幽霊屋敷編

第15話 勇者パーティ幽霊屋敷へ

 ジェラルド達が王都を旅立って数日が経った。


「そろそろ暗くなって来たな。ロナ。野営の準備するぞ。まき拾って来な」


「うん!」


 ロナが林に走って行くと、ジェラルドは懐からビンを取り出す。けがれをはらい魔物避けとして使えるアイテム。聖水・・を地面へと流し、周辺を囲んだ。


「はぁ。昨日までは何とか村の宿屋に泊まれてたのに……」


「仕方ねぇだろこの先は村ねぇんだから」


 エオルはため息を吐きながら倒れた木に座った。


「お前も働けって」


「分かったわよぉ」


 渋々エオルが立ち上がる。集められた木の枝に火炎魔法フレイムを放とうと杖を向けた。


「ちょっと待て」


「何よジェラルド」


最小威力・・・・火炎魔法フレイム使ってくれ」


「何で?」


「できねぇのか?」


「できるに決まってるでしょ!」


 文句を言いながらもエオルが魔力のコントロールを始める。


「最小……最小……」


 エオルの杖に小さな火球が現れる。彼女が杖を向けると、その火が集められた枝へと向かっていく。


 しかし、直前で集中力が切れたのか、小さな火球は弾けて飛んでしまった。


「あ……」


 悲しげな顔をするエオル。そんな彼女を横目にジェラルドは枝を指差した。


「見ろよ。ちゃんと枝に火が付いてる。火種にはピッタリだぜ? やるじゃねぇか」 

 

「ふ、ふん! 狙ってやったのよ! 私を誰だと思ってるの?」


 その割に顔が赤いな……。


「まぁいいや、そこにエナジーキャロットと干し肉があるからよ。包丁でエナジーキャロット切ってくれ」


「はいはい……ん?」


 エオルがハルシの粉が入った袋を持ち上げる。


「この粉……パンの材料でしょ? 何に使うのよ?」


「あると便利だぜ。シチューも作れるしな。粉末ってのは色々使い道があるもんだ」


 戦闘にも使えるしな。


「ふぅん」


「さてと」


 ジェラルドが懐から小さな球体を取り出す。それを一度揉むと、手の中で反発力が生まれる。


 球体を地面へと投げると、古代文字の刻まれたテント一式が現れた。


「へぇ。圧縮魔法式のテントなんて良く持ってるわね」


「流石に詳しいな。座学トップなだけあるぜ」


「他にも回復魔法の巻物スクロールも皮袋に入ってたし、そんな高い物どうやって手に入れたの?」


「貴族達のオークションでちょっとな」


「貴族ぅ? なんで貴族のオークションにアンタが?」


「俺は元貴族だぜ」


「はい嘘。そんな高貴なご身分には見えないわ」


 コイツ……!?


 まぁいい。大人になれ俺。


 その後、色々と聞かれながら、ジェラルドはテントを組み上げた。




 火が暮れる頃にはロナも戻り、3人で焚き火を囲む。


「ねぇ師匠。向かってる場所ってなんて名前だっけ?」


「ドーケスの館だ」


 ジェラルド達が向かっている先。「ドーケスの館」。エオルを連れて行く際に魔法学院から頼まれた依頼。それがドーケスの館に囚われた人々を助け出すことだった。


 魔法学院のリノアスには借りもあるしな。多少魔法学院側の頼みも聞いてやらねぇと。


 それに……。


 ジェラルドがチラリとエオルを見る。


 魔法の実戦経験には打って付けのクエストだしな。


「ドーケスの館にはどんなモンスターがいるのよ?」


「ゴーストタイプのモンスター『ファントムトーカー』。物や生物に取り憑いて姿を隠し、意識を奪った人間を操るんだ」


「何で操ったりするの?」


 ロナの質問にジェラルドは昔見たロスト・クエストの設定資料集を思い出す。


「確か人の魂を喰らう目的だったはずだ。操った後ゆっくり食うんだと」


「そんなの……許せない」


 ロナがヒスイの剣を握りしめる。


「冷静になりなさいよロナ。ゆっくり魂を食べるってことは命に関わるまで時間があるってことなのよ?」


「う、うん」


「乗り込んで無茶するのだけは勘弁して欲しいわね。私達が死んだら誰も助けられないじゃない」


「た、確かに……気を付けるよ」


 ふぅん。エオルのヤツ口調はあれだが以外に冷静だな。


「何よ?」


「いや、何でもねぇ」


 流石ゲーム本編のパーティメンバー。良いコンビになるな、これは。



 2人を見ながらジェラルドは少しだけ安堵した。


 ロナを迎えに行くまでずっと1人で運命へと立ち向かって来た。ロナを迎えてからは彼女を導く役割に努めていた。


 そんな中、ロナも少しずつ頼れる存在となり、新たな仲間エオルも荒削りながら可能性を見せてくれる。


 ジェラルドは、その時初めて己が1人では無いのだと実感した。




 しかし。



 この後すぐジェラルドは思い直すことになる。



 それはテントで就寝する時に起こった。



「嫌よ! 何でジェラルドと一緒のテントで寝なきゃいけないわけ!?」


「はぁ!? 何ワガママ言ってんの!? 僕だってエオルを一緒のテントに入れたくないし! それを我慢して言ってんのに!」


「ちょ、ちょっと待ちなさいロナ。アンタもしかしてジェラルドと一緒に寝てるの?」


「……? そうだよ?」


「はぁ……信じられない。アンタ、自分がレディだっていう自覚あるの?」


「それが何? 何で一緒に寝ちゃいけないの?」


「いや、だって……ジェラルドが急に……」


「急に何? 恥ずかしがってないでちゃんと言いなよ」


「い、言える訳ないでしょ!? とにかく! 私は一緒に寝るなんて嫌だから!」


 マジかよ。何で俺そんなに信用無いんだよ……ま、まぁ確かに現実世界ならそうだけどよ。ここ異世界だぜ? 俺達冒険者だぜ? テント1つしかねぇ状況でそんなこと言うか……?


「ジェラルド。アンタ外で寝なさいよ」


「えぇ……俺が折れるしかねぇの……?」


「ダメ!! 師匠はそんなことしなくて良いの! エオルが外で寝てよ!!」


「嫌よ!! 大体ジェラルドは何でその状況受け入れてんのよ!」


「え? だってまだロナは子供だぜ? 俺も変な気を起こしたりしねぇよ」


「はぁ……アンタも中々イカれてるわねぇ……」



 え、俺っておかしいのか?



「師匠のこと馬鹿にするな!!」


 その問答は深夜まで続き、結局ロナを挟む形で3人は寝ることになった。




―――――――――――

 あとがき。


 ドーケスの館はどのような場所なのか……次回戦闘回です!

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