第11話 師匠と弟子、魔法学院へ行く

 ——王都エメラルダス。



 王宮から出たジェラルドは肩を落とした。


「はぁ……疲れたぜ……」


 まさかあれから延々と王の長話を聞くことになるなんてよ……。


「王様から褒められちゃったね。『其方ならば魔王も倒せるかもしれぬ』なんてぇ……」


 ため息を吐くジェラルドとは対象的に、ロナは先ほどから顔が緩んでいた。


 魔導列車を救ったロナは王から勇者の称号を受けることになった。魔王討伐の任と共に。



 ゲーム本編と若干違うけどな。


 だが、まぁ……。


 チラリとロナを見るジェラルド。


「えへへ……」


 これはこれで。だな。



 嬉しそうに顔を緩める少女を見るのは、彼にとって悪くない気分だった。


「良かったな。これで名実共に勇者様だぜ」


「うん。がんばる!」




 王都を歩く2人。やがて中心部へとやって来ると、店先の賑やかな声が聞こえて来た。


「すごい! 野菜も果物も見たことないものばっかり!」


「そりゃあこの辺りの盟主の街だからな。なんでも良い物が集まるさ」


 長期滞在になるからと先に宿屋に向かうジェラルド。キョロキョロと辺りを見回していたロナは彼の手を取った。


「おい! 手を繋ごうとすんなって!」


「なんで? 迷子になったら大変だよ?」


 不思議そうな顔で見つめるロナ。


「大変だよって……お前……」


 これじゃあ師匠と弟子ってよりガキのおりだぜ……。



 近頃のロナはやたらとスキンシップが多くなっている。



 疑問に思うジェラルドだが、どうしても突き放すことはできなかった。



 まぁ、いいか。どうせ異世界だ。手繋いだくらいで捕まりゃしないだろ。



 その後、宿屋で滞在手続きをした2人は王都魔法学院へと向かった。



◇◇◇


「入校許可証をお見せ下さい」


「ほらよ。全施設・・・立入許可証・・・・・だぜ」


「おおお王室の紋章!? し、失礼致しました!!」


 慌てて門番が引き下がる。


「貰っといて良かったぜこの文書」


 文書を懐にしまいながらジェラルドは呟いた。それは、王都内の如何いかなる建造物へも自由に出入りすることのできる許可証。


 魔導列車を救った褒美の代わりにジェラルドが希望した物だった。


「そういえば、王様宝箱くれようとしてたのによく断ったよね」


「どうせ中身は200ゴールドと鉄の剣だ。そんな物よりよっぽど役に立つぜ」


「なんで中身が分かるの?」


 ジェラルドは演技じみた仕草で眼帯を押さえた。炎の紋章の描かれた眼帯を。


「実は隠していたんだがな。この眼帯の中の瞳は、過去現在未来を見通すことができるのさ。俺はそういうスキルを持って生まれたんだ……」


 ジェラルドは適当なことを言った。


 原作ロスト・クエストの話なんてしても分かんねぇだろうしな。


 ま〜はぐらかされたと思って「なんとなく言いたくないことがあるんだ」と察してくれるだろ。ガキでもそれくらいは……。



「……!? すごい!」



「え」



 ロナの瞳の輝きが増していく。


「だから僕が勇者になるって分かったんだね!」


「ん……? そうだぜ!! 流石俺の弟子だ! 鋭い勘をしてやがる!」



 ジェラルドは合わせることにした。



「すごいなぁ〜やっぱり師匠は伝説の戦士だったんだぁ……!」


 尊敬の眼差しで見つめるロナ。ジェラルドは想定以上の反応に内心戸惑っていた。


「よ、よし! そんなことより中へ入ろうぜ!」


 ジェラルド達は魔法学院校舎へと足を踏み入れた。


 王都魔法学院はこの地に平穏を気付いた初代エメラルダス王が設立した研究施設。


 石造りの城のような建物では様々な年齢の生徒達が魔法について学んでいた。


 講義を受ける者、研究に没頭する者、実技に勤しむ者。



 そんな中、ジェラルドは1つの違和感を感じた。



 ……いないぞ。



 仲間になるはずの女魔導士……「エオル・ルラール」がどこにもいない。



 エオル・ルラール。



 若干22歳にして勇者の仲間となり魔王討伐を成し遂げる天才魔導士ウィザード


 ゲーム本編における彼女は腰が低く、他者を尊重しつつも自身も努力を忘れない。いくら周囲から持てはやされようが決しておごらない性格である。


 そんな彼女が講義の時間に魔法学院にいないというのは信じがたい光景だった。


 ジェラルド達は教員を尋ね、エオルの居場所を聞いた。


「エオル・ルラール? あ〜あの子はねぇ……」


 言いよどむ教員。ジェラルドの頭に疑問符が浮かぶ。


「なんだ? エオルがどうかしたのか?」


「まぁ……会えば分かるわ。あの子なら東の寮にいるから」




◇◇◇


 行き交う生徒たちへと尋ねながら東の学院寮へと向かう。


「師匠。そのエオルさんに用があるの?」


「ん? 言ってなかったか。エオルはな。お前の仲間になる魔導士だぜ。ゲーム本編……いや、俺の未来視スキルがそう告げてる」


 ジェラルドが先程の設定を交えながら告げると、ロナは若干不満気な顔をした。


「どうした?」


「別にぃ」


 ロナの反応を不思議に思ったジェラルドだったが、聞こうか迷っているうちにエオルの部屋へと到着してしまった。


「お、ここだぜ」


 ロナを横目にジェラルドが扉をノックする。


 しかし。返事が無い。


「あれ? ここにいるって言ってたよな」


 確認するように何度もノックする。


「出て来ね〜なぁ。エオル〜! エオル・ルラール〜!!」



「うっさいわね!!」



 ノックに耐えかねたように女性が飛び出して来た。両サイドを縦に巻いた金髪に、緑の瞳。紺のローブをまとった女性が。



「ん? あれ? お前がエオル?」



 なんかイメージと違うぞ? もっとエオルっておしとやかで謙虚けんきょそうな……。


「そうよ。名門ルラール家の生まれにして魔法学院を主席で入学した魔法の天才・・。選ばれし者。エオル・ルラールとは私のことよ!」



 エオルは胸に手を当てふんぞり返った。



 その姿は、ゲーム本編の彼女とは全く正反対なものであった。




―――――――――――

 あとがき。


 なんだか原作と違うエオル。なぜそんなに自信満々なのか?


 次回、女魔導士エオルの秘密を探ります。そしてジェラルドが何かを……お楽しみに!

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