第12話 師匠と弟子、天才と出会う

「それで? 天才・・の私に何のよう?」


 エオルは「天才」を強調して言った。


「おう。俺達はお前を仲間に……」


「待って」


 突然、ロナがジェラルドの言葉を遮った。


「この人なんだか胡散臭うさんくさいよ。自分で『天才』なんて言う人見たことないもん」



 ロナは、自分がジェラルドのことを無条件に信じているのをすっかり忘れ去っていた。



「ちゃんと天才かどうか力を見せて」


「帰って」


「な、なんで……?」


「あのねお嬢さん。私は突然貴方達に押しかけられた。そんな状態で『仲間に入れて貰いたいので力を見せま〜す♡』なんてお馬鹿さんはいるかしら?」


「で、でも」


「筋が通る説明できるの? できるわよね? そうでなければ逆接の「でも」なんて使わないわよね。意味無く使ったのなら救いようの無い馬鹿・・ねアナタ」 


「う、うぅ〜!! この人嫌い!」


 エオルの言葉に涙目になったロナはジェラルドの後ろに隠れた。


 不味いな。このままだとエオルは仲間にできねぇ。かと言ってエオルの力が分からないまま仲間にするのはロナが納得しないだろうしなぁ……。


「すまん。弟子の非礼は俺が詫びるぜ」


「アナタも大概非礼だけどね」


 コイツ。


 まぁいい……大人になれ、俺。


 ジェラルドは爽やかな笑みを浮かべた。


「俺達はアンタの噂を聞いてスカウトに来たんだ。魔王討伐のよ」


「はぁ? 魔王討伐? 何で?」


「このロナが魔王を倒す勇者だからだ。ここに王室の書面もある」


 ジェラルドが魔法学院へ入る為に見せた書面を差し出す。


「えぇと? この者達は魔導列車を救いし者達。その力を認め、魔王討伐の任を……勇者として……本当ね。それじゃあアナタ達本物の勇者パーティなの?」


 エオルが不思議そうに2人を見た。


「だろ? だから俺達の仲間になってくれ。


「ふ、ふぅん……その勇者パーティに天才である私が選ばれたというのなら納得だわ」


 エオルの顔が笑みを帯びていく。


 その様子を見て、ロナがジェラルドのすそを引いた。彼は「まかせとけ」とでも言いたげな様子でニヤリと笑うと、さらにエオルへと続けた。


「そう。だからさ、ちょ〜と俺達にも力見せてくれないか? テストとかじゃなくてさ、噂の天才魔導士・・・・・エオル・ルラールの力をこの目で見たい訳よ」



 彼がそう言った瞬間。



 エオルが笑みを消した。



「そう。ならこの話は無かったことにしてちょうだい」


 バンッという音と共に扉が閉まる。



「えぇ……?」



 ジェラルドは困惑した。



◇◇◇


 学院に戻ったジェラルドとロナは、構内のベンチに座り込んだ。


 廊下を行き交う生徒達を見ながら、ジェラルドは先程の一件を思い出す。


 なんだよアイツ。こっちが下手に出てたら調子に乗りやがって。本編ゲームと全然違うじゃねぇか。


 アイツを仲間にしねぇとまたイベントが近付いちまう。今度は尖兵どころか、俺を殺す「豪将ヴァルガン」が現れるかもしれねぇ。



 何か手を考えないとな……。



「ごめんなさい」


 ロナを見ると、思い詰めたような表情で丸まっていた。


「ん? 何でロナが謝るんだ?」


「だって、僕があの人のこと信用しなかったから師匠にそんな顔させちゃったし……」


「ロナが謝ることじゃねぇ。単に俺の問題だからよ。それに、説明してなかった俺が悪い」


「でも」


 ロナのヤツ、妙に暗いな。


「それじゃあよ。何でエオルを仲間にするのが嫌だったのか教えてくれよ」


「え」


 ロナが恥ずかしそうに言いよどむ。その様子を見てジェラルドは首を傾げた。


「……から」


「んん? なんて言った?」


「あの人がパーティになったら……師匠と今みたいにいられないと思って……」


 今みたいに?


