4:爽(ソウ)⁉︎

 とは言え、留守電を聞いてしまったからには折り返さなければ義理が立たない。

仕方なしに俺は姐さんの番号にリダイヤルをかけた。

数度呼び出し音が鳴った末に、受話されるプツッという微かな音がした。

「もし、もし? 賢木原爽さかきばらさやかさんのお電話で間違いないですよね?」俺は確かめるように呼び掛けた。

『あぁん? 誰かと思えば夏也ナツヤか? 確かに俺は賢木原姓だけど、"爽"って誰だよ?』

「姐さ……、君の名前だよ!」

「あー、お前寝ぼけてんな? 俺と静垣シズガキさんとを間違えるとは、相当じゃねぇか。……にしても、俺の名前まで間違えるか?」

……「姐さん=静垣さん」ってどういうことだよ。ってか、あの人のあだ名は「兄さん」であるはずで、爽はあの人のことを呼び捨てにしていたはずだ。というか、そもそも姐さんの名前が"爽"じゃないとは一体……

「……えっ……、君の名前は"爽"じゃ……」

『……何言ってんだよ。"ソウ"だよ、ソウ。気分爽快のソウ

……"ソウ"だって⁉︎ その読み方は、先生センセに「人の名前が読めなかった場合は音読みすれば失礼に当たらない」と教わるまで嫌がっていたはずじゃないか?……

『それより、お前から電話してくるなんて何かあったか?』

「いや、君から俺に留守電がされてたんけど……」

『あぁ、マッキーからちょっとした呼び出し。どうやら今度アキちゃんのツテで、フロ女の女の子たちと合コンできることになったらしい。だから、その戦略会議があるらしくて。出るかどうかはともかく、一度集まろうってことらしい。とりあえず、用件としてはそれだけ。じゃあな』

「待って、本当に君は『さやかちゃん』じゃないの?」

『……あぁん? 本当に目ぇ覚ませよ、夏也。いつまでも寝ぼけてっと、マッキーからお呼びがかかんなくなるぜ。しっかりしろよ、サブリーダー』

そう言うと、「ソウ」と名乗った少年は電話を切った。

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