第4話 その娘、最強の勇者となる者
ジェラルド達が街を出発してから1週間。
——ラブル山
岩肌の見える山の
「やぁっ!!」
「プギュッ!?」
ロナが
「はぁっ……はぁ……これで……30匹……」
スライムのいた場所から光が溢れ、ロナへと吸い込まれていく。ロナの体が
「これ……また光った。何の意味があるの?」
鎧のメンテナンスをしていたジェラルド。彼はガントレットに施された
「モンスターの生命エネルギーを自分の物にしてんだよ」
この世界の住人にはそのように説明される。ゲームにおいてのレベルアップという現象が。
「つまり強い生命エネルギーを持つ敵を倒せばその分だけ強くなれるってことだ」
「強く?」
「今のロナなら技が使えるはずだぜ。剣に意識を集中させてみせろ。技の名前も、動きも、全てが自然に発動するはずだ」
この世界の武術本読みまくってたらそういう記述があったしな。
ジェラルドは、己が使えぬ技や魔法の技術を学んでいた。それも彼が計画実行に2年を
「……」
ロナが間を閉じ、ヒスイの剣を構える。すると、彼女の体が淡い光に包まれる。
「ほら、あそこにもレッドスライムがいるぜ仕留めてみな」
ジェラルドが指した先には先ほどよりも大型のスライムが
「クロスラッシュ!」
技名と共に剣先が十字を描く。
「プギュッ!?」
放たれた十字の斬撃がレッドスライムへと直撃し、その体は4つに切断された。
「す、すごい! 一撃で倒せた!」
「だろ?」
余裕ぶったジェラルドだったが、内心ロナの成長速度に驚いていた。
あのサイズを一撃でかよ。想定より、めちゃくちゃ強えじゃねぇか。嬉しい誤算だけど複雑だよなぁ。
これは……もう俺のレベル抜かれてるな。
やっぱり違うんだな。
「師匠? どうしたの?」
「いやいや! ロナの筋が良いから驚いてただけだぜ」
まだ言わない方がいいな。確か……相当ショック受けるはずだから。
「そんな……エヘヘ」
ロナは照れ臭そうに頭を
「でも、何でこの山のスライムは赤いんだろう。村の近くのは青かったのに」
「この山のスライムは普通のヤツと違って経験値が多いんだ」
「経験値?」
「さっきの生命エネルギーのことだぜ」
この山に到着してから1週間。ロナはひたすらスライム狩りをした。本来このラブル山は序盤には来れない場所。なぜなら敵のレベルが高すぎるから。ジェラルドはその差を装備品の性能で補った。
そのスライム達の大量の経験値により、ロナはこの1週間で尋常ならざる速度で成長していた。
彼女のレベルは現時点で18。剣技「クロスラッシュ」を
「そういえば、師匠は何で戦わないの? ここに来るまでもほとんど逃げてたし」
「意味がねぇからだ」
「意味?」
「言ったろ? やらなくて良いことは徒労って言うんだってよ。俺は強くなりすぎた。だからこれ以上戦っても無駄なんだ」
もちろん嘘である。
ジェラルドのレベルは10。これは
「そろそろ頃合いだな。行くか。サイクロプス狩りに」
2人で山へと入ろうとした時、ロナが立ち止まった。
「あれ?」
「どうした?」
「今何か視線を感じたような……」
視線? サイクロプスの縄張りもっと先のはずだ。
「ごめん師匠。気のせいかも」
被りを振ったロナは真っ直ぐラブル山を見上げた。
◇◇◇
ラブル山を登り洞窟を抜けると、そこはクレーターのような地形に森が広がっていた。
「すごい! 山の中に森がある」
「
「サイクロプスってどんなヤツなの?」
「1つ目の巨人みたいなモンスターだぜ」
「きょ、巨人!?」
ロナが驚いたのと同時に、森の中から1つ目の頭が現れる。木々の合間から見える巨大な頭部は、サイクロプスの巨大さを表していた。
「あんなの倒せっこないよ!」
「大丈夫だ。この1週間でお前は強くなった。勝てる」
「師匠は一緒に戦ってくれないの?」
「それじゃあロナの修行にならないだろ」
「うえぇ……勝てる気しないよぉ」
ダメだな。気持ちで負けてやがる。
うーん。
あ、そうだ。
あの話を出してみるか。普通のヤツならビビっちまうだろうが、俺の知ってるゲーム内での勇者ロナなら……。
