第3話 その男、装備を整える。


 君は自分に自信を持てる? 


 あ、ごめん。名前を言ってなかったよね。


 僕はシンノ村のロナ。


 そこの眼帯の人の弟子なんだ。とはいっても昨日弟子になったばかりなんだけど。


 僕の話ちょっとだけ聞いてくれる? すぐ終わるから。


 僕はね。小さい頃から1人だったんだ。村の前で泣いてた所を村長さんが連れて帰ったんだって。本当のお父さんとお母さんはどこにいるか知らない。


 それで、僕は村のみんなの言うことを聞きながら生きてた。シンノ村でずっと過ごすと思ってたんだけど……。


 昨日師匠が迎えに来たんだ。


 僕は勇者で、魔王を倒す運命を背負っているんだって。


 正直な所……そう聞いて嬉しかった。


 だって僕の生きてる意味があるってことでしょ?


 世界中の人の為に魔王を倒せば、みんな僕のことを好きになってくれるかも。


 それに……ジェラルドさん、ううん師匠がね。


 凄かったんだ。村のおじさん達に囲まれても堂々としてて、剣も抜かずにみんなに勝っちゃった。


 僕もあんな風になりたい。自分に自信を持てるように。師匠が言ってたみたいに自分を信じたい・・・・・・・


 ごめんね。君にこんな話しても分からないよね。



 ……。



 …。



「おーいロナ。なんで犬なんかに話しかけてんだよ?」


 目の前の犬は何も言わず、ロナのことを見つめていた。


「ごめん師匠。自分の気持ちを整理したくて」


「そうか。ま、そういうのも大事かもな」


 ジェラルドはロナの頭に手を乗せると、少年のような笑みを浮かべた。


「お前の装備と必要な物を買いに行くぜ。それが終わったら修行の開始だ!」


「うん!」



◇◇◇


 ギギン村を出たジェラルドとロナは近場に位置するリムガルの街で装備を整えていた。


「えぇと……僕、そんな良い装備は……」


 ロナが差し出された装備に狼狽うろたえる。それはこの店で最高の品だった。


「この後の修行の為にはこれくらいの装備必要だっての。効率重視でいこうぜ」


「え、でも修行ってもっと地味なものなんじゃ……」


「確かに地道な修行は必要だ。だがな、やらなくて良いことはやらなくて良い。やらなくて良いことを無理にやるのは努力じゃねぇ。徒労って言うんだよ」


 ジェラルドはそう言いながらロナへ剣を差し出す。それはエメラルド色の刀身をしたショートソードだった。


「持ってみな」


 ロナがエメラルド色の剣を手に取る。


「軽いね」


「だろ? それなら今の背丈のロナでも扱える。ヒスイの剣って言うんだ」


「で、でも高そうで……僕にはちょっと」


「気にすんな! この時の為に金用意してきたんだからよ」


「え?」


「いや、なんでもねぇ」


 咳払いをしてジェラルドは彼女の頭をガシッと掴んだ。


「使いこなせよ〜」


「う、うん!」


 ロナは少しだけ顔を赤くし、ヒスイの剣を抱きしめる。


 その後、2人はロナの防具を選んだ。


 動きやすさを重視した軽量防具……それにマントを。


「マントなんているの?」


「バッカお前! 勇者がマント無しでどうすんだよ! 勇者ってのはなぁ。憧れを背負うもんなんだぜ! マントはその象徴で……」


「えぇ……」


 熱心に勇者論を語るジェラルド。その様子にロナは戸惑った。


「まいどあり! お会計はこちらッスよ〜!」


 にこやかに笑う店主を見てジェラルドはニヤリと笑う。


「ロナ。入り口の所で待ってな」


 ロナが離れるのを確認すると、ジェラルドは話を切り出した。


「いやぁ〜あの装備、気に入ったんだけどちょ〜と高いんだよねぇ。もうちょい値段なんとかならない?」


「はぁ? ダメに決まってるでしょ。払うもんはちゃんと払って欲しいっス。全部で1500ゴールド」


「おいおい。あの子は未来の勇者だぜ? 魔王を討伐したらこの店の株も上がる。先行投資だと思ってよ。負けてくれよ。500ゴールドに」


「500!? 3分の1じゃないっスか! ダメダメ! それにあの子が勇者なんて戯言たわごと信じられる訳ないッス!」


 ジェラルドは待ってましたとばかりに身を乗り出した。


「俺の眼帯を見ろ。なんでこれが付いてると思う?」


「え? 怪我したからでしょ?」


「違う。俺はな。この右目で・・・・・過去・・現在と・・・未来が見える・・・・・・んだよ。そういうスキルを持って生まれた。だから確信を持って言えるんだ。あの子が魔王を倒すってよ」


 もちろん嘘である。


「ちょっと何言ってるか分かんないッスね」


 しかし、ジェラルドには秘策があった。


「アンタ。アイテムショップのリタのこと好きなんだろ?」


「ななななななななんで知ってるッスか!?」


 そう。ジェラルドの持つ原作知識である。彼は知っている。この店の店主のサブクエストでリタとの恋を成就させる方法を。


「言ったろ。俺は未来が見えるって。アンタの未来はな〜」


「ど、どうなるッスか!? オイラとリタは!?」


 ジェラルドは大袈裟な身振りで右目の眼帯を押さえた。


「んん!? 見える。見えるぞ! アンタの未来はまだ確定していない! 2つの道がある。失恋するか、リタと結ばれるか。その鍵になるのは……アリアの花だと見える!」


「あ、アリアの花!? サイクロプスの縄張りに生える花じゃないっスか!?」


「そう。アリアの花をリタは求めてる。亡くなったお袋さんが好きだった花だからな。それを墓に手向けたいと思ってるのさ」



 ジェラルドの話は全て原作のクエストでの話である。


 しかし、そんなことを知らない亭主は食い入るような目で彼の話を聞いた。


「それを持って行けばあの子のハートはアンタのもんさ」


「そんな……オイラじゃサイクロプスの住む山から生きて戻れないッスよ……」


 ジェラルドは人の良さそうな笑みを浮かべると店主の肩を叩く。


「そこで俺達の出番だ。アンタの店の装備があればサイクロプスを倒せる。アリアの花は俺達が取って来てやろう。アンタの恋は成就する。どうだ? まだ500ゴールドを安すぎると思うか?」


「そ、それは確かにそれだったらいいですけど……そんなすぐ信じられる訳が……」


「じゃ、俺達は装備を置いて帰る。リタのことは自分でなんとかするんだな」


「わ、分かったッス! 500ゴールドでいいッス! その代わり! 絶対に約束守って下さいよ!」



◇◇◇


 亭主を丸め込んだジェラルド達は次にリタのいるアイテムショップへと向かい大量のアイテムを買い込んだ。


「師匠。そんなにアイテム買ってどうするの? 薬草だけじゃなくて魔法の巻物スクロールとかもあるし……ど、毒薬まで」


「お、良く巻物スクロールのこと知ってるな。これには呪文が仕込まれてる。魔法職のいない俺達には便利なもんさ」


「そんなお金どこから……」


「どこからだろうな〜」


 ジェラルドが元貴族だからである。彼が持っていた領地や家財を全て売り払って得た資金であった。


 その金を彼は惜しみなくアイテムや装備へ注ぎ込んでいた。



 死んだら全部無駄になっちまうからな〜。



 それがジェラルドという男の金銭感覚であった。



「準備は整った。サイクロプス退治に行くぞ」



 サイクロプスの棲家すみか「ラブル山」。あそこはレベル上げには最適な場所だ。一気にロナのレベル上げができるな。


 ジェラルド達は、目的地へと向かった。



 サイクロプスの棲家、ラブル山へ。




―――――――――――

 あとがき。


 次回サイクロプス討伐クエスト回です。


 そして……その次の第5話・・・をぜひお見逃しなく!

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