思い通りにならない世の中

ゴハリとデリシャスの間で交わされた約定により

顔の無い使用人フェイスレスの起こした問題の賠償金は全て

顔の無い使用人フェイスレス持ちとなった事を

顔の無い使用人フェイスレス【金の淵】支部長に伝えた。


「はぁ? ふざけてるの?」

「構いませんよ」


副支部長が苛立ちながら喋るのを止めて支部長が了承する。


「・・・・・ごねると思ったぞ」

「いえいえ、 しかしながら当方にはお金が有りますが

手元には御座いません、 そこで手形での支払いになりますが

宜しいでしょうか?」

「手形?」


首を傾げるゴハリ。


「えぇ、 手形取引です、 現在は手元にお金が無いので・・・」

「小切手の様な物か?」

「そう考えて貰えると分かり易いですね」


この時、 ゴハリは大いに勘違いをしていた。

小切手も手形も手元に金が無い場合に支払いに使用できる。

銀行に持ち込めば、 銀行は振出人の口座から決済を行い金を手に入れられる。

だがしかし、 手形は期日を過ぎなければ現金化は不可能なのであった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


画して手形取引で顔の無い使用人フェイスレスから賠償金を手に入れた

ゴハリだったが、 ゴハリは現金での支払いを行わなければならない。

ゴハリには手形取引や小切手取引を出来るだけの信用は無いのだ。

だがここでデリシャスの策謀が炸裂。


デリシャスは手下に顔の無い使用人フェイスレスの恰好で

商品の強奪をして貰う事で商品を捌く事に成功。

こうする事でデリシャスは需要と供給は自分で回す事が出来るのだ。

ゴハリも当然それは無いだろうと詰め寄ったが

顔の無い使用人フェイスレスは覆面をして個人特定が出来ないので

ゴハリは何も出来なかった、 結果として手形を貰ったが

ゴハリの手持ちの現金はどんどん消えていったのだ。


「20日を過ぎれば・・・何とかなる!!」

「しかし後10日以上ありますよ!?」

「黙れぇ!! こっちはもう後には引けねぇんだ!!」


賄賂は既に受け取っている、 ゴハリは文字通り

止まれなくなってしまったのだった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「支部長、 一体如何言うつもりですか?」


一方、 顔の無い使用人フェイスレス【金の淵】支部では

副支部長と支部長が話し合っていた。


「組織運営については貴女は考えなくて良い

貴女に求めるのは戦闘能力だけです」

「・・・・・それは如何言う意味ですか?」

「私は貴女の顔は知りませんし個人情報パーソナル

知りません、 知っている事は貴女が【拝火】の魔法使いと言う事と

組織運営には関わらせないでくれと言う指示だけです」

「指示? 誰からの?」

上から・・・のです」

「上って? パロット様?」

「何を仰いますか、 パロット様は私達の意見に賛同してくれているだけであって

私達と上下関係には有りませんよ」


穏やかに言う支部長、 きっと覆面の下は穏やかな笑顔なのだろうと推測できる。


「・・・・・失礼する」


副支部長は去って行った。



副支部長であるライムは今年30歳になる【拝火】の魔法使いである。

元ソロの冒険者で、 雇われてパーティに参加すると言う形式で生計を立てていた。

同じく気になっているソロ冒険者の戦士が居た。

何度も雇われている内に気になって来て28歳ごろになったころ

結婚を意識し始める様になった

だがその戦士は怪我を理由に引退して故郷に帰ってしまった。

故郷に帰った彼を追いかけたが故郷で戦士は幼馴染と結婚していた。


気が付くとその戦士の故郷に放火していた。

戦士の活躍により誰も死ぬ事は無かったがライムはお尋ね者になってしまった。

そんな折に彼女は顔の無い使用人フェイスレスに拾われたのだった。


自分がこうも落ちぶれたのは『結婚しなくてはならない』という常識が

焦りを産んだ、 と彼女は判断し、 女性の社会進出の為に

とこの活動に参加したのだが


「碌な奴が居ねぇ・・・」


自分の様な冒険者崩れならまだ良い方。

家事手伝いと言う名目の無職、 犯罪自慢をするろくでなし。

女性目当ての軽薄な男、 ヤバイ宗教勧誘。

ハッキリ言ってクズの集まりである。


「こんなんで社会を変えられるのかよぉ・・・」


とは言え現在彼女はこんな事をしなければならない立場である。

何せお尋ね者である、 王国法では放火は死刑。

未遂でも死刑、 放火は重罪である。


「あ、 副支部長、 ちょっと良いですか?

クリュリュラさんが帰って来なくて・・・」


構成員の1人が話しかけて来る。

クリュリュラはカップルにぐちゃぐちゃ言っているだけで

何の能力も無いのに割と顔の広いおばさんである。


「またどうせその辺ほっつき歩いてるんでしょ」

「でも、 心配ですよ」

「気にしないで良いよ、 ほっとけほっとけ」

「でも最後に見た時に絡んだ相手は冒険者のカップルで・・・」

「別に冒険者だからと言って殺されている訳じゃないでしょ

馬鹿馬鹿しい、 私は寝るから」

「あ、 ちょっと・・・」


ライムは自分の部屋に戻って行った。


「副支部長はサボってばっかりね」

「ほんとほんと、 真面目にやって欲しいわ」

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