「ここのサイクロプスはな。ラブル山を通る行商人を襲うんだ」
「え?」
ロナの雰囲気が変わる。先程までのオドオドした雰囲気は一瞬にして消えていた。
「それって……殺されたり、するの?」
「そうだ」
「家族がいた人も?」
「いただろうな」
「……」
ロナの瞳にボワリと赤い光が宿る。
これは……怒ったな。
ロナが迷いを断ち切るようにヒスイの剣をにぎる。
その瞳は決意に満ちた物となっていた。
「……僕、やるよ。僕みたいに親がいなくなる人がいたら嫌だから……ここで、止める」
それを見てジェラルドは笑った。
「さすが勇者だぜ。なら、お前に1つアドバイスをやる」
ジェラルドがロナへと視線を合わせ、自身の左目を指差した。
「サイクロプスは見た通り目が弱点だ。どんなことをしてもいい。ヤツの目に技を放て」
「わかった」
「よし。行け」
ジェラルドの指示と共にロナがサイクロプスへと走り出す。
小柄な勇者が疾風のように森を駆け抜けた。
「はぁっ!!」
すれ違い様にロナが巨人へと剣撃を放つ。
「グオオオオっ!!」
ロナへ気付いたサイクロプスがその巨大な拳を大地へと叩きつける。
「そんな大振りなんて!」
マントを
「はあああああっ!!」
彼女の体とヒスイの剣先が淡い光を灯す。
「クロスラッシュ!!」
ヒスイの刃が十字を描く。その斬撃がサイクロプスの眼球へ傷を刻み——。
「浅かった!?」
眼球へとつけられた傷は、巨人の視界を完全に奪うには威力が弱かった。それは、彼女の中に初の巨人戦での恐怖があったから。
その隙を突いて巨人が右拳を放つ。
「くっ!?」
「ロナぁ!! マントを忘れるな!」
「……っ!?」
ジェラルドの声で彼女は
「グルアアアアアア!!」
巨人の拳がロナの体に叩きつけられ、彼女を後方へと吹き飛ばす。
華奢な体が木々の間を飛んでいく。
しかし。
彼女は無事だった。咄嗟の判断で使用したマント。それに
空中で回転し、ふわりと大地へと着地する。
「マント……視界……」
ブツブツと何かを呟きながら再びロナが巨人へ飛び込む。
「はあああああああ!!」
再び彼女をスキルの光が包む。
「グオオオオ!!」
なぎ払うように振るわれた巨大な腕を飛んで避け、彼女がサイクロプスへとそのマントを投げ付ける。
「グオオ!?」
マントが空中を舞い、巨人の視界を奪う。
「グアア!!」
巨人がマントを払う。
次の瞬間。
巨人が見たのは、
「クロスラッシュ!!」
斬撃が先程の傷口を再び貫く。それは、巨人へ致命傷を与えるには十分すぎる一撃だった。
「ギャアアアアアアア!!」
天を仰いだサイクロプスから大量の光が溢れ出す。そして、数秒もしないうちにその肉体は完全に消滅してしまった。
「や、やったあああ〜!」
ロナが地面へとへたり込む。
「おう」
ロナの視界にはジェラルドが映っていた。
「やったよ師匠。でもマント投げちゃった……せっかく買って貰ったのに」
「いや上出来だ。道具は使ってこそだからな」
ジェラルドに褒められ、彼女の顔が少しだけ赤くなる。
「はは……ちょっと力が……立てないや」
力を使い果たし、緊張の糸が切れたロナは立ち上がることができないようだった。
「しゃあねぇな〜」
ジェラルドがロナを起こそうと手を伸ばした時。
「
声の主を探すジェラルド達。その声の主は木の上に
コウモリのような翼に漆黒の体。顔は無く、赤い光だけが2つ頭に灯った存在が。
「な、何アイツ……!?」
「……魔族だ」
「魔族って……魔王の手下の?」
それは本来この地に現れることのない魔王の
ジェラルドが思考を巡らせる。
……まずいな。こんな展開は無かったはずだ。
もしかして俺が本編に干渉しちまったから現れたのか?
「魔王様へ
魔王の尖兵はその翼を広げた。
―――――――――――
あとがき。
突如現れた魔王の尖兵。2人はどうなってしまうのか?
次回より本領発揮です!どうぞお見逃しなく!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます