3:留守電

 物色の痕跡を片付けていた俺は、ふと学習机のほうに目をやった。

すると、天板の上に置かれていたケータイのランプが明滅していることに気が付いた。

「何だ?」

俺は学習机に歩み寄ると、ケータイを手に取った。

弾くように蓋を押し上げると、画面に「留守番電話1件」という表示が出た。

……留守電って、誰からだよ……

時計表示で今が14時であることもついでに分かった。ということは、どうやら俺は、昼飯を食った挙句に午睡シエスタを決め込んでいたらしい。

電話のアイコンを選択すると、すぐに電話の相手が特定できた。留守電の発信者は賢木原爽さかきばらさやか。俺のチームのリーダーだ。

とは言え、姐さんが俺に直電してくる理由に心当たりはなかった。そこで、とりあえず留守電を聞いてみることにした。

再生ボタンを押すと、『留守電を1件再生します』という自動音声のあと、すぐに留守電の内容が再生された。

『もしもし。夏也ナツヤ? こいつ聞いたら折り返してくれ。こっちはいつでも出れるから』

 俺は全身が粟立つような感覚に襲われた。なぜなら、電話の声は聞き覚えのない少年の声だったからだ。

姐さんは俺たちのチームでは紅一点、つまり、唯一の女の子だ。確かに彼女には男きょうだいが5人いるが、兄であるひろしさんは、いかにもという好青年ボイスだ。一方、弟組は皆幼く、一番歳の近い龍太郎りゅうたろうくんでもまだ11歳。そろそろ声変わりを迎えてもおかしくない年頃だが、姐さんは「声変わりの『こ』の字も来てない」と笑っていたはずだ。

それに、実際に声変わりを経験した身としては、一旦声が変になる時期があるから、突然なったとしてもすぐにあんなクリアな声になるとは思えない。

つまり、あれは誰かが姐さんの番号からかけたなりすましなのだろう。

 ……しかし……

仮にあれがなりすまし野郎からの電話だとすると、姐さんはケータイを失くしていることになる。気の強い姐さんの場合、自分のミスとは言え、ケータイを失くしたとしたら、自分の迂闊うかつさに腹を立てた挙句、動かせる知り合いを総動員してまで失せ物探しをするだろう。ということは、相手はなりすまし野郎ではないと考えたほうが良いだろう。

……だとすると、どういうことだ?……

姐さんは、中学からの同級生の海津見流わだつみながると交際中で、彼も姐さんを女性として丁重に扱っている。ということは、姐さんはストレートであって、FtMのゲイではないはずだ。しかし、電話の声は少年のそれだ。

……一体、何がどうなって……

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