顔の無い使用人

ダイアンはダミアンに事情を離した。


「なるほど、 それは確かに良くないね

彼には適切に処理・・しよう」

「兄上、 御待ちを」


ナイと制する。


「何故止める?」

「【スワン家】の方々に恩を着せてこき使う事にしましょう

奴等には自分の墓穴を掘って葬儀の手配をさせた後に

骨までしゃぶるとしましょう」

「・・・・・お前は私より残酷だな、 まぁそれで良いだろう

細かい事は任せる」

「はっ」

「それから父上、 もう一つ聞きたい事があります

母の死についてですが」

「・・・・・」


ダミアンは目を見開き血涙を流し始めた。


「確かに君には教えておくべきだった・・・だが

私には彼女の死について語るのはとても辛い」

「でも私は知りたいんです」

「・・・・・」


ダミアンは血涙を拭い、 立ち上がりダイアンの傍で静かに

だが威厳を持って言った。


「憎悪の毒は君が浴びられる物ではない、 君が20歳になってから語ろう」

「・・・・・」


ダイアンは何も言えなかった。

余りにも父親が真剣だったからだ。

真剣の刃に触れる事は少なくとも彼女には無理だった。




ダミアンは部屋を去って行った。

ナイも後を追った。


「兄上、 八つ当たりで【スワン家】壊滅は止めて下さいよ」

「・・・・・じゃあ八つ当たりできる所を教えろ」

「するんですか、 八つ当たり、 冗談だったのに」

「お前は人を憎んだ事が無いのか?」

はい・・

「はい!?

・・・・・まぁ良い、 じゃあ八つ当たり出来る所を教えろ」

「全体的に治安が悪化して来ていますから

直ぐ近くの街あたりで何か起こると思いますから

暫くお待ちを」

「治安の悪化? 何故?」

「腕利きの【右道】の魔法使いを集めたからですね」

「やはり我々が治安維持しないと駄目なのか・・・」

「いや、 実は最近妙な団体が出て来ましてね」

「妙な団体?」

顔の無い使用人フェイスレスと言う団体を知っていますか?」


ダミアンの足が止まった。


顔の無い・・・・? もしやあの伝説の大邪神・・・・・・と関係が?」

「いえ、 覆面を被った政治主張をしている風に見せかけて

強盗や迷惑行為を行っているだけの連中ですね」

「覆面ってだけで犯罪集団だろう、 何で検挙しない」

「スケッチ侯爵が支持しているらしく・・・」


スケッチ侯爵は当代のパロットになってから女性の社会進出等を

積極的に取り上げ支援している。

彼女は善人で悪意無くやっているが

彼女の権力を悪用して手下が好き勝手するのに

何も言わないので彼女の事を煙たがっている者は多い。


「パロットね・・・やはり女に侯爵家を継がせるのは間違いだったのでは?」

「継げる者が居なかったので・・・兄上もダイアン嬢の他にも

子を作る必要が有りますので再婚を」

「婿養子に継がせるさ」

「さいですか・・・」

「まぁ良い、 パロットに面会を求めるか」

「面会で済み・・ますか? 侯爵ですから下手をすれば」

「パロットを嫌う貴族も居るだろう

侯爵とは言え殺されても仕方ないと思う奴の方が居るだろうさ」

「分かりました、 直ぐにパロット侯爵に面会の申し込みを取ります」

「うむ」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


商業都市【金の淵】。

この街の守護をしていた【右道】の名家ゴルド家と側近が居なくなった事で

後を任された【右道】の魔法使いゴハリは顔の無い使用人フェイスレス

癒着し彼等の狼藉を見過ごす代わりに賄賂を受け取っていた。

【金の淵】は暗黒期に入った、 様に思われていたのだが・・・


「ゴハリさん!! もう金が無いですよ!!」


部下からの知らせにゴハリは【右道】の詰め所にて頭を抱えていた。

何故賄賂を受け取っていた彼がこうも頭を抱えているのか。

大して深くもない事情が有った。




3日前、 若き女商会会長デリシャスと対談したゴハリ。


「デリシャスよ、 何故私がここに来たか分かるか?」


デリシャスの館に護衛を引き連れてやって来たゴハリは淡々と述べた。


「これはこれはゴハリさん、 先触れも無しに何か有ったのですか?」


デリシャスはにこやかに尋ねた。


「貴様の部下がした事について話が有る」

「部下? 何処の誰の事ですか?」

「恍けるな、 馬車で服飾を運んでいた者だ」

「じゃあベーバックさんですね、 彼が何か?」

「彼の馬車の護衛が顔の無い使用人フェイスレスに怪我をさせた」

「あぁ、 そう言えば馬車の帰りに覆面強盗集団に襲われたと言っていましたね

被害届は既に提出しております」

顔の無い使用人フェイスレスは抗議をしていたんだぞ?」

「抗議ですか? 危うく商品に傷が着く所でした

彼等は強盗団ですよ」

「彼等は女性の社会進出の為に行動しているんだ

ドレスや華美な服飾は女性を男性の付属品に貶める」

「でしたら、 買い占めて捨てるのが宜しい

奪われたらこちらに被害が出るじゃないですか」

「反省の色が無い、 拘束しろ」

「令状は?」


にこやかにだが端的に述べるデリシャス。


「令状? そんなもの要らんな、 この街では私がルールだ」

「王国法では必要ですし、 ゴルド家から書状も受け取っています」

「・・・・・は? 書状?」

「はい、 これです」


デリシャスは書状を渡した。

書状の内容は要約すると

『ゴハリが誤った行動を取った場合には正し補助する事』とある。


「・・・・・」


ゴハリは汗を流し始めた。


「こ、 これが本物だと言う証拠がない」

「血判状ですよ」

「・・・・・」

「・・・あのー、 ゴハリ様、 無視してやっちまった方が」

「黙れッ!!」


護衛の一言を黙らせるゴハリ。


「あの人の顔を潰したら間違い無く殺される・・・」


ガクガクと震え始めるゴハリ。

ゴルドは【黄金都市】に近い場所に配置されている【右道】。

当然ながら実力もさる事ながら徹底さは知られており

皆から恐れられていた。


「あの方怖いですからねぇ、 とは言えゴハリさん

貴方も侯爵のお遊びに付き合わされてるんでしょう?

お気持ちはお察しします、 それで如何でしょう

顔の無い使用人フェイスレスが問題を起こしたら

【右道】で損害金を払う、 と言うのは?」

「そ、 それでは私の金が減るでは無いか!!」

「後で支払った分のお金を顔の無い使用人フェイスレスに請求すれば良い」

「・・・・・」


確かにそれならば問題無いか

と深く考えずゴハリは同意した、 弁護士立ち合いの元

正式な書類にしてしまったのだった。

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