょ?」
「いいや関係あるね。アンタに朗報を持って来てやったぜ」
「なによ?」
「俺との決闘をな、実技試験にして貰えることになった」
「ふざけないで。そんなこと通るはずないでしょ。名門の魔法学院で」
「いいや通るね。なぜならアンタは
本当は王家の
ジェラルドは、王家に貰った文書を最大限活用していた。その威光と勇者パーティの名を持って、伝統ある魔法学院の教師達を説き伏せたのだ。
しかし、ジェラルドはそれよりも彼女が特別である事を強調し、その尊大な自尊心をくすぐった。
入学時の実技免除の事を思い起こしたのか、エオルの顔が
「ま、まぁ?
なんか評価のレベルが上がってねぇか?
……まぁいい。こっからだ。
「それでこっからが本題だ。俺とアンタが戦う。それを俺の弟子であるロナが判定する。その結果を教師へ伝えて試験は終了だ。俺達以外
その発言に、エオルの眉がピクリと動く。
「学院の人は誰もいない?」
「ああ。場所は王都の外。ハーレの
「確かに……そこまで離れているなら、見に来る人もいないわね」
「だろ? 俺と決闘してくれよ。俺達が勝ったらアンタはパーティに入る。アンタは決闘自体が試験代わりになる。悪い話じゃねぇはずだ」
「まだ納得してないわよ。私にとって有利すぎる気が……」
ここだな。
ジェラルドはエオルにまばたきが増えたのを見逃さなかった。
そして、彼女のためらいを取り払うように演技じみた素振りで笑ってみせた。
「あ〜分かっちまったぜ」
彼女を馬鹿にするような笑み。彼女を挑発する為の言葉を並べていく。
「色々言ってるけどよぉ。アンタ本当は怖えんだろ?」
「……は?」
「だってそうだろ。俺達はアンタの力を買ってパーティへ誘った。しかもアンタのピンチまで救うようにお膳立てまでしてやった。その上で断るってか? 飛んだ天才魔導士様もいたもんだよなぁ?」
「はぁ!?」
エオルの顔がみるみる怒りの形相へと変化していく。
「あーあ残念だぜ! 天才魔導士様が
「雑魚……っ? わ、わわわわ私のことを雑魚って言った? アンタ魔法も使えない分際でよくも!!」
「待った!」
怒り心頭のエオルをジェラルドが手で制す。
「この続きは決闘で白黒付けようぜ。アンタが負けたら俺達の言うことを聞く。いいな?」
「やってやるわよ! 私が勝ったら身ぐるみ
「よし。それじゃ、夜明け前にハーレの湖に来いよ!」
◇◇◇
翌日。
——ハーレの
「師匠。来たよ」
夜明けが近づく中、ローブに包まれたエオル・ルラールが現れた。
「良く逃げなかったわね」
「逃げるかよ」
エオルの表情からはハッキリと怒りの感情が読み取れた。
あんだけバカにしたんだ。プライド高いエオルはそら怒ってるわな。
だけどよ。それはお前が
「それじゃあ後悔させてあげるわ!!」
エオルが杖を構えると、彼女の周りを熱気が包み込む。
「ロナ。離れてろ。今からエオルの正体を見せてやる」
「正体……?」
「世の中にはな。
「
エオルが叫ぶと同時に炎の球体が射出される。周囲の草木を焼き尽くしながら、火球がジェラルドに迫る——。
「甘いな!」
ジェラルドのガントレットが開き、
「
「
開かれる古代文字の描かれた紙。その文字が
周囲に熱気を放ちながら2つの火球が衝突し、対消滅する。
「なんで……」
手を震わせるエオル。彼女は炎が消滅した1点を見つめていた。
「ロナ。今の魔法。そこから見てどう思った?」
「え? 師匠の
ロナが言った瞬間。
「コロスッ!!!」
エオルが
「やっぱりな! つーか思ってたよりよっぽど
ジェラルドが回避率上昇ポーションを一気に飲み干す。
ジェラルドの眼前へと火球が迫った時、回避率上昇ポーションの効果——青い光が彼の体を包む。
「当たるかよ!」
放たれた火球を避け、エオルへと駆け出す。
「何をごちゃごちゃと!
「火の
再び火炎魔法が衝突し、跡形もなく消え去る。
「きゃあ!?」
衝突の熱気で思わず目を閉じるエオル。再び構えた彼女の首筋にはジェラルドのガルスソードが突き付けられていた。
「う……っ!?」
「アンタ。
エオルの表情が固まる。
「そ、そんなはず、ないでしょ……?」
「じゃあ他の魔法使ってみろよ?」
「……」
エオルは唇を噛み締めた。
「アンタが俺の誘いに乗った時に確信した。誰もいないという条件に俺が魔法を使えないこと。それを聞いてしめたと思ったんだろ? 俺になら低級の
「どういうこと師匠?」
「コイツはな。天才なんかじゃねぇ。座学だけの頭でっかち。実技も実戦もこなさず知識だけで尊大に振る舞ってたんだ!」
「黙れ……」
「初めはそれで良かったんだよ。でもそのうち怖くなった。『
「黙れぇ!!」
「だから魔法を使わなくなった。実力さえ見せなければ自分のことを『天才だと思える』からな。プライドに操られた
「うるさいうるさいうるさい!!」
エオルが
「ば……っ!? こんな至近距離で使うんじゃねえ!?」
咄嗟にジェラルドが飛び退き、紙一重の所で火球を避けた。
「死ね!!」
エオルが間髪入れず再び火球を放つ。
「うおおおお!! あっぶねぇだろうが!!」
走るジェラルドへ向け、エオルが火球を撃ち続ける。
「私のことを分かった風なことを言うな!! ルラール家を背負う気持ちが分かるか!? それなのに初級魔法しか使えないなんて……天才なんだ! 私は天才だ! 天才じゃなきゃいけない!」
「
冷たいジェラルドの声にエオルが雄叫びを上げる。
「うああああああああああ!!」
瞬間。
エオルの周囲に先程とは比べ物にならない魔力が集まる。周囲にチリチリと火の粉が舞い、彼女の髪が逆立った。
「殺してやる!!!」
やっと全力で魔法を放つ気になったか。
ジェラルドが
「リノアスに最大魔力を込めて貰った
ジェラルドが
「
エオルの杖から火球が放たれる。それはジェラルドを飲み込むほどの大きさ。エオルが放った全力の一撃。
それが今、ジェラルドを飲み込もうと——。
「現実を教えてやるぜ!!」
「エオル見ろ!! これはお前の幼馴染、リノアスの最大魔法だ!!」
ジェラルドが、火の
ジェラルドを飲み込もうとしていた火球が、スクロールから放たれた
「り、リノアスの……魔法……?」
「ああそうだ! 魔法が使えなかったリノアスの魔法だ!」
リノアスの火球。それが、エオルの
飲み込まれていく。
「あ……あ……私の、魔法……」
エオルが全力を尽くした魔法が。
「やめて……やめてよ……」
そして……。
その全てが、リノアスの
「ウソ……よ」
力無く崩れ落ちるエオル。
「そんな……こんなのって……」
彼女の魔法を飲み込んだリノアスの魔法。それは、エオルの目前で嘘のように掻き消えた。
「エオルさん……」
決闘を見ていたロナにとって、消えていく火球は、エオルのプライドを表しているように見えた。
―――――――――――
あとがき。
プライドをへし折られたエオル。次回。そんなエオルにジェラルドは……?
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