 心配そうに目を潤ませるロナ。


 なるほどな。今みたいに・・・・・……か。やっぱりまだ子供だな。


  何かを察したようにジェラルドは彼女の頭に手を置いた。


「心配すんな。誰が仲間になろうとロナが俺の弟子なのは変わらねぇよ。弟子のことほっぽり出すなんて師匠失格だからな」


「ホント?」


「俺が今まで嘘ついたことあるか?」




 ありまくりである。




 だが、その上で平然とこんな台詞を言えるのがこの男なのであった。



 しかし。



「ううん。無い。師匠は強くて優しくて……いつも僕に色々教えてくれる」


 この娘、純粋すぎた。すぐ信じてしまうのである。この男の話だけは。


 その太陽のような純粋さはジェラルドには直視できないものであった。


「どうしたの?」


「いや。何でもねぇ。それじゃあ方法を探しに行くか」


「うん!」




◇◇◇


 その後、ジェラルド達が学院の中で聞き込みした結果。ある1人の生徒へと辿り着いた。



 エオル・ルラールの幼馴染、リノアス・フランドである。



 聞き込みの最中ジェラルドが思い出したのだ。ゲーム本編にエオルの幼馴染がいた事を。



 本編にはほぼ関わらないキャラだが、もしかしたら今のエオルのヒントを持ってるかもしれねぇ。


 そう考え、リノアスへと接触したジェラルド。彼はリノアスと話をする中である事が気になった。


「アンタ以外、エオルが魔法を使う所を見たことがない?」


 リノアスが頷く。


「エオルは『ルラール家の者はみだりに魔法を見せてはいけない』と言っていました」


「いや、でも流石に学院ではあるんだろ? 使ったことが」


「入学試験では実技試験を免除されてました。筆記試験がトップだからって」


 ジェラルドが腕を組んだ。


「リノアスさんは見たんだよね。エオルさんの魔法」


 リノアスが微かに笑みを浮かべる。


「エオルの魔法はすごいの。幼い頃にはもう初級の火炎魔法フレイムが使えていて……私は、あの日エオルの魔法を見たから学院に入る事を決めたの」


 そう言うと、リノアスが呪文を唱える。彼女の手に小さな炎魔法フレイムが巻き起こった。


「この学院に入学して1年。魔法が使えなかった私は、とにかく必死で勉強しました。本当はエオルに見て貰いたいのだけど、エオルは部屋に閉じこもってしまってて……」


「エオルさんのこと、尊敬してるんだね」


「あの子の話を聞くだけで分かるよ。エオルは偉大な魔法使いになるって。だから、私も少しでも近付きたくて」


「リノアスさんすごいよ。だってずっと頑張ってたんでしょ?」


「わ、私なんてとても。それより今はね、エオルのことが心配なの。あの子、実技テストに抗議してて……このままいくと留年しちゃうかもしれないの。もうずっと部屋と図書館の往復しかしてなくて……」


「なんでだろ?」


 2人は、エオルが実技テストを受けない理由を話し合ってはうなっていた。



 そんな様子を見ながらジェラルドは思考する。



 見せない実力。


 豊富な知識。


 実技テストへの抗議……か。



 ……。



「なるほどな。そういうことか」



 リノアスとロナが不思議そうな顔で彼を見た。


「エオルの実力を確認して、ついでにパーティに入れる方法も思い付いたぜ」


 ジェラルドがリノアラへと向き直る。


「この学院には魔法の巻物スクロールの製造室があったよな?」


「よくご存知ですね。巻物スクロールに魔力を込める場所があります」


「リノアスさんよ。アンタの魔法の力、貸してくれねぇか? 巻物スクロールに魔法を込めて欲しい」


「師匠、何するの?」


「プライド高えヤツはな。挑発してやりゃいい。エオルに決闘を挑むのさ・・・・・・・


 ジェラルドがニヤリと笑う。


「まずは教師を説得しねぇとな。またコイツの出番だぜ」


 ジェラルドが懐から書面を取り出す。


 そこに刻まれた王室の紋章が、キラリと光った。




―――――――――――

 あとがき。


 次回、何かを思い付いたジェラルドはエオルにある提案を……?

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