1:妹⁉︎

 がさり、という物音で俺は目が覚めた。

……あれ? 今何時だ?……

目覚まし時計を手繰り寄せようと薄目を開けた時、部屋の中に誰かいるのが分かった。

俺の収集物コレクションを熱心に漁る後ろ姿は、まるで俺自身のようで。とは言え、どこか俺とは身のこなしが違うので、これは俺が寝ぼけて見ている幻覚ではないのだろう。

「……あきか? 勝手に俺の収集物漁るんじゃねぇ」寝起きとは言え、俺は妹に注意を入れた。

「あぁ。ごめん、夏兄なつにい。起こした?」妹の声は声変わりを済ませて深みを増しつつある少年の声だった。

「……秋……、"秋美あきみ"だよな?」俺は恐る恐る"妹"と思しき少年に声をかけた。

「"秋美あきみ"って誰だよ、夏兄。おれは弟の秋美アキヨシだよ」

その瞬間、俺は全身の血の気が引くのを感じた。

秋美アキヨシ"って、どういうことだよ……。

「……何言ってんだよ。お前、本当は"秋美あきみ"だよな。兄ちゃんを揶揄からかうのもいい加減にしておけよ」

「その言葉、そっくりそのまま返させてもらうよ、夏兄。だから、"秋美あきみ"って、誰さ?」

「お前のことだよ。俺の妹‼︎」

「本当に何言ってんだよ、夏兄。家に女きょうだいなんて1人もいないじゃん。はる兄、夏兄、おれ。絵に描いたような分かりやすい3人兄弟」

「はぁっ⁉︎」思わず大きな声が出た。

俺のきょうだいは女ばかりで、2歳上の姉・春子はること1歳半違いの年子の妹・秋美あきみのはずだ。

「おい、秋。本当に何言ってんだよ。俺らの一番上は春子って言って、頼りになる素敵な姉だ。それでもってそのすぐ下が俺、夏也なつや。優しくてイケメンのお兄ちゃんだ。それで一番下がお前、秋美あきみ。生意気で時には腹立たしい時もあるけど、俺にとってはかけがえのない妹だ」

「ふふ。『優しくてイケメンのお兄ちゃん』なんて自分で言うか、フツー。だけど、"春子"と"秋美あきみ"って、誰さ?」

「は? 本当にお前、何言って……」

「それより、夏兄。こっち返して、続き借りてくかんな!」と、"秋美アキヨシ"は何かを掲げた。

「……あっ、スカスパ……」

秋美アキヨシ"の手に握られていたのは、『スカイ=スパークル』というファンタジーRPGのパッケージだった。このゲームは、兄さんが「面白い」と進めてきて、俺らの中でバカ流行りしている。今年新作が出るらしい、ということもあって、今は一所懸命過去作を追っているところだ。

「夏兄がコソコソ楽しそうにやってるから、何のギャルゲーかと思ったら、正統派のファンタジーRPGじゃん。面白いから、続き借りてくわ」

「……おう。……けど、その続きはまだ俺が攻略中だかんな。追いついちまったら、待ってくれよ?」

「分かってるって。それじゃあ」

そう言うと"秋美アキヨシ"は、パッケージ片手に颯爽と俺の部屋から出て行った。

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