蠢く者共と鵞鳥の首

沙羅双樹は全力で【金の淵】に帰還した。


「ぜぇ・・・ぜぇ・・・がはっ!!」


血を吐き出して倒れる沙羅双樹。


「おい!! 大丈夫か!?」

「商会まで運んでくれ・・・」

「まずは病院に」

「魔法の反動だ・・・医者にもどうこう出来ない・・・」

「そ、 そうか・・・」


沙羅双樹は商会に戻りデリシャスの前にやって来た。


「おや、 沙羅双樹、 命の前借アドヴァンス・ローン使ったのか」

「はい・・・」


命の前借アドヴァンス・ローンは自身の命を使用して

魔力を含めた全能力を強化する魔法である。

【耳長】の魔法だが【古式】からの発展途上で生まれた魔法でもあり

リスクが尋常じゃ無く高く、 使う者は稀である。


「ゲホッ!! ガハッ!!」

「・・・・・相当消耗しているな」


命を使用する事により得られる力は跳ね上がるが

無茶な強化をすれば肉体に跳ね返って来る。


「はぁ・・・はぁ・・・件の二人の実力は大鵞鳥を倒し

男の方は例のハイエナの日曜日の使者サンデー・モーニング達の内

2人を容易く倒しました・・・・・」

「それは凄いな・・・件のハイエナは3人だった筈では?」

「えぇ・・・遠くから監視している【耳長】・・・

ゲホッ・・・女の方が物凄いスピードで向かって来て・・・」


ガタガタと震える沙羅双樹。


「恐ろしくなって逃げてしまいました」

「そこまでの強者か・・・ふふ・・・」


デリシャスは笑った。


「関わりになるのですか・・・? 危険では・・・?」

「危険ね・・・沙羅双樹、 感じない・・・・?」

「・・・・・何がですか?」

「私はビンッビンッに感じるわ!!

この街を含めて各地の【右道】の腕利きが王都に集められている!!

どういう事か分かる!?」

「・・・・・魔王領への大攻勢?」

「・・・いや、 それは無いでしょ」


大気圏外よりも高く上がったテンションが一気に下がるデリシャス。


「確かに人間と魔王との戦争は長く続いているけども

現状、 互いに切羽詰まっている訳では無い

魔王側も人間側も無理に攻め入る事は無い」

「・・・・・じゃあ何故?」

「分からん、 分からんけども武力を集めると言う事は

近々何らかの大規模な戦争が起こるだろう!!」

「・・・戦争好きでしたっけ?」

「別に? ただ、 戦争に需要が生まれ

需要は供給を欲し、 供給は金になる!!」

「・・・・・そうッスか・・・」


ぺっ、 と血を吐く沙羅双樹だった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


白樺と黒檀の交差路は全力で逃げていた。

悪態すら吐けない。

矢は放っても当たらないと分かる位は素早い。

【耳長】の魔法は森で暮らす者達の魔法。

弓矢の技量の強化は勿論、 草木に対しての干渉等

全力で木々を操ってアーケアスを妨害しているが

まるで効果が無い。


(命の前借アドヴァンス・ローン・・・

いや、 違うな、 巣の身体能力だな

全盛期のリヘルタですらこうはならなかったぞ・・・

化け物か・・・仕方ない)


白樺と黒檀の交差路は徐々にスピードを緩めて行った。

自然に自然に、 疲労から足が遅くなったように見せかけて

徐々に、 徐々に距離を詰めさせ遂に触れ合う距離まで言った所で振り返り

白樺と黒檀の交差路はアーケアスの顔面を掴んだ。


蠅あらん事をブレッシング・ベルゼバル!!」

「!!」


捕まれたアーケアスはのけぞり白樺と黒檀の交差路は手を離した

だがアーケアスの顔は腐敗し崩れ始めた。


「良し、 これで」


アーケアスの頭はゴロっと落ちた。


「・・・は?」


アーケアスは即座に両手で白樺と黒檀の交差路の両手首を掴み拘束しながら

新しい頭を生やした。


「驚いた、 不意を突かれたのは久しぶりだ」

蠅ある揺り籠クレイドル・ベルゼバル!!」


白樺と黒檀の交差路の両腕が歪に膨らみ始めた。

即座にアーケアスは両腕を引き千切り

引き千切った腕は爆発した。


「腐敗させてガスを発生させての自爆か」

転移ジョウント!!」

「!!」


転移の魔法で逃げられてしまった。


「・・・・・」


アーケアスは黙ってそこらの木をなぎ倒した後に

【ゲッシュ】の元に戻って行った。


――――――――――――――――――――――――――――――――


「逃げられた、 か」

「本当にごめんなさい」


アーケアスが帰った時、 まさか逃げられるとは予想外。


「しかし転移ジョウントか・・・」

「転移魔法とか有るんだなこの世界」

「無いと言っても差し支えないよ」

「どういう事?」

転移ジョウント、 そしてベルゼバル・・・

ベルゼバルって言うのは【左道】の魔法使いが信仰する神格の一つだよ」

「【左道】?」

「そう主に魔王や魔物達が使う【右道】と対を成す黒魔術

・・・と【右道】は言っているが実際の所は良く分からない」

「分からない?」

「師匠の受け売りだけどね

『【右道】も【左道】も箱の中に魔法をごっちゃ混ぜにしてるだけ』」

「何それ?」

「【右道】はそれっぽく体系化してあるように見せているけども

とある地方の魔法を集めて、 或は他の流派の魔法の良い所を取って

流派っぽく見せかけているだけ」

「確かに【右道】の魔法は幅広いね、 物探し、 回復、 修繕etc・・・」

「【左道】も似た様な物でね、 広い土地の神々の信奉を混ぜ込んで

一緒くたにしている」

「なるほどね・・・じゃあ逃がしちゃ不味かったかな?」

「大丈夫じゃない?」

「何故?」

「人間と魔王の戦争は長く続いている割に一行に進展しない

言う程、 物騒じゃないって事さ」

「なるほどね・・・もう周囲に人は居ないし大鵞鳥持って帰ろうか」

「そうだね」


大鵞鳥を背負うアーケアス。


「しかしこれだけ大きい鵞鳥だと首も大きいね」

「? ・・・そうだね?」

「うん? 鵞鳥の首嫌い?」


アーケアスが尋ねる。


「嫌い? うーん・・・鵞鳥の肉は食べた事有るけど首は無いかも」

「鵞鳥の首を喰わないで鵞鳥食べてたの?」

「買うとしても精肉された肉を買ってるし・・・」

「・・・・・」


ニッ、 とアーケアスが笑った。


「じゃあ私が故郷の料理を作ってあげるよ」

「それは楽しみだ」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る